愛媛県から新たな文書が公開された
愛媛県が国会の求めに応じて新たに文書を公開した。
その中に、2015年2月25日に安倍晋三首相が加計学園の加計孝太郎理事長と面会し、その場で、安倍首相 からは「そういう新しい獣医学部の考えはいいね。」というコメントを得たと加計学園関係者が愛媛県の担当者に話したという記載があった。
さっそく新聞各紙の2015年2月25日の首相動静が確認されるところとなり、そこには加計孝太郎理事長との面会の記載がないことが分かった。加えて、安倍総理と加計学園も面会を否定していることから、この日に二人は会ってはいないではないかとの見方も出ている。
首相動静には全ての出来事は掲載されていない
ところで、新聞各紙の首相動静について多くの人が誤解しているようだが、これには首相に関わる出来事が全て掲載されているわけではない。
例えば、首相官邸に人が訪ねてきたとして、官邸に詰めている記者は訪問先を尋ねる。このときに首相以外の訪問先を答えれば、その人は首相と面会したと書かれることは基本的にない。記者には見えないルートを通って、首相と会うことも可能である。
また、安倍総理との大変親しい田崎史郎氏も著書の中に書いているように、首相動静に掲載されない会議も存在している。いわゆる非公式という扱いにしてしまえば、首相動静には載らないことあるのであって、首相動静に掲載されていないことをもって、それがある人の訪問を否定することにはならないのだ。
この点については、立憲民主党の枝野代表も的確に指摘している。
確かに、官邸の総理執務室等への「表の」出入り口にはカメラが付いていて、記者さんなどがチェックしています。しかし、執務室以外で会うことや、カメラのない動線で執務室に入ることは可能です。私も官房長官時代に、総理動静に載らない会い方で総理と会っていました。 https://t.co/bDWQnQYAjy
— 枝野幸男 (@edanoyukio0531) May 22, 2018
さらに、枝野代表は、愛媛県が公開した文書に言及して、この日に両者が官邸で会ったとは書かれていないと指摘している。例えば、安倍総理の私邸で会っていた場合には、首相動静に記載されない可能性が十分にあるのだ。
そもそも愛媛県文書では「どこで」会ったかを示しておらず、官邸とは限りません。私がツイートしたのは、「新聞に載る総理動静に記述がないからといって、会っていないことを示すものではまったくない」ということを説明する上で、総理官邸の構造やそこでの経験を示したものです。
— 枝野幸男 (@edanoyukio0531) May 22, 2018
首相動静に記載されている14回の他に、加計理事長とは5回会っていると、安倍総理は23日の厚生労働委員会でも答えている。
もちろん、現段階では、2015年2月25日の安倍総理と加計氏の面会はあったともなかったとも言えないというのが正しい。ただ、日時はこれではなかったとしても、この時期に安倍総理と加計理事長が会って、獣医学部新設の件について会話を交わしていたと考える方が、その後の出来事の説明はつきやすくなる。
柳瀬首相秘書官への訪問の端緒
愛媛県が公開した文書の中に、以下のような記載があった。
「柳瀬首相秘書官と加計学園の協議日程について、(2月25日の学園理事長と総理の面会を受け、同秘書官から資料提出の指示あり)。(学園)3月24日(火)で最終調整中である」
この3月24日とされる訪問が、加計学園の関係者による柳瀬首相秘書官との第一回の面会にあたる。
そして、これを受けて、これまで焦点となっていた4月2日の愛媛県と今治市の担当者による柳瀬氏への訪問につながるのである。
こうしてみると、一連の動きは以下のように説明出来る。
2015年2月末:安倍総理と加計理事長
加計理事長が安倍総理に新たな獣医学部新設案の相談
→安倍総理が柳瀬氏へ対応を指示
2015月3月末:加計学園の関係者と柳瀬首相秘書官
獣医学部新設のための方策を相談するための面会
→柳瀬氏より、加計学園側に国家戦略特区の申請について指南
2015年4月2日:加計学園の関係者、愛媛県・今治市と柳瀬首相秘書官
国家戦略特区申請にあたり、自治体の関係者との引き合せ
→申請に関する方向性について、柳瀬氏らの確認を受ける
2015年6月頃:加計学園の関係者と柳瀬首相秘書官
国家戦略特区への提案の報告
→指南どおり、申請しましたという報告
2月末の二人の面会と安倍総理による柳瀬首相秘書官への指示については、それを裏付ける証拠はないため、憶測の域を出ない。ただし、3月末の加計学園との面会自体は先の参考人招致で柳瀬氏も認めており、その面会の前に、「2月25日の学園理事長と総理の面会を受け、同秘書官から資料提出の指示あり」とあっての3月24日の日程調整となっているところを見ても、何がしかの指示が柳瀬氏に対して行われたと見ても不自然ではない。
当然、安倍総理も慎重であったはずで、「加計学園の獣医学部新設を何としても実現するように」などとは言わずに、「対応をよろしく」程度のことであったはずだ。もちろん、この指示を裏付ける文書など残しているわけもないので、強気に、「私が指示をしたというのであれば、その証拠を出せ」と野党に反論することも出来るのであって、実際に安倍総理はそうしている。
試験問題の作成者・採点者が事前に受験生に試験対策を教える
愛媛県が公開した文書の中には、4月2日の面会時のやりとりに関する複数の文書がある。おそらく、それらは当日出席した職員がそれぞれで作成したメモだと思われる。それらの文書の中で、柳瀬氏や内閣府国家戦略特区担当の藤原豊審議官の発言に関する記載には微妙な相違があるものの、両者が愛媛県や今治市の担当者に対して国家戦略特区の申請について丁寧に指南していたことがうかがえる内容である。
先日の参考人招致で柳瀬氏は、これから国家戦略特区の概要を説明したと答えていたが、あらためて愛媛県が公開した文書を見れば、同制度を活用しようとする加計学園や愛媛県、今治市に対して、随分と丁寧な説明をしていたことがうかがえる。国家戦略特区制度を試験にたとえると、試験問題の作成者とも言える藤原豊審議官、試験の採点者にもなる総理大臣の秘書官である柳瀬氏が受験者である愛媛県らにアドバイスを行っていたということになる。
そのアドバイスの中には、他の受験者となりそうな新潟の事業者の動向を愛媛県の担当者に伝えたことまで記されている。
先日の記事には、「問題の焦点は、柳瀬氏の発言や記憶の信憑性を越えて、国家戦略特区に関わる全プロセスの公平性に重大な疑念が生じているということに移っていると言えるだろう。」とあるが、まさに国家戦略特区に関わるプロセスにおいて公平性が担保されず、加計学園の獣医学部新設の進行が過度に優遇されたおそれがある。
あらためて、加計学園の獣医学部新設が実現することになるその選定プロセスについて、その内実を確認する必要があるだろう。とりわけ、加計学園の獣医学部新設は、愛媛県が指定された国家戦略特区ということではなく、広島県と今治市が指定された国家戦略特区の中に位置付けられることになった。
ある意味で、愛媛県は袖にされたわけで、この過程について確認する必要があるはずである。まだまだ、この問題は何も解決はしていない。