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フリーランス/副業・兼業に関する労働法制の検討を急げ(2/2)

 

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国民民主党がフリーランス関連の法整備の検討を求める法案を提出


 さて、国民民主党は5月8日、政府の「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」の対案である「安心労働社会実現法案」を衆院に提出している。


 「安心労働社会実現法案」は、旧民進党と旧希望の党が1月に設置した「働き方改革検討のための合同会議」で検討を進め、取りまとめたものである。(1)「雇用対策法の一部を改正する法律案」(2)「労働基準法の一部を改正する法律案」(長時間労働規制法案)(3)「労働契約法の一部を改正する法律案」(4)「労働安全衛生法の一部を改正する法律案」(パワハラ規制法案)――の4法案で構成される。(4)の法案については、旧民進党、旧希望の党が4月27日に参院に共同で提出した。

 

 このうち、(1)の労働基準法改正案の中で、「フリーランスや副業/兼業など、労働者保護法制が適用されない働き方に対する保護制度を整備すること」を政府に検討させる条項が入っている。


 以下に附則に盛り込まれた関連条文を示しておく。

 

<附則第12条>
7 政府は、雇用や就業の形態が多様化し、副業又は兼業を行う労働者が増加している現状において、その健康及び福祉の確保が重要であることに鑑み、この法律の施行後三年を目途として、副業又は兼業を行う労働者の労働時間に関する規制の在り方その他のこれらの労働者の健康及び福祉を確保するために必要な制度の整備について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。


8 前各項に定めるもののほか、政府は、この法律の施行後三年を目途として、新法の規定について、その施行の状況等を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。


9 政府は、雇用や就業の形態が多様化し、雇用と類似の就業形態の者が増加している現状に鑑み、この法律の施行後三年を目途として、これらの者に労働者に準じた保護を及ぼすために必要な制度の整備について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

 

 残念ながらすべての法案は廃案となった。当然のことながら、このフリーランス等に関連する条文も実現しなかった。国民民主党案においても具体的な方向性は示されていないが、法律の中で明記するということは画期的なことであり、こうした提案がなされたことは高く評価されるべきである。


 なお政府案が参議院の厚生労働委員会で可決された際、国民民主党の主導で採択された附帯決議に、「多様な就業形態で就労する労働者(副業・兼業・雇用類似の者を含む)を保護する観点から、長時間労働の抑制や社会・労働保険の適用・給付、労災認定など、必要な保護措置について専門的な検討を加え、所要の措置を講ずること。特に、副業・兼業の際の、働き方の変化等を踏まえた実効性のある労働時間管理の在り方等について、労働者の健康確保等にも配慮しつつ、検討を進めること」という項目もきっちり盛り込まれた。

 

AIなどの影響を受けやすい分野が多い


 これはフリーランスに限らないのだが、AIなどの新技術の発展・普及が雇用に与える影響も無視できない。


 フリーランスの活躍に関して言えば、知的でクリエイティブな能力を求められる分野も少なくない。何もAIが雇用を奪うという面だけを短絡的に強調したいわけではない。但し、インターネット、携帯電話等の普及に見られるように、新しいテクノロジーは生産面、消費面も含めて経済社会をドラスティックに変えてきた。

 

 例えば翻訳・通訳というのは、もともとフリーランスに頼る度合いの高い業種である。今はAIという言葉があちらこちらで聞かれるが、「自動翻訳」「機械翻訳」という言葉はかなり前から使われており、関係者の注目を集めてきた。


 1984年5月、朝日新聞は一面トップで「自動翻訳機売り出す--来月まず和英--」という記事を報道した。これは「ブラビス・インターナショナル」という先駆的な取り組みをしていた会社についてのことである。マスコミを含めた世間の注目度も高く、社長はNHKの番組に出演したこともある。残念ながら、その会社は1991年1月には、破産宣告を受けて倒産したことが明らかになった。

 

 それはさておいて、「Google翻訳」に代表されるような機械翻訳の性能は日を追うごとに高まっている。まだ日本語と英語の間では、たどたどしい翻訳になってしまうことが多いが、文法が似通っている日本語と韓国語との間の翻訳は様相が異なってくる。「Google翻訳」を使って、韓国語のニュースの記事を訳させると、かなり自然な日本語の文章が出てくる。


 今すぐ翻訳者の仕事がなくなると言いたいわけではないし、正確な翻訳が求められる場面では、プロの翻訳者に仕事を依頼するしかないだろう。しかし、AIによる翻訳の精度が格段に高まっていることは事実であり、今後も向上していくことは確実である。

 

翻訳というと、一般の人は英文の「ミステリー文学」を訳しているような場面を思い浮かべるが、需要としては産業関連の翻訳が圧倒的に多い。翻訳会社がクライアントから仕事を受け、コーディネーターと言われる人が登録されている翻訳者の中から最適の人を選び、仕事を発注して、進行管理していくのが一般的な姿だ。仕事を受ける翻訳者はフリーランスの人が多い。


 翻訳だけがフリーランスの仕事ではないし、AIが雇用面等において影響を及ぼすのは翻訳だけでも、フリーランスだけない。繰り返しになるが、フリーランスというのは多様な仕事や形態があり、なかなか議論をしにくいところがある。であるがゆえに、ツアーコンダクターとか翻訳者というような具体的な事例をあげ、あるいはAIのような新技術がそうした働き方をどう変えるかということについて考えていくことが重要となる。

 

 

働き方に中立的な社会の建設も視野に入れるべき


 以上の諸点をふまえれば、副業や兼業も含めた様々な就業形態で働く人たちを保護していく観点からの法整備のあり方について加速的に議論を深めていく必要がある。
 労働法制だけではなく、公正取引委員会が今年の2月にとりまとめた「人材と競争政策に関する検討会」報告書もふまえて、独占禁止法上の対応を強化していくことも求められる。


 そして、これも難しい課題であるが、正社員、派遣社員、フリーランスなど多様な働き方がある中で、どのような形を選択しても、社会保障などの面で著しく差の出ないような制度設計をしていかなくてはならない。


 現役時代だけではなく、年金も含めた老後の生活ということまで視野に入れなければならない。フリーランスの人たちが、公務員、民間企業社員に比べて遜色のない待遇を得られたとしても、老後の生活が貧しく、苦しいということになると、介護面も含めた社会全体の不安材料を増やすことになる。


 副業も入れれば1,000万人を超えるとも推測もされるフリーランスの人たちが日本経済の多くの部分を支えていること、こうした分野に有能な人材がけっこう集まっていることなど勘案すれば、可及的速やかにフリーランスや副業/兼業など労働者保護法制が適用されない働き方に対する保護制度などを整備するための議論を尽くしていくべきである。残された時間はあまりない。関係府省、各党各会派などにおける積極的な議論を喚起していきたい。