裁量労働制の労働時間に関するデータの不備で安倍首相が答弁を撤回し、政府が働き方改革関連法案に裁量労働制の対象拡大を盛り込むことを見送ったが、政府の労働政策について他にも怪しい点がある。
3月1日の参院予算委員会審議では、「新しい経済政策パッケージ」に盛り込まれた労働生産性を年2%向上せる目標が取り上げられた。安倍首相は、レジを打つスピードが倍になったら、そのスーパーの生産性が上がるか、と問われ、「一人のパートの方が一時間のうちにこなす仕事量が一時間のうちにこなす仕事量が増えていくことになり、その人の言わば一時間当たりの労働の価値が上がって行けば、生産性が上がっているというふうに考えてもいいのではないかというふうに私は考えるわけであります。」と答えた。
この答弁に疑問が二つ。
言葉尻をとらえるようだが、レジ打ちは「パートの方」がやるものと決めつけているのではないか。
安倍首相は1月22日の施政方針演説で「雇用形態による不合理な待遇差を禁止し、「非正規」という言葉を、この国から一掃してまいります。」と表明しているのだから、わざわざ「パートの方」と特定するのは矛盾している。雇用形態を問わず、賃金をはじめとする処遇の格差をなくすことには、経営側の抵抗があり、労使を納得させ制度改正を断行するには、強いリーダーシップが必要となる。安倍首相の言葉は勇ましいが、本気でやるつもりなのか疑わしい。
二つ目。
レジ打ちのスピードが上がっても、売り上げが増えなければ生産性が上がるとは限らないではないか。
その指摘に対して安倍首相は、「確かに売上げが上がらなければ委員おっしゃるとおりでございますが、しかし、レジ打ちの人のスピードが例えば倍になった、そして倍の消費者をさばくことが可能になったとすると、言わばそこに大きな需要があった、例えばその店で並んでいる人がいた場合は、この能力が上がらなければ全部を、物を売ることができないのでありますが、倍になったことであって言わば倍の消費者に対応することが可能となれば、当然これは売上げが上がっていくわけでございますし、それは給与の上昇にもつながっていくということになるでしょうし、そして給与の上昇につながっていけば、これはまた消費が喚起されるという、好循環を回していくということにもなっていくんだろうと、こう思うわけでございまして。」と長々と釈明した。
要は、売り上げが伸びるかは、買い物をしたい人が並んでいるか、需要があるかどうかだ、と言っているように受けとめられた。労働生産性を向上させるよりも、需要を増やすことの方が大事だと自ら認めているではないか。労働生産性を2%上げるために、経営側が労働生産性の向上につながるとしている高度プロフェッショナル制度を導入したり、裁量労働制の対象を拡大したりするような理屈は通らない。
それよりも賃金を引き上げ、可処分所得を増やし、長時間労働をなくし、子育て支援や社会保障の充実で将来不安をなくすことによって個人消費を喚起することの方が求められている。