霞が関から見た永田町

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安易な外国人労働者受入策は再考を

 

 

 

外国人の新たな在留資格創設へ

 

 政府は、今度の臨時国会に、外国人の新たな在留資格を設けるための法案の提出を予定している。具体的には、出入国管理法改正案の提出を予定している。
 人口減少時代に入り、人手不足が深刻な問題になる中で、外国人労働者の受け入れ拡大を意図して新たな在留資格を設けようという目論見だが、自民党の部会では反対の声が上がっている。

 

www.jiji.com

 

 

 これまで、自民党は外国人労働者の受け入れに慎重な立場をとり、対して、野党は積極的な受け入れを検討すべきとの主張を行ってきた。与野党の立場は相反する状態で平行線をたどってきたと言って良いが、それが一気に与党側が野党の主張をも上回る積極策を打ち出してきたのだから驚愕の事態と言える。おそらく、自民党の中でも特に保守的な立場の議員には戸惑いがあるのではないだろうか。それが部会での反発にもつながっているはずだ。
 コンビニや飲食店に行けば、外国人の店員を目にすることも珍しくない。もう既に、事実上、外国人労働者を数多く受け入れている状況になっている。ただし、制度上、これまで日本は外国人労働者の受け入れには慎重であった。その制限を大きく外そうというのが今回の改正案の狙いである。

 

 

野放図な外国人受け入れの道を開くのでは?

 

 国民民主党からは、「安倍政権は外国人労働者の受け入れ分野と人数を特定すべき」との声があがっている。

 

www.dpfp.or.jp

 

 

 これも至極真っ当な反応で、そもそも外国人労働者の受け入れを主張してきた野党各党も、野放図に外国人を受け入れるようなことには反対の立場だった。しかし、今回政府が打ち出してきた新たな在留資格は、ともすると、野放図な受け入れにつながりかねないものである。


 つまり、こういうことだ。
 今回創設が予定されている新たな在留資格は二つ。一定の知識・経験を要する業務に就く場合に与えられ、最長5年の在留となるもの。もうひとつが、熟練した技能が必要な業務に就く場合に与えられるもので、こちらは在留期間の更新可能だ。

 

 悩ましいのが「一定の知識・経験を要する業務」や「熟練した技能が必要な業務」という部分。どんな仕事でも、一定の知識や経験は必要。さらに、どこまでいけば、「熟練」となるのかも判断が微妙なところだ。
 政府としては、所管省庁が定める技能水準や日本語能力を確認するための試験を設け、その合格によって「一定の知識」を有するとするようである。また、経験の部分は介護分野などについては、現場で実習生などとして経験を積んでいれば「経験」を有するとし、それら要件を満たすことで、在留資格が与えることとするらしい。
 この知識や経験は、ある程度その要件がどのようなものになるのか見通せるが、「熟練」の方はどのように、それを判断するのか分かりにくい。

 

 報道されるところでは、まずは5年の在留資格で「一定の知識・経験を要する業務」に従事して、その経験を基にするかたちで「熟練した技能が必要な業務」に従事するとして更新可能な在留資格を得るということが可能とされる見込みだ。ということは、実習生のようなかたちで日本で働く機会を得て実績を積んでいくことで、長く日本に在留するという道が開かれることになる。

 

 

事実上の移民受入か?

 

 新たに創設される予定の在留資格でも、「熟練した技能が必要な業務」に就く場合に与えられる資格はその期間の延長も可能で、事実上、日本での永住に道を開くもののようである。なおかつ、こちらの在留資格は外国人労働者本人だけではなく、その家族にも与えられる見込みだ。
 それ自体は、ある種、当然であって、熟練を要するような技能を有する外国人が単身で短期間だけ日本に働きに来るというケースは考えにくい。そういう技能を有する労働者は家族も含めてでなければ、日本には来ようとしないだろう。

 

 しかし、家族にも在留資格を与えるということになると、労働者だけではなく、それこそ日本で働くわけではない外国人も多数移り住んでくることにつながる。そういう外国人については、日本社会でどのように受け入れていくのか、社会制度全般の見直しも求められるところであるが、そのような検討は現状ではなされている様子はない。
 既に首都圏をはじめとして、外国人比率が高い地域もあり、例えば、公立学校での児童の受け入れが課題になっているところもある。外国人労働者やその家族が日本に移り住んでくること自体、それを無下に否定するべきではないが、慎重な準備と対応が求められることは間違いないだろう。その家族を含めて、外国人労働者をいかに日本で受け入れていくのかを考えずに、ただ受け入れを拡大するといのは危険だ。

 

 考えてみると、これまで日本では、外国人労働者には厳しい要件を課して、労働目的で日本に長く在留することは認めてこなかった。移民希望者への対応も国際的に見れば冷淡と言えるような状況であった。
 そういう状況下で、突然、その制限を一気に取り外すような案を政府が出してきた。これが今回の出入国管理法改正案である。
 この改正案が成立すれば、日本で働きたい外国人は日本にやってくるだろうし、その家族も少なからず日本にやってくるはずである。労働者の確保という意味では歓迎する事態だろうが、それは端的に言えば、日本の移民に関わる政策の大転換である。労働力の確保のために外国人労働者の力を借りるというのは、それはそれで必要なことではあるが、だからと言って、国民の構成を大きく変えてしまいかねないような移民政策を採用して良いとはならない。来年にも新たな在留資格を導入しようとしているが、拙速に法律を通して、政策の大転換を図るべきではない。慎重な検討を願いたいところだ。