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平成30年版厚生労働白書が公表されない異常事態

 

 

 

平成30年版の厚生労働白書公表されず

 

 平成30年版の厚生労働白書の公表が年度内に行われないことになったと報じられた。

 

www.jiji.com

 

 

 過去の厚生労働白書は厚生労働省のWebサイトで公開されている。ここを見ても分かるとおり、これまで厚生労働白書は切れ目なく公表されてきた。おそらく、どこかの段階で平成30年版も公表されることになるとは思うが、少なくとも年度内にはそれが実現しないことになりそうである。

 

白書、年次報告書


 

 最新版となるべき平成30年版が公表されない事態がここまで続いていた。このこと自体が異例のことである。というのも、これまで、厚生労働白書は概ね当該年度の10月までには公表されていたからだ。発表の時期が前後することはあっても、さすがに年度内に公表されないということはないだろうとも思われていたが、とうとう年度内に公表がなされないという前代未聞の事態が生じようとしている。

 

 

厚生労働白書の作成過程から考えると

 

 厚生労働白書の中身は厚生労働省の所管する政策に関わる現状や今後の見通しなどから成る。厚生労働白書を読めば、厚生労働行政の全容や課題を把握することが出来るようになっている。
 平成30年版は公表出来ない理由は明らかで、昨年来の中央省庁などによる障害者雇用や労働時間の「偽装」問題、さらには現在問題になっている毎月勤労統計の不正問題が大きく影響しているはずだ。
 これまでの厚生労働白書の作成にあっては、前年のデータに新たなデータを追加するだけで済んだ部分も少なくないだろう。それが昨年来の問題で叶わなくなってしまった。加えて、過去のデータについても改めて精査が必要となり、それで作業に手間取っていることは想像に難くない。前年度と同様にとして進めてきた作業も手戻りとなれば、それだけで少なくない時間を要することになるだろう。
 ただ、そうは言っても、随分と時間を要しているように思う。年度内に公表出来ないとなれば、何が正しい数値なのか厚生労働省が見失ってしまっているということなのではないだろうか。

 

 

事は厚生労働白書に留まらない可能性も

 

 今回は、厚生労働白書が年度内に公表出来ないというニュースであったが、国の基幹統計である毎月勤労統計に問題があったということであれば、その他の白書にも影響が及ぶ可能性があることを指摘せねばならない。

 

 政府が公表している白書の一覧が官邸のWebサイトにあるので確認して欲しい。

 

www.kantei.go.jp

 

 

 それぞれの白書は他の白書の内容を参照し合っている。例えば、使用される図表が別の白書からの転載であるということも珍しくない。各府省が各テーマにつき白書を作成しており、近しい分野の内容を白書に掲載する際には、他の白書を参照するということも普通に行われているのである。とりわけ様々な政策において参照されるような統計情報は、政府として重要な統計として位置付け、それを基幹統計として法定しているのである。当然、基幹統計は様々な白書で登場する。

 

 統計の数値が間違っていただけなら、その修正を行うだけで済むと思うかもしれない。しかし、実際にはこの作業自体が一か所の図表の修正には留まらず、その数値を使って作成した別の図表や図表を基にした記述の修正へと波状的に広がっていく。
 場合によっては、説明そのものが間違いであった可能性すら出て来る。
 何が間違えで、どこを修正し、何処と何処の平仄を合わせるのか。相当面倒な作業を強いられていることだろう。

 

 現段階では、平成30年の厚生労働白書の公表が遅れているだけだが、それが公表されたあかつきには、別の白書にも修正の必要が生じるかもしれない。
 さらに、前年度の厚生労働白書を参照して作成される図表などを含む白書は、平成30年版の厚生労働白書の公表が遅れることで、その作成にも遅れが生じる可能性もある。これから平成31年版の各府省による白書の公表が行われることになるが、それにも遅れが生じないかどうか注目すべきだろう。

 

 連綿と公表されてきた白書。そこに異例の事態が起きている。このことをもって安倍政権の政権担当能力に疑問符を付けざるを得ないが、こういうニュースは大々的に取り上げられない。公表の遅れの可能性が報じられた日は統一地方選挙の県知事選挙告示日やイチロー選手の日本凱旋試合の日。さしずめ厚生労働省によるダメージコントロールは光ったと言えるのかもしれない。