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根拠の存在しない法案を強行採決する愚行

 

 

 

働き方改革関連法案が強行採決される


 働き方改革関連法案が衆議院厚生労働委員会では強行採決された。この後、本会議でも与党と日本維新の会などの賛成多数で可決される見通しである。これで議論の舞台は参議院に移っていくことになる。


 この過程で看過し難い事態が起きていたことは忘れてはならない。特に、強行採決があった当日、議会制民主主義の根幹を破壊すると言っても過言ではない事態が起きていた。この強行採決当日の顛末については、以下のサイトでも詳述されているので、そちらを参照されたい。
 読む国会(自民党はデータと事実を捨て、近代国家を放棄する覚悟があるか ー 高度プロフェッショナル制度の委員会採決を巡って - 読む国会)

 

 この「読む国会」のエントリは、「自民党はデータと事実を捨て、近代国家を放棄する覚悟があるか」と題しているが、まさにデータの事実を無視して、法案採決が行われたというのが事の顛末である。

 

 

裁量労働制に関するデータの捏造


 この働き方改革関連法案をめぐっては、厚生労働省が出してきた裁量労働制に関するデータに誤りがあったことは既に明らかになっている。

www.ksmgsksfngtc.com

 

 

 この件について詳しく検討した法政大学の上西教授は、これは厚生労働省による捏造であって、その捏造を疑われないために隠蔽が行われていたとしている。

news.yahoo.co.jp

 

 

 一連の厚生労働省の対応や加藤厚生労働大臣の国会での答弁を見ても、データを誤魔化してでも法案を成立させようという姿勢が明らかであった。


 その極致は、法案採決が予想された5月25日当日になって、厚生労働省による労働時間調査に関して二重集計のミスがあったとの報告がなされたことである。

 

 

データの誤りを正す質問を遮り採決


 5月25日になって発覚したデータの誤りについて、衆議院の厚生労働委員会で国民民主党の岡本充功議員が質問に立ち、問い質した。


 それに対する厚生労働省の山越労働基準局長や加藤大臣の答弁は、まるで要領を得ないものであった。しかも、間違いについて修正した資料などは提出されなかった。


 これだけでも大きな問題だが、さらなる問題は岡本議員の質疑時間が経過したとして、岡本議員が質問しようとするのを遮り、高鳥修一委員長が質疑を打ち切った上で採決へと移ったことである。


 法案の立法事実を構成するはずデータに誤りがあり、それについての修正が示されず、その点についての質問がなされている最中に、その質問が打ち切られる。法律の合理性を支えるとして提示された「事実」に間違いがあることが明らかであり、それが指摘されている最中に、法案の採決が強行されたのである。


 そもそも法案成立という結論ありきであったということで、立法事実を構成するはずのデータなど、さして重要ではなかったということなのだろう。

 

 

立法事実のない法律が成立するということ


 法律は立法事実を必要とする。端的に、合理的な根拠の存在しない法律は成立し得ないのだ。


 合理的な根拠が存在しない法律の成立を許せば、為政者の思いのままに法律を策定し、恣意的な統治が可能となる。このような為政者の恣意的な法律の制定を制限するというのが近代国家の基本である。それゆえに、先に紹介したサイトでは、「自民党はデータと事実を捨て、近代国家を放棄する覚悟があるか」と問うているのである。

 

 今回の働き方改革関連法案については、労働時間という様々な場面で収集が行われてきたデータが焦点となった。国民の労働の実態に関するデータが様々な場面で収集されてきたと言える。そのデータが現政権の都合の良いように改竄・捏造され、その改竄や捏造が明らかになっても、そんなことは大した問題ではないとばかりに法案採決が強行されたのだ。事実に基づいて意思決定を行い、法律を制定するという近代国家の前提を捨て去さる瞬間を私たちは目にしたのである。

 

 先に、財務省の佐川前国税庁長官が国会で行った答弁に合わせるために、財務省内で文書の改竄や廃棄を行っていたことが明らかになった。働き方改革関連法案の強行採決は、その延長線上に位置付けられると言えるだろう。


 根拠が出されたと思っても、それは改竄や捏造を経たものである。そして、真に根拠となるデータや文書は廃棄されている。もはや、根拠に基づく政策形成など、望むべくもない。
国会で審議される法律には合理的な根拠が存在しないという事態に私たちは直面しているのである。

 

 

あらためての野党との質疑に注目


 さすがに問題ありと与党も考えたのか、29日になって、同日予定されていた本会議での採決は見送られ、30日に衆院厚生労働委員会で野党が2時間質疑を行った後に、31日に本会議での採決となった。


 委員会で採決された事実に変わりはないが、その2時間の野党の質疑に対して誠実な対応がなされるのか、極めて重要な意味を持つ。それは、単にひとつの法案の当否ではなく、国家としてのあり方の根本をめぐる重要な質疑となるのだ。