法務省による理不尽な行為
外国人労働者の受け入れを拡大する入管法改正案の審議過程で、法務省による外国人技能実習生に対して昨年実施した聞き取り調査の結果が「捏造」されていた問題。法務省が公開した聴取票を野党7会派が独自に分析し、その結果を公表した。
政府は与野党に示した調査結果に関する資料では、最低賃金未満の率について、外国人技能実習生の失踪動機の回答をもとに「0.8%」としていた。しかし、野党による分析では、全体の約67%にあたる1939人が最低賃金未満であった。
そもそも、調査を巡って法務省は、技能実習生の失踪動機の最多は「より高い賃金を求めて」の86.9%だとする資料を与野党に対して提示していた。しかし聴取票には「より高い」という項目がなかったことが後に判明し、最多の動機は「低賃金」の1929人(67.2%)と再公表していた。
このように調査結果を自らに都合の良いように事実上「捏造」していた法務省。調査の聴取票を公開するよう野党に求められ、結果として衆院法務委員会の与野党の理事に開示された。その公表された聴取票について野党自らの手による再分析が行われて公表されたことで、法務省が公表した調査結果は随分と間違ったものである疑いが濃厚となったのである。
ところで、この件につき、法務省は理不尽な対応を国会議員に対して行っている。それは、聴取票は公開するものの、コピーや持ち出しは認めなかったのだ。そこで野党議員は日参して聴取票を手写しで記録し直し、それをもとに分析を行うという作業を強いられている。
法務省曰く、個人情報が含まれているから、とのことらしい。
法務省が公表した集計結果がどうやら間違っているらしいということで、自ら集計を行うということ自体は野党議員にとっても受け入れられることだとは思うが、まさかコピーや持ち出し禁止とは随分と理不尽な対応である。
不都合なデータが次々と
外国人技能実習生に対して行われた聞き取り調査の結果につき、野党が再集計結果を公表したのが12月3日のこと。続く12月6日には、外国人技能実習生が2015年から2017年の3年間に69人死亡していたことが明るみに出た。
技能実習生は全国に約26万人いるとされており、3年間で69人は全体で見れば大きな数字ではないとの反論も聞こえてきそうだが、あくまで「実習中」の実習生が事故に遭っていることを鑑みると、この数字は看過できないものであることは間違いない。少なくとも、かなりの数の技能実習生が一歩間違えば命を落としてしまうような環境で働かせられていることはこの死者数から明らかである。危険な場所で、安価な賃金で働かされている。そんな外国人技能実習生たちの実態が浮かび上がるだろう。
過酷な環境に置かれる外国人技能実習生たち。これも、外国人労働者を増やしたい現政権にとっては、不都合な事実だろう。高度な人材を受け入れたいと言いながら、実際には過酷で危険な場所で、安価に働かせたい外国人を増やしたいだけなのではないか。そんな疑念も浮かぶ。
法務省による各種の調査。実施はされても、現政権にとってその結果が不都合であれば、その結果を捻じ曲げたり、公開を渋ったりする。これが、私たちが現在目にしている光景である。
さらに、調査結果を精査しようとする野党議員には、資料の利用につき理不尽を強いる。そんな暴挙までなされている。
政府にとって不都合なデータは隠し、公開するときには捻じ曲げる。財務省による文書の改竄が問題になったが、やっていることは今回の法務省も大差ない。
国会議員に対してデータを公表すべきである
与野党を問わず、国会議員は国民に選ばれた存在である。そして、国会議員は国民を代表して、中央省庁の活動を監視している。これによって、国民から選ばれたわけではない中央省庁に対して、民主的統制を効かせているのである。
必要であれば、国会が中央省庁に対して、資料の公開を迫ることもある。実際に、今回は法務委員会の求めに応じるかたちで、法務省は外国人技能実習生に対して行った調査の聴取票を公表した。
今回は野党が与党を攻め立てる場面にあり、公表された資料はその材料として使われることから、理不尽な資料の提供の仕方がなされても、そのような対応を行った法務省に対して批判の声は高まらないが、法務省は国会議員全員に対して理不尽な対応を行っていることを忘れてはならない。民主的統制から逃れんとする法務省の振る舞いは国民全員を敵に回す所業である。
そのような理不尽なやり方は早急に改めるべきであり、法務省に限らず、全府省は国会議員に対して、あるいは国会に対しては、可能な限り政策形成に関わるデータは提供すべきである。なおかつ、その提供にあたっては、国会議員側が改めて分析を加えることも想定して、利用しやすい形式での提供に努めるべきである。
よもや、「資料は見せるが、コピーや持ち出しは不可。その場で筆写しろ」などといった大人気ない対応は繰り返して欲しくない。