霞が関から見た永田町

霞が関と永田町に関係する情報を、霞が関の視点で収集して発信しています。

MENU

泰明小学校の8万制服をキッカケに学校制服の実態に切り込むべき

 

 

 

 

国会でも一躍有名になった公立小学校「区立泰明小学校」(東京都中央区)。北村透谷、島崎藤村などを排出した、公立小学校ながら名門校である。銀座に立地する名門校はいえ、公立、しかも小学校である。

 

 その学校が標準制服として、高級ブランド「アルマーニ」を導入する予定といい、その価格が8万円も超えることから、その価格の高さに驚いた人も多かっただろう。

 

 このニュースは一気に全国を駆け巡った。泰明小学校の件は学校制服の価格のあり方、そしてそもそも制服の是非を考えるキッカケにしてもいいのではないだろうか。

 

 そこで、2回に分けて論考してみたい。今回はまず、価格である。実は学校制服の価格が高いのではないかという議論は地方議会では度々、取り上げらえるテーマであり、ここ数年は新聞メディアなどの報道も目につくようになってきた。

 

 

2016年ころから制服が高いという報道相次ぐ

 

 価格が高いか、安いかはかなり主観的な話になるため、ここではその議論には踏み込まずに、価格を抑える方法がないのかを考えたい。それと就学援助の仕組みである。後述するが、この就学援助の仕組みがあまりうまく設計されていないため、制服の購入に困難を抱えている家庭が存在するのも確かである。「政治は弱者のためにある」のだとすれば、まだ目が行き届いていない部分があると言っていいだろう。

 

 学校制服の価格に関する新聞報道が目につくようになり始めたのは2016年ころである。同じ自治体の中でも、同じブレザー、同じ詰襟、同じセーラー服でも、価格差があるという報道だった。例えば北海道だと1万円、相模原市だと2万円の価格差があったことが民間の調査で明らかになっている。

 

 

自治体が実態を把握していないワケ

 

 学校制服の価格については、多くの自治体は実態を把握してない。学校制服はあくまで「各学校が定めて、取次業者と決めている話」というスタンスだからだ。確かに学校制服は法律で位置付けているわけではなく、あくまで標準服という位置付け。したがって自治体はそれ以上は介入できないという考え方なのだろうが、同調圧力が強く働く日本社会において、標準服は実質的に強要される。

 

 せめて自治体は学校制服の価格差が何によって発生しているのか、その改善に知恵を出すべきだろう。

 

 

公取の調査で明らかになった問題点

 

 こうした現状を踏まえて2017年、公正取引委員会は学校制服の調査を実施している(

平成29年11月29日)公立中学校における制服の取引実態に関する調査について:公正取引委員会)。全国1万校の公立中学校から600校を抽出し、調査を行った。

 

 そこで明らかになった点がいくつかある。取次業者と価格交渉をしている学校と、してない学校に分かれていること。価格交渉している学校はしてない学校に比べて平均で、3000円ほど安くなっていた。次に販売店の数だ。取次業者が1つしかない学校と、複数ある学校で比較すると、約1800円の価格差があった。当然、複数の取次業者がある学校の方が学校制服は安くなっている。

 

 そしてもっとも価格差が大きく開いたのは、デザインの統一である。実際にやっている自治体は少ないが、自治体内の学校制服を統一しているところがある。そうした自治体の学校制服は他の自治体に比べて、8800円ほど制服が安くなっている。

 

 

やるべきことをやるだけで価格は下がる

 

 ここから導き出されることは、(1)学校が価格交渉をし、(2)複数の取次業者を持ち、(3)デザインを統一すると、制服の価格は最大で約1万5000円ほど安くなるということだ。もちろん、自治体内のすべての学校の制服を同じにするというのは、現実的ではないため、(3)の選択はオプションとしても、(1)と(2)だけでも価格は下がる。

 

 公正取引委員会は調査結果をもとに、7つの取り組みを提言している。公正取引委員会の提言によって状況が改善されればいいが、本来、この辺は自治体がもう少し踏み込んでもよかったはずだ。制服の価格が地域内でも相当にバラつている状況を自治体が把握していないというのは、中学校が義務教育ということを考えれば、疑問符をつけざるを得ない。

 

 自治体の、制服に対するスタンスが如実に現れるのが就学援助問題である。就学援助は申請が通れば、給食費や学用品などを自治体が支援する制度で、小・中学生の6人に1人はこの制度を利用しているとされる。自治体によって援助の対象や支給対象の基準は異なるが、概ね、年収400万円未満とされている。

 

 問題はこの就学援助が支給されるのが6月、7月と新年度が始まって数ヶ月後、という点にある。特に中学校に上がった時には、何かと物入りとなる。制服の購入にはじまって、カバンなど、まとまったお金が必要となる。中学校の制服が高い、という議論が常に起きるのは、就学援助の支給時期の問題が根っこにはある。

 

 

国会がワイドショーになってはいけない

 

 国会では、「泰明小学校の制服が高い」という表面的な議論に終始するのではなく、同じ自治体内でも価格差が生じていること、そこに適切な価格競争が働いていないこと、基礎自治体の関わり方、就学援助制度のあり方など、もう少し踏み込んだ議論ができるはずだ。ぜひ、野党にはそういう視点を持って国会論争に臨んでもらいたい。1つのわかりやすい学校を取り上げて「高い!」というのはワイドショーだけで十分である。