霞が関から見た永田町

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クールジャパン失敗の轍を踏む外務省

 

 

 

ODAの広報に「鷹の爪団」の起用

 

 日本の政府開発援助(ODA)についての理解を深めることを目的として、外務省がアニメ「秘密結社 鷹の爪団」のキャラクターを起用した動画の配信を始めた。

 

(ODA)「鷹の爪団の行け!ODAマン」 | 外務省

 

 

 この取り組みについて河野太郎外務大臣は、ODAが貴重な税金を使う事業であるから、国民にその目的や重要性を理解してもらう必要があると21日の記者会見で発言している。その理解の促進のために、アニメ「秘密結社 鷹の爪団」の主人公「吉田くん」を外務省限定の「ODAマン」に任命し、動画を制作して広報を展開するというのである。

 

河野外務大臣会見記録 | 外務省

 

 

 国民のODAへの理解や広報の必要性は河野大臣の指摘のとおりだが、その実現のために採用する方法は極めて安易だ。


 河野大臣自ら、21日の記者会見では、「一回やってみて,これがどれぐらい国民の皆様の関心につながるものか,試してみたいと思っております。」と発言しており、全面的な取り組みではなく試行という位置付けのようだが、そうであるなら、早急に再考すべき取り組みであると言えるだろう。

 

 

クールジャパンの蹉跌

 

 そもそも、政府がアニメや日本文化を持ち出すと、碌なことにならない。


 その代表事例とも言えるのがクールジャパンを標榜して展開された事業だ。先日も、経済産業省所管の官民ファンドであるクールジャパン機構について、その事業の失敗に関わり訴訟沙汰に発展したと報じられている。

 

n-seikei.jp

 

 

 その他にも、クールジャパン機構が60億円投資した官製映画会社(株)「ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKS」は一本の映画も制作せずに、後にベンチャーキャピタルに3400万円で売却されるということもあった。

 

 同機構の出資によりクアラルンプールに開設された「ISETAN the Japan Store」も閑古鳥が鳴く始末。

 

news.yahoo.co.jp

 

 

 クールジャパン機構に対しては、会計検査院から損失状態にあるとの指摘も以前なされている。「官」の世界の発想が馴染まないものに無理に「官」が手を出しても上手くいくはずがないのだ。

 

 

「ゴルゴ13×外務省」は成功したのか

 

 アニメ「秘密結社 鷹の爪団」の主人公「吉田くん」を使った広報は、担当局からの提案であると河野大臣は話している。その担当局の職員の自発的な創意なのか、あるいは広告会社が裏にいて、その会社からの提案を職員が受けて大臣にあげたのか、その詳細は不明である。ただ、そこには、アニメを使って広報をすれば国民に伝わると安易に思っている姿が透けて見える。

 

 ところで、既に外務省も失敗と評されそうな取り組みを行っている。


 外務省が公開した「ゴルゴ13×外務省 海外安全対策マニュアル(予告編)60秒版」という動画を見て欲しい。ポイントは、その視聴数。

 


ゴルゴ13x外務省 海外安全対策マニュアル(予告編)60秒版

 

 

 この視聴数、この記事を執筆している段階で、動画の公開から2週間ほど経過しているが100回ほどだ。もちろん、この動画は海外安全対策マニュアルを広報するものであって、その視聴数が少なくとも、マニュアルそのものへのアクセス数が多ければ、それで良いのかもしれない。


 実は、マニュアルそのものについても、ゴルゴ13を使用した動画が作成されている。それも第1話から第13話まで。


 第1話はさすがに少し話題になったこともあってか、8万回を超える視聴回数となっている。しかし、第13話となると5千回程度だ。

 


ゴルゴ13×外務省 海外安全対策マニュアル(第1話)

 


ゴルゴ13×外務省 海外安全対策マニュアル(第13話)

 

 

 外務省の動画が公開されているYoutubeチャンネル内にある動画の視聴回数は軒並み千回に満たない。そういう中では十分に健闘しているということかもしれないが、例えば河野大臣の会見の映像のように、録画したものをほぼそのままアップしているのとはわけが違う。当然に動画制作にも費用はかかっているわけで、貴重な税金を使った事業を広報する、その広報そのものに無駄な費用はかけて欲しくはないところだ。

 

 

安易な日本文化やアニメの「利用」は失敗のもと

 

 外務省としては、これまでにない広報の方法を採用したということで得意げなのかもしれないが、そういう「アニメや日本文化を持ち出せば、自分たちは面白いものを作れる」という思い上がりは失敗を宿命づけられている。

 

 クールジャパンの失敗の一端については先に指摘したが、その中心は経済産業省であることから、外務省からすれば、「自分たちはちがう」と思っているのかもしれない。だが、それ自体も勘違い甚だしい。所詮、役人はどの省庁にいようが役人だ。企業であれば、事業の失敗は倒産の危機に直結するが、行政はそのようなことはない。事業の失敗をしても責任の所在は有耶無耶ということすらある。


 もしや、「ゴルゴ13×外務省」を失敗とは見ずに、むしろそれを成功事例として、今回の「秘密結社 鷹の爪団」は二匹目のドジョウ狙いですらあるかもしれない。過去の取り組みを正確に評価せずとも次に似たようなことを始めることが出来る。まさに、お役所体質そのものだ。アニメを積極的に活用するところで新機軸を示すのではなく、その体質を改めることで新機軸を示してほしい。

 

 ちなみに、「秘密結社 鷹の爪団」の生みの親であるFROGMAN氏は島根県にゆかりがある。そのため、島根県も「秘密結社 鷹の爪団」を活用したプロモーションなどを行っている。その成否は何とも言い難いところだが、島根県のWebサイトにFROGMAN氏を紹介したページがある。そこに、こんな言葉がある。

 

島根県:しまね通(トップ / 県政・統計 / 政策・財政 / 広聴・広報 / フォトしまね / 210号)

 

 

「心に“刺さる”情報発信を」

 

 「何か新しいことをやってみました」という役所の自己満足ではなく、受け取る人の心に刺さる情報発信を行う必要があるのだ。自己満足のクールジャパンと同じ轍を外務省は踏みつつあり、何としても再考を促したい。