遅れた児童虐待防止
度重なる児童虐待。政府与党は児童虐待防止法などの改正を今国会で目指すことになり、法案は閣議で承認された。政府与党が提出する改正案については、親による子供への体罰禁止の明記が注目されているが、その他にも児童相談所(児相)の体制強化といったことも折り込まれている。
与党は成立へ向けて野党の協力も得るとしており、修正協議にも応じることを示唆している。対して、野党側も法案の成立には協力的な姿勢であると報じられている。
繰り返される児童虐待と遅れる対応策。ようやく、与党も重い腰を上げた。そう評することが出来るだろう。大枠については与野党で意見が異なることもないはずで、今国会で法案が成立し、具体的な対応策が講じられていくことになるだろう。
昨年、野党は児相の機能強化法を提出していた
ここで、すっかり忘れ去られた事実がある。
それは、昨年6月に、児相の機能強化に関する法案「児童福祉法及び児童虐待の防止等に関する法律の一部を改正する法律案」(「児童相談所緊急強化法案」)を野党各会派(国民、立憲、無会、共産、自由、社民)が共同で衆議院に提出していたことである。
この法案は審議されることなく店晒しにされた。野党提出の法案は審議しないという与党の国会運営の前に、提出しただけという状態に置かれていたのだ。同法案は、今国会でも店晒し状態にされている。
上掲の衆議院のページを見ると、「議案提出回次」が196になっている。これは第196回国会で提出された法案であることを意味している。現在開かれているのは第198回国会であり、第197回の臨時国会、第196回の通常国会と、同法案がまともに審議されずにきたことをここでも表している。
提出された法案を見る限り、与党が絶対に乗れない内容という訳ではないように思えるが、野党提出の法案を審議すれば面子が潰れると与党は考えているため、法案の内容に関わらず、そのままにされてしまっているのである。
与党の面子のために問題解決が遅れた?
今回、政府与党も野党と同様に児童虐待防止法に着目して、その改正案を出してきた。もちろん、その詳細は政府与党の改正案と野党が提出していた改正案では異なるが、その目指すところは大きく違わない。とりわけ、野党が重点を置いていた児相の機能強化については、政府与党の案にも含まれている項目である。
昨年、野党が提出していた改正案に問題があったとしても、与党が多数派を握る現状であれば、与党が野党に改正案の修正を迫り、児相の機能強化だけでも昨年の段階で法案成立させておくことが出来たはずだ。
しかし、それは実現しなかった。繰り返すが、どんな提案であってもそれが野党提出である以上、与党は自らの面子にこだわって、まともに取り合わなかったからだ。
昨年6月に野党が提出した改正案を成立させておけば、2019年度の予算で対策に関する措置を講じることも出来た。しかし、それは叶わなかったのである。本国会で政府与党案が成立すれば、いずれかの段階で予算措置も講じられることになるが、最短での事業実施と比較すれば1年以上遅れることになる。これは政府与党の怠惰だ。
野党の提案を取り入れれば、それが敗北を意味するとばかりに、与党は野党の提案に対して反対したり黙殺したりするのに躍起だが、今回の児童虐待防止法改正でも分かったように、与野党を越えて問題意識が共有され、法案についても一定の共通理解が形成出来ることがあるのである。いたずらに与党が面子に拘るあまり、先に野党がまっとうな提案を行ったがために、その提案が与党によって葬られ、それが結果として問題解決の遅れにつながったとすれば、国民に不利益が生じるだけ。
くだらない面子に拘らず、野党の提案も時に受け入れながら、政府与党は国民にとって必要なことに迅速に取り組んで欲しいところだ。