なんとも痛ましい、痛ましいという言葉で片付けるには重すぎる事件が起きた。連日報道されている千葉県野田市で起きた、小4女児が父親の虐待によって死亡した事件である。2月5日には母親も傷害容疑で逮捕。すでに「十分は食事を与えていなかった」と供述している。
どんなに激しい虐待があっても、子どもは最後まで親を信じようとする、と一般的には言われている。それほどまでに子どもからすれば、頼る場所は親しかない。そんな子どもが残していたウソの書面。「児童相談所の人にはもう会いたくないので来ないでください」「4人で暮らしたいと思っていました」。
虐待していた父に無理やり書かれたことが今になって判明しているが、この手紙を書かされていた子どもの気持ちを考えると、胸が張り裂けそうになる。
あとを絶たない児童虐待
あまりに悲惨な事件で、これ以上、事件の詳細をここで書くのは控えたいが、こうした親による子どもの虐待は後を絶たないばかりか、児童相談所がその役割を果たさず、守れる命を守れないというケースはこれが初めてではない。例えば、2018年8月に横浜市で1歳6ヶ月の赤ちゃんが母親に暴力を振るわれ、頭に大怪我を負う事件が起きている。このときは「子供の声やたたく音がする」という近所の通報を受けて、警察が駆けつけ、児相に通告したものの、児相は家庭の安全が確認された判断し、結果、事件が起きてしまった。
こうした児相の対応が後手に回ったり、対応のまずさはこれまでにも度々、生じてきた。事件が生じる自治体は様々だが、その度にいつも同じ言葉が繰り返される。「予見できなかった」「状況は改善されていると判断してしまった」。
今回の野田市の事件はもっと悪質で、モンスターペアレントといってもいい父親の剣幕に、教育委員会が屈してしまい、「誰にも見せない」という言葉を信じて本音をつづった女児のアンケートが父親の目に触れることになってしまった。
児相と警察の連携を強化せよ
今、全国で警察と児相が連携しているのは24自治体と少ない。全国には1700を超える市町村があることを考えれば、この取り組みはもっと広がってもいい。むしろ、国の方で法律を定めてもいいほどである。
これまで多くの自治体では個人情報の関係で、児相と県警の連携にそれほど積極的に取り組んでこなかった。少しずつ改善の兆しは見えつつある。例えば名古屋市ではすべての児相で把握した、虐待が疑われる事案は全件、県警に情報提供し、共有するための協定を結んだ。こうした取り組みを全国標準とすべきだろう。兆しが見えつつあるとはいえ、名古屋市のような取り組みはまだ少数だ。
虐待はゼロが望ましいが、残念ながら世間の常識とかけはなれた大人が存在し、そんな大人が子どもを産んでいることがある。これだけ児童虐待をめぐるニュースが減らないのは、どう考えても、親になってはいけない大人が親になっているからだ。
子どもは親を選んで生まれることはできないのだから、こうした虐待から命を守る仕組みを今こそ、政治が本気になって取り組まずして、誰のための政治だろうか。
国がやれること、国だからやれること
児相と警察の連携が取れていない大きな原因は個人情報保護にあるとされている。国で定めた法律が現場の対応を鈍らせているのであれば、国でルールを整備すればいいだけの話である。
もちろん、ほかにもいくつか国のルール整備でやるべきことがある。一つは親権の制限を容易にすること。もう一つは特別養子縁組制度を徹底的に支援すること。いずれも、国でルールを決めれば、すぐにでも動き出せる改善策だ。
このテーマは与党も野党も関係ない。それぞれの立場を超えて。ポジショントークを超えて、連携できるし、連携しなければならないテーマだろう。残念ながら政治への信頼が地に落ちている今、こうした政局ではない、国民に寄り添った政治に党派を超えて取り組んでほしいものだ。