まだまだ課題の多い民泊新法
数年前、出張で大阪市内のビジネスホテルにチェックインしたときのこと、10人以上乗るエレベーターで中国人観光客の一団に日本人一人という状況に巡り合った。一度ならまだしも、食事に向かう朝もチェックアウトするときも同じ状況だったことに外国人訪日客の増加を実感した。
住宅宿泊事業法(民泊新法)の施行から15日で1年が経った。民泊新法施行後、新たな届け出は約17,000件あったそうだが、営業日数が180日以下に限られたり、物件所有者の許可が必要など制約も多く、地価が高い首都圏では利益が出しにくいと後ろ向きな声も少なくないという。
さらに地方自治体が独自に設ける「上乗せルール」もあり、民泊運営者にとって現在の民泊新法は決して全てにおいてバラ色と呼べるものではなかった。もちろん違法民泊を取り締まるという点で一定の効果はあったかもしれないが、その一方でまともな民泊運営者が割を食ったというのも事実。現に、営業日数の制限のない旅館業に変更する運営者は多く、民泊新法のもとで解消すべき課題は多い。
訪日外国人6000万人の実現度合い
政府は「観光立国」の看板を掲げて、訪日外国人客の受け入れ数増加に力を注いできた。小泉政権時の2003年ごろ、当時500万人ほどだった外国人観光客を倍にするという目標を掲げたことがきっかけの一つだった。訪日外国人数は2013年に1000万人に達すると、さらにこの5年の間に3倍にも増加し、2018年にいよいよ3000万人を突破したというわけだ。
政府が見据える目標はまだまだ高い。その数は2020年までに4000万人。2030年までに6000万人というもの。
2019年はラグビーW杯、2020年には東京オリンピックと一大イベントが待ち構える。世界中の熱い視線が日本に注がれるこの機を逃すまいと垂涎する政府や産業界の関係者は少なくないはずだ。
国内の各都市が宿泊施設の建設ラッシュに沸き、訪日客増加を予感させる空気感はあるものの、それでもまだまだ宿泊施設の不足は見込まれる。さらに、これから10年で2018年の2倍となる6000万人の訪日外国人を受け入れる環境が果たして整うのか不安視する声もある。こうした状況を補完する意味でも、民泊には一定の役割を果たすことが期待される。
民泊が地域に新しい価値を生み出す
民泊仲介会社のAirbnbは日本での事業展開に際して、多くの地方自治体とパートナーシップを組み、日本国内での民泊普及を加速させる意向を示している。6月には、新宿区と連携協定を結び、「ホストの法令順守の啓発」「ホスト、ゲストへの防災情報の提供」「新宿区の地域イベントの情報提供」「ホストと地域社会との相互理解の構築」をしていくという発表があった。
こうした民泊制度の裾野を広げること動きは、人口減少にともなう空き家対策にも関連は及ぶ。社会全体の変化にも対応した制度設計はインバウンド6000万人時代の到来を見据える日本社会にとって欠かせない。
出張先の大阪で予定先に向かうタクシーの車中、とあるビジネスホテルがシングルルームに一泊3万円の値をつけたと聞いて閉口した。価格は需要と供給のバランスによって決まるという経済学の基本を改めて思い返せばそれも自然なこと。
昨今、新設されるホテルの多くは宿泊特化型が増えている。従来、結婚式や宴会場利用などを収益としていたホテル像とは違い、その地域の体験プログラムなど周辺施設との連携事例が特徴という。定住人口が減少していくことを鑑みれば交流人口をいかにして増やすかが各地域経済の浮沈にも関わり、新たなビジネスを生み出す契機にもなる。訪日外国人6000万人の受け皿整備に民泊が果たす役割は大きく、また、その整備が求められている。