バリアフリー化の推進に関わる法律の制定をふり返る
高齢者や身体障害者などに配慮し、建築物や交通手段に関して利用や移動が円滑に行えるよう、バリアフリー化を推進するための関連法の整備が行われてきた。
1994年、「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」(ハートビル法)が制定された。これは、不特定多数の者が利用する建築物について高齢者、身体障害者等による円滑な利用の促進を図るため、国による建築主の判断の基準となるべき事項の策定、都道府県知事による指導、国及び地方公共団体による支援のための措置等を講じるとともに、高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる建築物に係る建築基準法の容積率の特例等所要の措置を講じるものである。
2000年には、「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」(交通バリアフリー法)が制定されている。これは、高齢者、身体障害者等が自立した日常生活及び社会生活を営むことができる環境を整備することが急務となっていることから、高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化を促進するための各般の施策を総合的に講じるものである。
そして2006年には、この二つの法律が統合され、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(バリアフリー新法)が制定されることとなった。
この法律に基づいて、「移動等円滑化の促進に関する基本方針」が定められている。当初の基本方針は2010年度末となっていたので、2011年3月に改定され、2020年度末を目指した新しい目標が設けられた。各施設等の整備目標について、1日平均利用客数5000人以上のものから3000人以上と対象を広げるなど、より高い水準の新たな目標が盛り込まれた。民主党政権下での取り組みであり、基本方針改正の告示は、中野寛成・国家公安委員会委員長、片山善博・総務大臣、大畠章宏・国土交通大臣によって定められた。
制定から12年を経てバリアフリー法を改正へ
今年の通常国会で、国土交通省から「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律の一部を改正する法律案」が提出されている。法律の制定・施行から12年目を迎えたが、社会の高齢化はますます進展し、また障がいのある人も含めて様々な人たちが暮らしていける共生社会を確立していくべきとの機運は高まっており、この時期に法案が提出されたことは評価できる。概要は以下の通りである。
(1) 理念規定/国及び国民の責務
○理念規定を設け、バリアフリー取組の実施に当たり、共生社会の実現、社会的障壁の除去に留意すべき旨を明確化
○国及び国民の責務に、高齢者、障害者等に対する支援(鉄道駅利用者による声かけ等)を明記し、「心のバリアフリー」の取組を推進
(2) 公共交通事業者等によるハード・ソフト一体的な取組の推進
○エレベーター、ホームドアの整備等のハード対策に加え、駅員による旅客の介助や職員研修等のソフト対策のメニューを国土交通大臣が新たに提示
○公共交通事業者等に対し、自らが取り組むハード対策及びソフト対策に関する計画の作成、取組状況の報告及び公表を義務付け
(3) バリアフリーのまちづくりに向けた地域における取組強化
○市町村が、駅、道路、公共施設等の一体的・計画的なバリアフリー化を促進するため、個別事業の具体化を待たずにあらかじめバリアフリーの方針を定める「マスタープラン制度」を創設
○近接建築物との連携による既存地下駅等のバリアフリー化を促進するため、協定(承継効)制度及び容積率特例制度を創設
(4) 更なる利用し易さ確保に向けた様々な施策の充実
○従来の路線バス、離島航路等に加え、新たに貸切バス・遊覧船等の導入時におけるバリアフリー基準適合を義務化
○従来の公共交通機関に加え、新たに道路、建築物等のバリアフリー情報の提供を努力義務化
○バリアフリー取組について、障害者等の参画の下、評価等を行う会議を設置
詳細な附帯決議をつけて全会一致で成立へ
4月18日、衆議院国土交通委員会にて「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律の一部を改正する法律案」の審議が行われ、質疑終局後、全会一致にて可決された。その後、14項目からなる附帯決議が出され、こちらも全会一致で採択された。
