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同一労働同一賃金で働き方改革は進むか

 

 

 

格差是正を喫緊の課題


2020年4月に施行を控える、「パートタイム・有期雇用労働法」と「改正労働者派遣法」の二つの法律。これらの施行に伴い、業務内容や、配置変更の範囲に差がなければ待遇も同一とすることが必要となる。それ以外でも差が生じる場合、不合理でない待遇にすることが義務付けられるため、これから来春までの約半年間で大企業は来年4月、中小企業は2021年4月からの対応を迫られる。

 

日本人の働く人の約4割を占めると言われる非正規労働者の処遇改善は課題の一つだった。総務省によると、日本の非正規労働者はおよそ2100万人に上る。格差社会が叫ばれる中、民主党政権で始まった労働環境改善の政策は、自民党が政権復帰をしてもなお引き継がれた。

 

同じ企業で同じ業務についている人は、正規、非正規の違いを問わず、同じ水準の賃金を払うことになるが、同じ待遇にするには、賃金や手当だけでなく、教育訓練や福利厚生もその対象となり、厚生労働省がまとめたガイドラインによると、基本給や賞与、役員手当などは、待遇差の相違を認めるものとされ、時間外手当や通勤手当などは相違が禁じられている。家族手当や住宅手当などについては言及されていない。ガイドラインに盛り込まれていない事例については各企業ないの労使で議論を進めていくことになるが、果たして、法律が目指すところの環境が実現するかどうか。

 

こうした法改正によって企業側の反応はシビアだ。非正規労働者にとって格差是正は待遇改善につながるものの、企業側は人件費支出の増加が見込まれる、業界によっては数億円から数十億円の負担増が見込まれており、経営環境の悪化の引き金になることを心配する声が聞こえてくる。

 

しかしながら、現実問題として非正規雇用を増やし、実質的には正規雇用の社員と同様の業務を迫られている労働者も少なくないことを鑑みれば、企業にとって非正規労働者はある意味「使いやすい」労働力だった。今回の制度変更で、彼らの立場が守られることになるので、企業側には抜け道を探すのではなく、格差是正とともに、健全な生産性向上と働き方改革を推進していくことが望まれる。

 

 

一方で働き方は自由に。


そうした流れとは異なり、より柔軟な働き方を模索する取り組みも増えている。最近では、副業を解禁する企業も増えているなど、一つの会社に縛られない働き方が生まれてきていることはよく知られているだろう。

 

正社員を個人事業主として扱い、業務委託に切り替える制度を導入したタニタが有名だ。現在社員の1割にあたる30人弱が個人事業主として働いている。

個人事業主として働くことになれば就業規則に縛られることがないので、出社の有無も勤務時間も契約の範囲で自由になる。自身の生産性が上がれば、社外の仕事を請け負うなど、収入を増やしていくことも可能だ。自分自身がスキルアップしていけば、報酬額をアップさせていくこともできる。タニタでは、3年契約で1年ごとに仕事内容を見直す仕組みだという。

 

こうしたスタイルの働き方はまだなじみが薄いし、こうした制度を悪用する企業が生まれれば、弱い立場の労働者が不利に環境に追い込まれかねないという考えも理解できる。大切なのは、働き方もっと言えば生き方の多様性をどのように実現できるかである。多様な働き方を実現し、多様なライフスタイルを認める中で、社会全体の生産性を上げ、企業も個人も社会全体が成長していくにはどのような法制度も含めて環境を整えていくのか、そのビジョンが必要だ。

 

 

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若い世代の違和感


終身雇用、年功序列賃金は日本企業の特徴でもあり、日本経済を成長させる大きな要因にもなった。ただその一方で、同じ業務内容でありながら、20代と50代の社員では大きな賃金格差が生じるような会社もある。経験の差こそあれ、WORDやEXCELの使い方も「もうこの歳だから、わからない」と年齢を理由に新しい仕事への意欲も示さず、若い世代に仕事を押し付ける年配社員に苦労する話も聞く。同一労働同一賃金の法律的解釈は一旦置いておくとして、正社員内での格差も存在することも事実である。

 

そうしたものにも「目をつぶれ」という会社では、有能な若い世代は、正当な評価をしてもらえる企業に転職してしまい、良い人材が残らない。そんな年長者の働き方を見た新卒者は、「社会人の働き方なんてそんなもの」と一種の負の刷り込みによって、良い人材を採用しても伸びしろが失われていくと嘆く人事担当者もいる。

 

制度を変えようとしても既存の古い社員の強い抵抗に陥り改革も進まず、さらに負のスパイラルに陥ってしまう。この悪循環から脱するためにも、有能な人材が正しく評価される制度を作れるかどうかにかかっている。

 

同一労働同一賃金の導入が進むことで働き方改革は進むか。それは劣悪な待遇を強いられている人々を救うものが第一義だが、もう一つ、手厚すぎる待遇に安穏としている労働者にとっては迷惑な制度変更になると受け取られる恐れもある。継続して制度設計がなされることはもとより、労使間での前向きな論議が交わされ、この制度変更が日本企業の推進力となることが期待される。