霞が関から見た永田町

霞が関と永田町に関係する情報を、霞が関の視点で収集して発信しています。

MENU

毎月勤労統計の不正問題は官僚組織の疲弊の表れか忖度の果てか

 

 

 

担当者は不正を認識していた

 

 毎月勤労統計の不正問題について、2013~15年当時の厚生労働省の担当課長が不正な抽出調査が行われていることを認識していたようだと報じられている。

 

this.kiji.is

 

 

 この担当課長の下で、毎月勤労統計に関する調査手法を示した要領から不正に関する記述が削除されていたことは、先ごろの特別監察委員会による報告書でも指摘されていたことだが、担当課長自身がどうやら不正の存在を認識していたようなのだ。
 少なくとも歴代の担当者の中で、調査方法に問題があるのではないかと思った人物が一人はいたということになりそうだ。

 

 

自らの仕事を確認しないのか

 

 ところで、今回の不正問題にかかわり、日本の公共機関における統計に関わる専門人材の不足が指摘されている。

 

www.jiji.com

 

 

 統計の専門家を雇用しているわけではなく、人事ローテーションの中で統計部署に配属されただけという人が統計を担当しているのが実態であり、その人員の数も少ないということだ。
 これは日本の公務員制度における課題と言えるが、このようなまとめ方をすると、今回の問題を見誤る。

 

 2013~15年当時の厚生労働省の担当課長が不正な抽出調査が行われていることを認識していたと報じられているわけだが、その担当課長はどのようにして不正の存在を認識したのだろうか。

 

 そこには特に謎はないだろう。簡単な原理である。
 おそらく、その担当課長は統計法や前任者からの引継ぎ資料、その他に確認出来る情報にあたることで、新たに担当することになった毎月勤労統計について調べたはずだ。その過程で、統計法では調査方法の変更などにあたっては総務省の承諾が必要なことや総務省の承諾を得ずに厚生労働省が抽出方法の変更を行ったことを認識したと考えるのが合理的だろう。


 それでも、前任者から引き継いだ以上は、その問題点に目をつぶり、そのまま漫然と不正状態のまま仕事を続けたということなのではないだろうか。
もちろん、統計の専門人材を配置することは必要ではあるが、今回の不正はそもそも統計の専門知識が必要とされるほどに高尚な問題ではない。法律に定められたとおりに手続きを行うのか否か。すべての公務員の仕事のあり方に関わる問題であるのだ。

 

 

不正に気付かなかったのか・気付かないふりをしたのか

 

 2013年時の厚生労働省の担当者が不正に気付いていたのであれば、その前後の担当者も不正を認識していた可能性がある。むしろ、不正に気付かなければならなかったと言える。というのも、不正に気付かなかったということであれば、自分自身の業務について何の確認もしなかったということになるからだ。

 

 「統計の不正は府省の仕事のあり方の問題である」と先日も指摘した。

www.ksmgsksfngtc.com

 

 

 不正を認識しながら、それを上司に報告するわけでもなく、そのまま放置し、次の担当者に繰り越す。そういうことが行われていた可能性があるということで、官僚の劣化ここに極まりと言えよう。

 

 ただし、問題はもっと根深いように思う。

 

www.facebook.com

 

 

 これは民主党政権時に内閣官房副長官を務めた松井幸治氏のエントリである。
 国会対応などの仕事が増大し、「各省庁の本来業務に割ける人員がとても薄くなっている」と指摘している。そして、「「公共人材強靭化」こそ、早急に取り組まなければならない課題」とまとめている。

 

 法律や大臣の指示をなかば無視し、不正があっても気付かないふりをせざるをえないほど、官僚組織は疲弊している。そういうことなのだろうか。

 

 

忖度への誘惑

 

 野党は、アベノミクスの成果を偽装するために、統計でも不正を働いたという方向から、政権批判を行っている。実際に、そう思われても仕方がない修正を厚生労働省は行っている。
 4日の予算委員会で質問に立った立憲民主党・無所属フォーラムの小川淳也議員、さらに5日に質問に立った国民民主党の玉木代表や階猛議員がアベノミクスの成果を良く見せるために統計に操作が加えられていた可能性を鋭く追及した。
 各大臣の答弁はまるで答えになっておらず、かえって、政権に忖度して統計の数字を操作したという疑惑の方が強まったように思う。

 

 ただ、もうひとつの可能性をあげておく必要があるだろう。

 

 もともと、毎月勤労統計調査の不正は現在の安倍政権よりも前から行われていた。
 そういう中で、統計が示す指標はアベノミクスの成功を裏付ける内容だったということだ。しかし、一方で、その統計には間違いがある可能性があった。こういうときに、「統計には誤りがあります」と厚生労働省は言い出せなくなってしまったのではないだろうか。
 アベノミクスの成功を裏付けるために統計の偽装を行ったという可能性も国会審議での野党による追求で浮き彫りとなったが、成功を裏付けているので間違いを正せなくなったという側面もあるのではないだろうか。

 

 誰しも自ら間違いは認めたくない。日々の業務に忙殺されれば、間違いなど目をつぶって、次の担当者に送ってしまう誘惑に駆られることだろう。さらに、官僚組織であっては、間違いを認めれば政権へのダメージにつながると思えば、さらに間違いを明らかにする動機は失われる。それこそ、政権への忖度の誘惑にも駆られるのだ。

 

 不正に気付かなかったとしたら、それはそれで問題であるし、不正に気付かないふりをしたとしても問題である。
 問題山積の官僚組織。担当者の国会招致は拒否するというのが安倍政権の姿勢であり、ここ数日の予算委員会でも大臣の答弁もはぐらかしに終始している。既に予算委員会では野党が鋭くこの問題に切り込んでいると思うが、粘り強くそれを続け、官僚組織の病理に深く切り込んでいって欲しいところだ。