- 北方領土問題の解決等に関する議員立法2本が審議される
- 慎重の上にも慎重を重ね審査を行った国民民主党
- 委員長提案だが、政府に注文をつける決議がついた
- 月並みの表現だが、北方領土返還交渉は毅然たる態度で粘り強く
北方領土問題の解決等に関する議員立法2本が審議される
この国会で、北方領土問題の解決等に関係する議員立法が審議されている。「北方領土問題の解決を促進するための特別措置に関する法律の一部を改正する法律案」「北方地域の旧漁業権者等の促進のための特別措置に関する法律の一部を改正する法律案」の2本である。衆議院の沖縄及び北方問題に関する特別委員長による提案である。
最初の法案は、現行の本法律に基づく北方領土隣接地域振興生活安定計画に①「特定共同経済活動」(共同経済活動のうち主として北方領土隣接地域の経済の活性化に資するものとして主務大臣が定める共同活動をいう)の円滑な実施のために必要な北方隣接地域の環境整備に関する事項を追加、②北方領土隣接地市地域振興基金の取り崩しを可能にすること、③国が必要な財政上の措置、金融上及び技術上の配慮をしなければならない、ことを規定している。
二つ目の法案は、低金利融資を受けることができる対象者を拡大するもので、最初の法案とのセットとなっている。
慎重の上にも慎重を重ね審査を行った国民民主党
各党・各会派はさっさと手続きを済ませ、6月中にも衆議院の委員会で手続きをする手はずという話も伝わっていた。
ところが国民民主党において、慎重の上にも慎重を重ね審査が行われたため、そうしたスケジュールを変更せざるを得なくなった。衆議院では第三党の政党であるが、与党の起案者や政府関係者にも内容を厳しく問い質し、時間をかけて法案への対応を協議していたと聞いている。
予算支出などに関する実効ある内容としては、北方領土隣接地市地域振興基金の取り崩しを可能にすることくらいだ。低金利時代においては、基金の運用が難しく、このことは現実的な対応だと言える。
国民民主党がここまで審議を引っ張ったのは、定義が曖昧な条文が加わっており、下手をすれば日本の主権を損なうことにもなりかねないとの懸念を抱いたからだと聞いている。
実際に、改正条文を読んでみた。目的のところに、「平成28年12月16日に我が国とロシア連邦との間で協議の開始が合意された我が国及びロシア連邦により北方地域において共同で行われる経済活動(第2条第5項において「共同経済活動」という。)の進展も踏まえつつ」という文章が加わった。
協議が始まった程度のものを法律で定義するなんて、しかも目的に加えるというのは、いささか軽率ではないかとの印象が否めない。日本とロシアで解釈が違うことも十分あり得るのではないか。そんなものを日本の法律に明記して良いのかとも思ってしまう。
「『特定経済活動』とは、共同経済活動のうち主として北方領土隣接地域の経済の活性化に資するものとして主務大臣が定める共同経済活動をいう」という条文も盛り込まれた。
「国、北海道並びに北方領土隣接地域の市及び町は、特定共同活動を円滑に実施するために必要な北方領土隣接地域の環境整備に努めるものとする」という条文も入った。
政策立案の世界において、「資する」とか「環境整備」というのは、具体的なメニューがない時に、空間を埋めるのに便利なワードである。それだけに、政策効果もよく分からないし、詰め切れていない部分が多い法案との印象を受ける。
委員長提案だが、政府に注文をつける決議がついた
ようやく7月9日の衆議院の沖縄及び北方問題に関する特別委員会で、法案が取り扱われた。国民民主党の草案がベースとなり、各党・各会派の調整を経て、「北方領土問題等の解決の促進及び北方領土隣接地域の振興に関する件」(決議)が6会派共同提案によって行われ、全会一致で採択された。
提出者を代表して国民民主党の山岡達丸議員が趣旨説明を行った。以下に全文を掲載する。
北方領土問題等の解決の促進及び北方領土隣接地域の振興に関する件
政府は、北方四島における共同経済活動の進展を踏まえつつ、北方領土問題の解決の一層の促進と北方領土隣 接地域の振興を図るため、「北方領土問題等の解決の促進のための特別措置に関する法律の一部を改正する法律」 の施行に当たり、次の事項について十分配慮すべきである。
1 北方四島における共同経済活動については、平和条約問題に関する日露双方の法的立場を害さない形で行われることを必ず確保すること。
2 主務大臣による特定共同経済活動の指定に当たっては、北方領土隣接地域の経済の活性化に資するものとなるよう、北方領土隣接地域をはじめとした地元の要望や元島民の方々の意見を十分踏まえること。
3 特定共同経済活動を円滑に実施するために必要な環境整備に係る事業については、北方領土隣接地域において実施されるものとすること。
4 北方領土隣接地域振興等基金を取り崩すに当たっては、地域振興等の推進に向けた事業の必要性や緊急性を考慮し、基金の安定的な運営が図られるよう配慮すること。
右決議する。
この決議で十分かどうかは議論のあるところだが、共同経済活動は日本の主権を侵さない形で行われるものでなければならないことや、特定共同経済活動は地理的に北方隣接地域で行われるものでなければならないこと等について、政府にはっきりと注文をつけている点は評価できる。
月並みの表現だが、北方領土返還交渉は毅然たる態度で粘り強く
歯舞群島、色丹島、国後島及び択捉島の北方領土は、日本人が住み続けてきた我が国固有の領土であり、ソ連、ロシアに不法占拠されてから70余年が経過している。
長年にわたって、北方領土の返還運動に取り組んできた関係者の努力に心より敬意を表したい。元島民の方々の御労苦や故郷を思う心情は察するに余りある。北方領土問題は、日本の主権に関わる重大問題であり、領土返還は全国民の願いである。元島民の方の墓参・故郷訪問など一定の前進が見られるが、ロシアの実効支配を既成事実化することは許されない。
国民世論を背景に、政府は、我が国の正当性を国際社会に訴え、毅然たる態度で粘り強く対露交渉に臨むことが必要だ。そして、北方領土の早期返還と日露両国の平和条約の締結を訴えつつ、元島民の方への支援、北方領土隣接地域の振興、返還への一層の世論喚起などにつとめていくべきだ。
その意味で、今回の法案改正における基金取り崩し措置などは時宜に適うものとは言えるが、共同経済活動、特定共同経済活動などの言葉が盛り込まれたこがきっかけとなって、我が国の主権が揺るがされるようなことは絶対にあってはならない。国会決議をしっかり守っていくこと、法を厳正に執行していくことなど、政府の姿勢を厳しく見守っていく必要がある。