あまりにも長くなるので、項目を絞り、要約をまとめようと思ったが、すべてが重要な課題を含んだものであり、短くしてしまうと意味が変わってしまうものもあるので、以下に附帯決議の全文を掲載する。
高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議
障害をお持ちの方にとっても健常者にとっても誰にとっても暮らしやすいユニバーサル社会の実現を目指すには、今回の法改正に加え、幅広い施策を推進することが不可欠である。国会において、そのために必要な立法措置を引き続き講じていくよう努めるものとする。あわせて、政府は 本法の施行に当たっては、次の諸点に留意し,その運用について遺漏なきを期すべきである。
一 本法に基づく施策はすべて、社会的障壁の除去及び共生社会の実現に向けて行われなければならず、また、すべての国民が障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの認識の下、社会的障壁の除去のために合理的な配慮を的確に行えるよう必要な環境の整備を進めること。
二 本法における障害者には、身体障害者のみならず知的障害者、精神障害者、発達障害者を含む心身の機能の障害があるすべての者が含まれることについて、改めて広く国民に周知するよう努めること。
三 高齢者、障害者等の移動に配慮し、交通結節点における移動の連続性を確保するため、関係者の連携が十分に図られるよう、必要な措置を講じること。
四 地方公共団体は地域の実情に応じて、二千平米未満の小規模店舗について、バリアフリー化の基準適合義務を条例により課すことが可能であることを踏まえ、その一層の促進を図るため、政府としても小規模店舗のバリアフリー化の態把握に努めるとともに、ユニバーサルデザイン化に向けて所要の措置を講じること。
五 災害時の指定緊急避難場所等となる学校施設等については、近年、相次ぐ集中豪雨や台風に加え、南海トラフ地震や首都直下型地震などの大規模災害の予測を踏まえ、体育館だけではなく校舎も含めた一層のバリアフリー化に向けて、必要な措置を講じること。
六 共同住宅のフリー化の一層の促進を図るため、地方公共団体が地域の実情に応じて共同住宅をバリアフリー化の基準適合義務の対象に条例により追加することが可能であることを踏まえ、その一層の促進を図るとともに、居住者のニーズに応じた選択が可能となるよう、共同住宅のバリアフリーに関する情報提供の取組を促進すること。
七 国際パラリンピック委員会によるバリアフリー対応の客室が不足しているとの指摘を踏まえ、選手や観光客等の受け皿となる宿泊施設のバリアフリー化の一層の促進を図るため、バリアフリー客室基準の見直しなど、必要な施策を講じること。
八 高齢者、障害者等の観光需要の高まりや、二〇二〇年東京オリンピック·パラリンピック競技大会を控え訪日外国人観光客の増加が見込まれることを踏まえ、バリアフリー化された空港アクセスバスの導入・普及に向けた支援措置を講じること。
九 二〇二〇年東京オリンピック·パラリンピック競技大会の開催を踏まえ、競技会場において一定の車椅子用の座席の確保に努めるとともに、車椅子用の座席の配置に当たっては、サイトラインが確保できるよう、十分に検討すること。
十 駅のプラットホームにおける視覚障害者の転落を防止するため、ホームドア等の設置を一層推進すること。また、特に、地方における旅客施設のバリアフリー化が遅れていることから、全国的なバリアフリー水準の底上げに向けて必
な取組を行うこと。
十一 視覚障害者が安全に道路を移動することが障害者の歩行のできるよう、音響式信号機の更なる設置の促進を図ること。また、聴覚障害者の歩行の安全を確保するため、緊急自動車が走行する際には、聴覚障害者の歩行の安全の確保に努めること。
十二 車椅子利用者が容易に単独乗降できるようプラットホームと車両の段差·隙間の数値基準を明確化することを検討すること。
十三 車椅子利用者の公共交通機関の予約時における利便性の向上を図るため、
簡易な方法での予約を可能とするよう公共交通事業者等を適切に指導すること。
十四 新幹線等の鉄道車両において、車椅子のまま乗車することができるフリースペースの整備の一層の促進を図るため、鉄道事業者を適切に指導すること。
こここまで詳細な附帯決議がついたということは、それだけ多くの課題があるということである。まだ参議院での審議もあるし、両院での審議をしっかり尽くした上で、法案の成立を図るべきと考える。