大野氏 劣勢を覆して当選
25日投票開票された埼玉県知事選挙は、立憲民主党や国民民主党など野党4党が支援した元参議院議員の大野元裕氏が当選した。事前に先行が伝えられた自民・公明両党推薦の青島健太氏を最後に抜き去るかたちとなった。
直前になって立候補を取りやめた行田邦子氏は大野氏と票を奪い合うと思われていたところ、辞退した行田氏本人は選挙戦中に青島氏への投票を表明するなど、最後まで波乱含みの展開であった。そうであっても、事前には、青島氏優勢との見方が有力であった。
当初は、トリプルスコアで青島氏の勝利という予想もあった中、青島氏を推した自民党としては衝撃の結果だったのではないだろうか。
早速、自民党の甘利明選挙対策委員長が反省の弁を述べている。
甘利委員長いわく、自民党支持者への浸透不足であった、と。
甘利委員長による敗因の分析はこの時点では間違っているように思う。選挙戦が進むごとに、青島氏のリードが小さくなり、大野氏が詰め寄るという展開であった。
共同通信が16~18日に実施した調査では、青島氏がリードし、それに大野氏が競っているとされた。
この時点では、青島氏の名前が先に書かれており、「競り合う」といっても、青島氏がリードしていた。その後の1週間で大野氏が支持を集め、投開票日のNHKによる出口調査では青島氏を抜き去ったのである。
選挙戦が進むほど、その支持が薄れ、相手候補が勢いを増し、逆転を許した。青島氏側から見れば、今回の選挙はそういう結果に終わったということになるのであって、これは甘利委員長の言のように浸透不足ゆえに敗北ではなく、浸透したが故の敗北なのではないだろうか。
先日、ここでも書いたように、青島氏は「軽い神輿」であることを払拭することが出来ず、かえって「軽い神輿」だと有権者に見透かされてしまったことの帰結がこの選挙結果であると言えまいか。
大野氏の当選から見えてくること
野党4党が推した大野元裕氏。立候補前は国民民主党の参議院議員であった。県知事選挙前に離党し、野党4党が一致して支援出来る体制を整えている。さらに、前知事となる上田清司氏の後継指名も受け、上田氏も連日応援を行っている。
野党の共闘には常に批判がつきまとうが、自民党と公明党が一致して候補者を立てて来る選挙では、少なくとも野党がバラバラにならないようにしなければ、そもそも勝負にならない。この点、上田氏からの後継指名を得て、なおかつ野党がバラバラにならないような枠組みを作った大野氏の戦略が功を奏したと言えるだろう。
ただし、野党が固まっただけでは、簡単に自民党と公明党の推す候補者には勝てない。いわゆる保守層からの一定の支持も必要とされるのだ。
その点で、国民民主党所属の国会議員として、中道保守的なスタンスであった大野氏は保守層からも受け入れやすい候補者であったと言える。
さらに、大野氏の祖父・大野元美氏は埼玉県川口市の市長を務め、当地において川口自民党を組織したという来歴がある。大野氏の出身地である川口市の開票結果を見ても、ここで3万票近く大野氏がリードしている。
川口市の開票結果
大野元裕77,776(57.2%)
青島健太48,523(35.7%)
県全体では大野氏が青島氏に対して6万票ほどの差をつけて勝利したわけだが、その半分近くを大野氏の出身地の川口市で稼ぎ出してきたことになる。
その他、自民党が強い地域でも広く大野氏は票を集めており、保守層からの支持も一定程度確保することが出来たと言えるだろう。
地縁のあるところでは青島氏も健闘
対して、青島氏が幼少期から居住した草加市の結果は以下のとおり。
草加市の開票結果
青島健太33,899(57.2%)
大野元裕21,225(35.8%)
また、青島氏の通った高校がある春日部市の結果は以下のとおり。
春日部市の開票結果
青島健太32,255(53.7%)
大野元裕23,666(39.4%)
それぞれ、大野氏の川口市での得票率と遜色ない率を青島氏が獲得している。やはり、地縁のあるところでは、各候補者は多くの票を得ることが出来るのである。
勝利を分けた要因
埼玉県内でも人口の多い川口市に地縁のある大野氏が候補者として名乗りを上げた段階で、自民党側としては、県内で最大の人口規模を誇るさいたま市での集票方法を考えなければならなかったはずだが、結果、さいたま市内の各区では、岩槻区のみ青島氏が最多得票であり、その他は全て大野氏が上回った。
この点については、投票行動にどれだけ結び付いたかは不明だが、青島氏が埼玉スタジアムについて不用意な演説を行ったと話題にもなっている。
このあたり、青島氏は一部の地域に地縁があっただけで、埼玉県の実情には通じていなかったという可能性が指摘されるだろう。
結局、青島氏は一定の知名度があるから担がれただけと思われてしまった。ゆえに、地縁のある地域と自民党の支持が厚い一部地域では得票出来たが、選挙戦が進み、浸透が進めば進むほど、馬脚が表れて支持を失ったということになりそうだ。
一方、大野氏は保守層を取り込むきちんとした地盤があり、さらに野党4党の支持もまとめあげた。そして、選挙戦では12時間の駅頭での街頭演説を行うなど、地道な選挙運動を行った。加えて、大野氏は「政策通」と知られているだけあって、掲げた政策も的確なものであった。地元の埼玉新聞が「「政策通」大野氏が初当選」としたのがそれを物語っていよう。
地に足のついた候補者に的確な政策。そして、野党の共闘と地道な選挙運動。ついつい風頼りになりがちな野党が疎かにしてしまう点を大野氏は的確に押さえることで、見事な逆転勝利を手繰り寄せたと言えるだろう。