首相の面会記録は破棄する
政府の公文書管理の問題点を鋭く追及してきた毎日新聞の「公文書クライシス」。
新たな記事では、現政権の文書管理に対する消極的な姿勢を明らかにしてみせた。
毎日新聞が首相官邸に対して、安倍晋三首相と省庁幹部らとの面談で使われた説明資料や議事録などの記録約1年分を情報公開請求した。すると、その全てが「不存在」と回答されたというのだ。
その一部は、「首相官邸ではなく、各府省が管理すべきもの」との回答もあったそうで、それらについて各府省に公開請求を行ったところ、説明資料の保有を認める事例もあったものの、どの府省も議事録の保有を認めなかったという。
毎日新聞は同紙に掲載している首相動静「首相日々」に基づき面談の記録について情報公開請求を行っている。この首相動静は毎日新聞に限らず、どの新聞も掲載しているもので、その内容も各紙大差はない。毎日新聞だけが把握していた首相と省庁幹部との面談というのはあっても、ごく少数である。多くの面談自体はいわば公知の事実であって、面談がなかったから記録も存在しないということはほぼないと言って良いだろう。
つまり、情報公開請求の結果、「不存在」ということは、本来作成すべき文書が作成されなかったか、作成されても廃棄してしまったかということになる。あるいは、存在しているにもかかわらず、存在しないと嘘をついているのかもしれない。
行政文書の管理に関するガイドラインは形骸化
森友学園や加計学園の問題もあって、2017年12月に政府は「行政文書の管理に関するガイドライン」を改定した。
このガイドラインは、「処理に係る事案が軽微なものである場合を除き、文書を作成しなければならない。」と、政策や事業方針に影響を及ぼす打ち合わせ記録の作成を義務づけるものであった。
しかし、毎日新聞による情報公開請求の結果、面談の記録は「不存在」とされた。本来作成すべき記録が作成されていないようなのだ。
行政文書の管理に関するガイドラインの改定時、政府は行政文書管理に関する問題はこれで解消されたと胸を張っていたわけだが、実際にところは、ガイドラインは無視され、形骸化している可能性まで浮上する事態となっている。
何をしていたのか確認できない安倍総理という存在の危うさ
毎日新聞の記事によると、面談で使用された説明資料については、その保存期間が1年未満に設定されていたという。この1年未満というのは、国立公文書館の審査を経ずに、いつでも廃棄できる資料として位置付けられることを意味する。そして、実際に、面談終了後には、その種の資料は廃棄されているというのだ。
この間、加計学園問題では、総理秘書官が加計学園関係者と官邸で面談したのか否か、そして、面談していたとすると、どのようなやりとりがなされていたのかに注目が集まった。
今回、毎日新聞が情報公開請求を行ったのは、安倍総理と省庁幹部の面談の記録である。総理秘書官と外部の人物とのやりとり以上に、政策過程では重要なやりとりがそこではなされていたはずである。もちろん、機密にかかわる情報もそこには含まれるだろうが、それも記録を作成しなかったり、作成しても直ぐに廃棄してしまったりしては、その当否は永遠に確認不能になってしまう。
この後、どれくらい安倍政権が続くのか分からないが、少なくとも、今後は安倍総理が省庁の幹部とどのようなやりとりをしたのか確認出来ないという状況が続くことになる。そして、安倍総理が政権を次の者に譲った以後も、その確認が出来ないということになる。
これが意味するのは、「安倍総理は何をしていたのか分からない」ということである。省庁幹部から、どのような情報提供や提案があり、安倍総理がどのような判断を下し、指示を行ったのか。その実態を国民が把握することが叶わなくなったのだ。
これはつまり、安倍総理には国民による民主的な統制が利かなくなったということと同義だ。総理と役人のやりとりを事後に確認出来ない。どこぞの独裁者のことを笑っていられない状況が日本でも生まれているのだ。まさに民主主義の危機が招来しつつあると言えるのではないだろうか。
この件、おそらく野党からの追及があるものと思うが、資料はどんどん廃棄されてしまうので、思うような追及も出来ないことが当然に予想される。
こういう時こそ、国民的な議論をもって、その「暴挙」を正す必要があると思うところである。