霞が関から見た永田町

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外国人労働者受け入れ・移民政策の議論は積極的に

 

 

 

増加の一途をたどる在留外国人

 

 アメリカのトランプ大統領をはじめ、欧米諸国では反移民を掲げる政治家や政党の伸長が顕著になっている。ネット上には、イスラム教や特定の人種に対して攻撃を行ったり、自民族の優越性を偏狭に訴えたりするサイトがあふれている。


日本でもヘイトスピーチが問題となって、対策法も制定され、規制条例をつくっている自治体もあるが、やはりネットでは野放し状態が続いている。


 公然と大量の移民や難民を受け入れてこなかった日本は外国人を受け入れることに関連する問題について、しっかり議論をして行ってこなかったことを指摘せざるを得ない。

 

 2017年12月時点で、在留外国人数は2,561,848人を記録しており、増加の一途をたどっている。実際、街に出てみれば、観光客が増えたことだけではなく、コンビニや飲食店などで働く外国人がいかに多いかが実感できる。そうした人たちが日本経済のある部分を下支えしていることは否定できない事実である。


 AIなどが発達して大量のホワイトカラーが職を失うことは確実だが、他方で特定の分野における人手不足が解消する見通しはまったく立っていない。

 

 

その場限りの労働者確保という視点しかない「骨太方針」

 

 政府は6月15日に「経済財政運営と改革の基本方針2018」(骨太の方針)を決定した。ここで注目されているのは、「新たな外国人材の受入れ」という項目が設けられ、関連する提言が盛り込まれている点である。(1)一定の専門性・技能を有する外国人材を受け入れる新たな在留資格、(2)従来の外国人材受入れの更なる促進、(3)外国人の受入れ環境の整備について触れられている。

 まさに中小企業・小規模事業者をはじめとした人手不足の深刻化への対応という視点が強調されている。一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を幅広く受け入れるため、就労を目的とした新たな在留資格を創設するとし、そのために出入国管理及び難民認定法を改正し、政府の基本方針を定めるとともに、業種別の受入れ方針を策定することが記されている。求める技能水準は、受入れ業種ごとに定め、日本語能力水準も、業務上必要な水準を考慮して、受入れ業種ごとに定めることとされている。


 政府の在留管理体制を強化するとともに、受入れ企業又は登録支援機関(業界団体等)による生活ガイダンス、相談対応、日本語習得支援等を実施することとし、在留期間の上限は通算5年とし、家族の帯同は基本的に認めないが、滞在中に高い専門性を有すると認められた者について、在留期間の上限が無く、家族帯同を認める在留資格への移行措置を整備する方向が打ち出されている。

 

 ほとんどのマスコミ報道では、政府が検討する新たな在留資格制度は農業、介護、建設、造船などの分野が対象となると書かれているが、「骨太方針」の本文にはそんなことは一つも書かれていない。マスコミには気前よく情報をリークするくせに、国民に公開する資料では肝心なことを示さない役所の体質はまったく変わっていない。


 外国人労働者の受け入れが促進されるわけであり、政策の変更が盛り込まれたと評価できないわけでもない。しかし、その場限りの労働者確保という視点でしか語られていないのは遺憾である。軽々に移民政策を認めろと主張したいわけではないが、法務省を中心とした役所の小粒の議論ばかりが前面に出ているのは残念だ。

 

 

大胆に移民を受け入れてきたオーストラリア、カナダ

 

 日本に比べれば、アメリカをはじめとする先進諸国はもっと積極的に、公然と外国人を受け入れてきた歴史がある。社会的には人種を巡る様々な問題も生じたが、アメリカの発展は多様な人種がいたからこそというのも誰もが知るところである。


 未だに白人中心の国と多くの日本人が思っている国にオーストラリア、カナダがあるが、実際に現地に行ってみると、そのイメージは崩れ、いかに多くの人種が住み着いているかを目の当たりにする。


 2016年の統計だが、オーストラリアでは住民の人口が2400万人とされ、そのうち4分の1以上(28.2%)が外国生まれで、他のOECD諸国の比率をはるかに上回っている。オーストラリアは1970年代まで「白豪主義」をとっていたことが信じられない。


 カナダの統計データによると、2016年の調査では外国生まれの750万人がカナダに来ている。カナダにいる5人に1人はそのような人たちである。2011年から2016年までに120万人が来ており、出身は多い順にフィリピン、インド、中国と続いている。

 

 いずれにしても、両国において外国生まれの住人の比率がここまで高いことには驚かされる。外国人を受け入れていることだけに原因があるわけではないが、経済社会における活力の源泉となっていることは事実である。


 ただここに来て、オーストラリアのターンブル政権は移民受け入れに歯止めをかける政策に動いており、2年前に連邦議会で議席を奪還した極右政党である「ワンネーション党」も移民政策を争点とするよう躍起になっている。


 カナダにおいては、バーナビー市などを含むバンクーバー周辺を歩いてみれば、中国系と思われる住民がいかに多いかを実感することになる。周囲から聞こえてくるのも中国語ばかり、日本人の買い物客に対しても中国語が話されることが少なくない。こういうことを知らないまま、バンクーバー界隈を旅すると、中国系住民の数の多さに圧倒される。

 

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難しい課題だが抜本的な議論は避けて通れない


 オーストラリア、カナダのことを語っただけで、単純に方向性を示すつもりはないが、外国人労働者受け入れ・移民政策についての政策議論は徹底的に行う必要がある。
最初の方にも書いたが、恒常的に人手不足が続いている飲食店やコンビニエンスストア等では、外国人労働者がいなければ業務が回らないのは誰が見ても明らかだ。


 こうした状況において、政府は「移民政策はとりません。しかし、外国人労働者は積極的に受け入れます」「働く人だけ来てください。しかし、家族は連れてこないで下さい」と言っているわけだが、この斜に構えたような姿勢は大いに問題ある。性急な結論を求めているわけではないし、様々な視点から検討を行うべきであり、議論は正面から行うべきである。

 

 政党はこの問題になかなか触れたがらない。国民民主党も「基本政策」には書き切れていないが、「綱領と私たちの思い」というパンフレットには「急速な労働人口の減少が進む中、日本経済、とりわけ地域経済において外国人労働力の影響が大きくなっている現状に正面から向き合い、必要な法制の整備を行います」との文章が盛り込まれている。労働組合とは関係の深い同党がここまで言い切ったことは注目に値する。


 あくまで一般論としての言い方になってしまうが、大量の労働者の移住・移民というものは、受け入れる社会において生活・文化面も含めて様々な摩擦が生じることもあるし、移民する側も差別を受けたりすることが往々にしてある。


 アメリカのレーガン大統領が第二次世界大戦中の日系人強制収容について、政府が公式に謝罪し、生存する被収容者に補償金が支払うための「下院法案442号」(市民的自由法案)に署名した日から、今年の8月10日でちょうど30年を迎える。

 

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