20年ぶりに紙幣のデザインが刷新されるという。2024年、1万円札は福沢諭吉から渋沢栄一に、5000円札は樋口一葉から津田梅子に、1000円札は野口英世から北里柴三郎へ。紙幣のデザイン変更は小泉政権の時以来、となる。
メディアの論調を見ていると、新紙幣への移行で、銀行のATMを中心に経済効果があるとする意見が散見される。例えば、読売新聞などはGDPを1.3兆円程度押し上げる試算があることを紹介しているし、タンス預金にも注目している。日本銀行の資金循環統計を引用し、家計が保有する現金は5年前から20兆円ほど増え、92.7兆円という。その多くはタンス預金と見られるため、新紙幣の移行とともに、このタンス預金が市中へ出回ると踏んでいる。しかし、果たして、そのような試算通りになるだろうか?
新紙幣への移行するのは2024年。今から5年後だ。その時に果たして紙の紙幣が今の同じように流通しているだろうか。
現金が消えた国・スウェーデン
海外を見てみよう。世界では一気にキャッシュレス経済への移行が進んでいる。例えば、現金が消えた国として知られるスウェーデンの現金流通量はGDP比でわずか1.4%となっている。また、中国では商品購入の決済だけでも約143兆円のモバイル決済市場が立ち上がっている。世界的に見ても、多くのキャッシュレス先進国ではその比率は60%近くに達するのに対して、日本はわずか18.4%という状況にある。
これをもって日本は現金信仰の強い国だから、これからの現金主義が続くと見るのは誤りだろう。そのトリガーは日本社会の高齢化だ。コンビニですら、今、バイトに担い手不足が叫ばれている。ここへきて、無人レジの導入が加速しそうなのは、人を配置できない未来が目の前に来ているからだ。
さて、その時に今のように現金が前提となるだろうか。レジ締め、現金の盗難、色々なことを考えたら、貨幣は電子化した方が社会的には便益が高くなるのは自明だろう。
キャッシュレスが前提の外国人による観光消費
ほかにもある。インバウンドで日本にやってくる外国人の多くはキャッシュレス経済に慣れ親しんだ人たちだ。この外国人観光客の経済効果も向こう10年で大きく成長する見込みだ。2016年の訪日外国人消費の経済効果は3兆2631億円だが、2030年には9兆3707億円に増大する見込みだ。この数字は日本人による国内観光消費額の6兆3819億円を大きく上回る。
こうした確実に起きる未来を展望すれば、本来、このタイミングで議論すべきは新紙幣の移行ではなく、デジタル通貨への移行が本筋だ。2024年の新紙幣移行のニュースが世に出てから、このデジタル通貨への問題提起を行った政治家はほとんどいない。
デジタル通貨への移行を展開する玉木代表
その中で注目は国民民主党の玉木代表だ。4月8日にtwitterに次のような発信を行なっている。「そろそろ紙の話もいいが、本当にキャッシュレスやデジタルエコノミーを革新的に進めるなら、法定通貨「円」そのものの電子化の議論こそ聞きたい。いわゆる中央銀行デジタル通貨「CBDC」の議論は中国や英国では進んでいる。日本こそ率先して進めるべき」。
数多くの国会議員がいる中で、新紙幣への移行に対してデジタル通貨の視点を披瀝したのは、見る限り玉木氏くらいのものだ。なんでも反対の立憲民主党に対して、こうした前向きな政策発言できる国民民主党は代表の個性もあるが、明るさを伴う。残念ながら、国民民主党は今、政党支持率がなかなか上がらない。社会が政党を政策で見ることができれば、反自民の立憲民主党ではなく、自民に対峙し得るもう一つの保守政党を目指す国民民主党に注目が集まるはずだ。今はまだ厳しい状況が続くが、未来を信じて踏ん張りどころだ。