霞が関から見た永田町

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野党主導の政策実現の成果もあった196通常国会

 

 

 

TPP11、IR整備法案など対立点が目立ったが

 

 196通常国会が終わって、国会周辺は静けさを取り戻している。森友・加計問題をはじめ、与野党の態度が異なるIR整備法案、TPP11条約・関連法案、働き方改革法案、参議院選挙制度改革法案などが注目されたし、最終局面では内閣不信任案まで飛び出してきたので、何かと対立点ばかりが目立った国会だった。

 

 内閣提出の法案は61本成立している。議員立法は20本成立しており、うち衆法が16本、参法が4本である。


 条約は11本が両院で承認された。TPP11のほかに、いくつかのマルチ条約や旧ソ連関係諸国との協定などがある。


 国会の冒頭には平成29年度補正予算が、それに続いて平成30年度本予算が成立している。野党会派は本予算に対する組み替え動議を衆議院に提出したが、与党にあっさり否決されてしまった。

 

 野党は何でも反対しているように受け止める人もいるが、旧民進党・旧希望の党・国民民主党の場合、閣法に対してはおおむね8割くらいの賛成率で、是々非々で臨んでいたことが理解できる。

 

 

政治分野男女共同参画推進法など野党主導の議員立法も成立

 

 議員立法の場合、与党が主導するものもあれば、野党が主導するものもある。今回成立した「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律案」は旧民進党が積極的に関わった法案である。

 

 2016年の通常国会に民進党が他の野党とともに先陣を切って法案を提出した。その後、与党案との一本化に合意するが、2017年においては国会情勢の影響もあって、成立には至らなかった。

 

 「政治分野における女性の参画と活躍を推進する議員連盟」会長としてこの課題に取り組んできた中川正春衆院議員が各会派に働きかけを行ったことも功を奏して、今年の通常国会で法案の成立にこぎつけた。

 

 この法律は、国や地方自治体の政策立案・決定過程において、多様な国民の意見を的確に反映させるために、政治分野における男女共同参画の推進が一層重要であるとして、国政・地方自治体議会の選挙において男女の候補者数ができる限り均等となることを目指すと規定している。政党その他の政治団体に対し、目標値を設定するなどの自主的な努力を求めている。

 

 さらに、国民民主党主導の議員立法「公職選挙法の一部を改正する法律案」(参議院選挙区選挙の政見放送に関する公職選挙法改正案)が成立していることも注目に値する。この法律は、政見放送が可能な選挙の中で、手話通訳も字幕も付与できなかった参議院選挙区選挙において、持ち込みビデオ方式を導入し、手話通訳、字幕を付けることができるようにする内容である。

 

 2016年には民進党が提案を行って、各会派とも手話通訳、字幕は認めるべきとの意見で一致したが、時間切れとなり、法案成立には至らなかった。それから2年が経った国会で、野党が主導の議員立法の成立は困難であることを承知の上で、国民民主党は丁寧な説明を繰り返し、より多くの国民に政見を知ってもらうことの重要性を説き、法案の成立へとこぎつけた。

 

 

欠陥が是正された「消費者契約法改正案」

 

 いかに与党が甘い審査をしたかということが露呈した法案があった。政府が提出した「消費者契約法の一部を改正する法律案」は、事業者の行為により消費者が困惑した場合について、契約を取り消すことができる不当な勧誘行為の類型として、社会生活上の経験が乏しい消費者の不安をあおったり、勧誘を行う者に対する恋愛感情などに乗じて、事業者が一定の内容を告げることを追加する等の措置を講じることを目的としている。

 

 しかし、「社会生活上の経験が乏しいことから」という若者だけを想定しているような要件が追加されたことで、高齢者等の被害が救済されないような間違った解釈や執行が行われることになりかねないとの懸念が示されていた。高齢者をねらった悪質な商法の被害が後を絶たないだけに、政府・与党は何を議論していたのかと批判されても仕方がない。

 

 この点は、野党を中心に指摘がなされ、与野党で修正協議をすることとなった。最終的には、契約を取り消すことができる不当な勧誘行為の類型として、「加齢又は心身の故障による判断力の低下を利用した不安をあおる告知」「霊感等合理的に実証することが困難な特別な能力による知見を用いた告知」が追加された。

 

 野党の主導によって、政府提出法案の原案の欠陥が是正されるという大きな成果が得られたわけであり、立法府が本来の役割を果たしたと評価して良いだろう。

 

 

野党提出の数々の議員立法は審議もされず

 

 このように先の通常国会においては野党がリードして、実現した成果も少なくない。ただ、与党を巻き込んでの政策課題であり、野党だけの議員立法というのは審議に付されることもなく、たな晒しにされるのが常である。

 

 与党側からどんどん修正してもいいから、野党提出の議員立法も成立させていくような土壌を作っていくべきだ。この阻害要因の一つとなっているのが、霞が関、特に財務省の姿勢だ。法律ができると予算をつける口実ができて、面倒なことが増えるのが嫌だというのが本音のようだ。この国会でも適用期限が延長された「東日本大震災の被災者に対する援助のための日本司法支援センターの業務の特例に関する法律の一部を改正する法律案」が2012年に制定された際、財務省の主計局が渋い意見を表明していたとの情報に接したことがある。

 

 三権分立の基本原則に立つならば、立法府が通した法律を厳正に執行するのが行政府のつとめだ。法律ができてから、どうやって執行するのか考えれば済むことだ。大がかりな内容を伴う法律は施行日まで一定の期日を置くのが当たり前だ。

 

 だからといって、議員立法を作る際に、内容など粗くても構わないとか、法律の執行体制のことなど軽視して良いと言っているわけではない。いずれにしても、野党提出の議員立法についても、行政府は与党に対して「フリーな立場で臨んで下さい」という態度をとるべきであり、そうした議員立法がきちんと審議され、成立するような環境づくりに協力すべきである。