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働き方改革の争点 脱時間給(高度プロフェッショナル)制度の議論のポイントを見誤ってはいけない

 

年が明け、賀詞交換会も落ち着きを見せ始めた。いよいよ22日からは通常国会が始まったが、この中で注目されている法案の一つが「働き方改革関連法案」である。特に「脱時間給制度」の議論には注目したいところだ。通常国会に先立って、菅官房長官は記者会見で、「働き方改革の関連法案などの重要法案の成立に全力を尽くす」と語っており、本通常国会を「働き方改革国会」と位置付けてみせた。

 

 

 

 

ホワイトカラー・エグゼンプションから3年越しの法案提出

 

簡単にこの法案について振り返っておこう。働き方改革関連法案は労働基準法や労働契約法など合計8つの法律を一括で改正するもので、2017年3月に示された「働き方改革実行計画」がベースとなる。脱時間給制度は労基法改正に含まれており、2015年4月の提出から棚ざらしだった。

 

脱時間給制度は、単純な時間労働ではなく労働の成果に応じて報酬を支払う制度のことで、一時期、メディアでは「ホワイトカラー・エグゼンプション」と呼称されたものである。政府は「高度プロフェッショナル制度」と呼んでいる。厚生労働省の審議会では、年収が1075万円以上で、金融商品の開発業務やディーリング業務、企業やマーケットの行動など分析を行うアナリスト業務、事業計画や企画に携わるコンサルタント業務、研究開発業務などを対象としている。

 

これに対して野党は「残業代ゼロ法案」と批判し、実質的な審議入りを阻んできたというのがこれまでの一連の経緯である。

 

 

野党は戦略で一致できるか

 

法案の提出を受けて、「対案をつくる」と立憲民主党が言ったかと思えば、希望の党も「生産性の向上につながるか、吟味が必要だ」と慎重姿勢を見せている。民進党も同様のスタンスを取っており、通常国会で野党が連携できるか、一つの試金石となるだろう。

 

一方、この法案は昨年の衆議院の解散がなければ、秋の臨時国会で審議し、2019年4月の施行を目指すはずだった。その際、政府は連合案をほぼ全面的に採用した。

 

具体的には、労働時間の上限設定や勤務間インターバル、2週間連続休暇などを労使が選択できるとなっており、休日確保の義務付けなど連合が求めた修正案が受け入れられた形となっていた。

 

この法案を巡って連合内部も相当な混乱を来したのは事実で、一度は容認した働き方改革関連法案へのスタンスを連合は撤回した。FACTAをはじめ、多くのメディアでその内情とゴタゴタが報道されたところではあるが、一旦は連合も容認した法案が提出されることになる。希望の党も立憲民主党も元々は民進党だったことを考えれば、いずれも支持母体は連合である。その連合案がほぼ反映された法案に対して、野党が向き合っていくのはなかなか至難の業と言っていいだろう。

 

 

生産性向上と切っても切り離せない

 

そういう状況にあって、脱時間給制度と野党が向き合う方策はあるのだろうか。一つベンチマークにしたいのは、シリコンバレーだ。

 

常に世界から投資が集まり、優秀なエンジニアには高額のオフィーが舞い込み、転職していく。誰もが知っているコンピューター・メーカー「アップル」などはエンジニアが転職していくことを前提に、会社が組織されており、同じ社屋で勤務していても、所属するセクション毎に立ち入れる区間が厳密に分けられている。これはなぜかというと、転職時の情報漏洩を防ぐためだとされている。

 

では、これらのIT企業で、高額の給料を得て働いているエンジニアが毎晩、遅くまで働いているかというと、実はそんなことはなく、夕方の5時、6時に帰宅するのが一般的な光景だという。ハードウエアのエンジニアの場合、製品の出荷前はどうしても忙しくなり、帰宅が遅くなるそうだが、それは日常的ではない。

 

通常国会で審議される働き方改革関連法案の脱時間給制度がこのような未来を作り出せるかどうかは、単に「生産性の向上」を実現できるかどうか。加えて、その高い生産性に見合う給料を支払えるかどうか、にかかっている。

 

 

法案の対象が労働者に拡大しないことの担保を

「残業代が減る」との批判は野党はもう少し、戦略をもって主張すべきだ。この法案が対象としている年収レベルになってくると、残業代はもはや大きな意味を持たない。むしろ、裁量労働を喜ぶ人だっているだろう。野党が主張する「残業代が減る」対象は労働者である。

 

したがって、野党がこの通常国会で戦うべきは、本法案の対象が高額所得者に限定されるものであって、一般の労働者には及ばないということをしっかり担保するのが重要な戦略となる。ここを見誤ると、野党は誰を代弁しているのか、一般の有権者からは見えにくくなってしまうだろう。

 

 

シリコンバレーでも健康には細心の注意

 

そして先に持ち出したシリコンバレーでは、最も留意しているのはエンジニアの健康だ。ここについては、どのIT企業も健康問題には最新の注意を払っており、会社として制度をしっかりと整えているという。

 

これまでの日本の労働環境では、残業代を含めて長時間労働がそのまま給料に直結していた。そのため、脱時間給制度が一般の労働者にまで対象が広がれば、それは給料が減ることに他ならない。

 

繰り返すが、野党が代弁するのが、この労働者層とするならば、まず、今回の法案の対象が拡大していかないことを担保することが第一に取るべき戦略となる。その上で、高額所得層からの支持を得ようと思えば、裁量労働制の導入に伴う、勤務時間の長時間化が発生した場合の健康問題を議論のポイントに置くべきだ。

 

あるいは、そういう状況が発生しないように、いかに生産性を高められるか、そのための具体的な方策について政府案は万全といえるのか、野党ならではの視点で切り込んでほしい。反対のための反対ではなく、法案がすべての国民にとって有益なものになるように、政府案の足りない部分があれば、そこをしっかりと浮き彫りにしてほしいところだ。