揺らぐ第三者による「調査」
毎月勤労統計の不正問題について、外部有識者による特別監察委員会の調査報告がなされたところだが、その第三者性に疑念が生じる事態となり、調査のやり直しが検討されている。
当初、特別監察委員会の調査は第三者によるものとして、その調査結果は、厚生労働省の組織的な隠蔽は認められないとするものであった。調査は第三者が行ったものであり、厚生労働省としては組織的な隠蔽はなかったと第三者に認められたと主張してきたところであるが、その調査に厚生労働省の幹部が関わっていたことが明るみとなり、事態は大きく変わろうとしている。
そもそも厚生労働省の幹部が関わっていたのであれば、それは内部調査であり、その結果を根拠に第三者によって組織的な隠蔽は認められなかったと判断されたと主張するには無理が生じる。
国民を欺く「調査」
報道によれば、特別監察委員会による調査とされていたものの7割弱は、厚生労働省の職員のみにより行われていたようだ。つまり、第三者による調査どころか、第三者は一人も介在しない調査が行われ、それが第三者による調査だと「偽装」されていたのである。
これではもはや外部有識者によって組織された特別監察委員会による調査ではなく、厚生労働省による内部調査である。
もちろん、厚生労働省で発生した問題に対して内部調査を行うこと自体は否定されない。特に、今回の不正の場合は内部での処分も想定されることから、内部調査も必要とされることだろう。
問題は、そういう内部調査と第三者による調査を混同させてしまうことである。
あたかも第三者が行ったかのように偽装して、実際には職員による内部調査であったというのだから、それは国民を欺く行為である。
再調査にもコストがかかる
国民を欺く調査の実態が明らかとなった。そうである以上、真相解明のためには再調査が必要とされるところであるが、それにはコストがかかることを忘れてはならない。一度で済んだであろう調査に、あらためて人員と時間を割く。そのコストは税金で賄われることになる。
毎月勤労統計に限らず、その他の基幹統計でも間違いが見つかっており、それらの修正にも必要となり、場合によっては追加に何らかの支給を行わなければならなく可能性もある。この時点で追加のコストが発生することになるわけだが、今度は何が間違っていたのかの調査でも改めて間違いを犯したため、再度の調査ということになり、また追加でコストが発生することになるのだ。
最初は職員の単純なミスだったかもしれない。しかし、その後の対応は全て後手に回っている。今回の特別監察委員会による調査も、きちんと第三者による調査をすれば良いにもかかわらず、何か都合でも悪いことがあるのか、職員による調査を行って、それを第三者による調査と偽る。もはや末期的と言って良い体たらくだ。
それらにかかわり生じる全てのコストは税金によって賄われる。痛むのは国民の懐であって、官僚の懐ではない。
国民民主党の原口一博議員は、「厚労省になめられた」と憤った総務官僚がヒアリングから消えたので、総務省の官房長を呼んで、その職員を大事にするように伝えたところ、あらためてその官僚がヒアリングの場に出てくるようになったというエピソードを紹介している。
総務官僚だけではなく、国民も厚生労働省の官僚に、なめられているのである。
官僚による不正のコストは誰が負担するのか。このままでは、結局そのコストは国民が負担して終わりである。
早速、与党に近いところからは、「民主党政権の時にも起きていた問題だ」と責任の所在を有耶無耶にするコメントや「厚生労働省が悪い」と問題を限定させるコメントも出始めているようだが、問題は、過ちを犯しても正そうとせず、過ちに関する調査すら偽装し、発生するコストの負担もしない。そんな「なめた」官僚たちの実態である。
森友・加計問題も根はつながっている
昨年の国会では森友・加計問題が連日取り上げられていた。結局、両問題は有耶無耶になってしまったが、その問題の根は今回の統計の不正ともつながっている。
誰がどの仕事をどのような根拠で行ったのか、事後に確認出来ない。確認しようとしても、その調査は偽装される。財務省が行っていたように、重要なはずの文書が廃棄されてしまうということが厚生労働省においても起きていた。
今回の統計不正の件も安倍総理に忖度したのかどうかといった観点から批判されがちだが、本来の問題点はそこにはない。きちんと仕事をしない官僚たちの有り様を私たちは見せつけられている。ここに問題の核心があるのだ。
本来は内閣総理大臣である安倍総理が責任をもって対応すべき問題だと思うが、それは全く期待できない。森友・加計問題と同じように、口では真相解明を言いながら、実際にはのらりくらり時間をかけるということが予想される。
本年は参議院議員も予定されていることから、国会の会期延長も難しく、審議時間も自ずと限られる。そういう中でも鋭い追及を行うことを野党には期待したいところだ。