安倍総理は、1日、働き方改革関連法案から裁量労働制の対象業務拡大を削除する方針を示した。
- 今国会の目玉法案「働き方改革」の裁量労働制
- 裁量労働制に関するデータ不備で安倍総理が謝罪
- 裁量労働制やデータ不備に野党は反発
- 「残業代ゼロ法案」といわれている高プロは削除対象外
- 裁量労働制の削除に「残念」の声も・・
今国会の目玉法案「働き方改革」の裁量労働制
裁量労働制を「働き方改革」から削除することに
首相は28日深夜、首相官邸で加藤勝信厚労相と会談し、働き方改革関連法案から裁量労働制に関する部分を削除するよう指示。首相は会談後、「裁量労働制に関わるデータについて、国民の皆様が疑念を抱く結果になっている。裁量労働制は全面削除するよう指示した」と記者団に表明した。
裁量労働制とは?
勤務時間が定められず、出退勤も自由になる。みなし時間が設定され、1日に何時間働いてもみなし時間分働いたことになる。みなし時間が法定労働時間(1日8時間、週40時間)以上になる場合は36協定を結ぶ必要があり、割増賃金を支払わなければならない。
裁量労働制(さいりょうろうどうせい)とは、日本において労働者が雇用者と結ぶ労働形態のひとつであり、労働時間と成果・業績が必ずしも連動しない職種において適用される。
裁量労働制を導入する目的は?
裁量労働制にすることによって、企業の人件費が一定額に固定される。また、どれだけ働いても賃金が同じであることから、仕事の効率・生産性が上がり無駄な残業が減るとされている。
裁量労働制に関するデータ不備で安倍総理が謝罪
安倍総理は、国会の答弁にて、裁量労働制の方が一般の労働者より労働時間が短いと述べた。しかしその後、野党議員の指摘により裁量労働制の労働時間が短いというデータは誤りであったことが発覚し、安倍総理が発言の撤回と謝罪を行った。
安倍晋三首相は14日午前、衆院予算委員会の集中審議で、裁量労働制に関する1月29日の答弁を撤回した。首相が答弁の根拠にした厚生労働省の2013年度の調査に不自然な点があると野党が追及していた。自民党の江渡聡徳元防衛相が「調査を一度、白紙に戻したらどうか」とただしたのに対し、首相は「引き続き精査が必要なデータを基に行った私の答弁は撤回するとともに、おわびしたい」と述べた。
厚労省が提出したデータにさらに不備が指摘される
加藤勝信厚生労働相は26日の衆院予算委員会で、裁量労働制をめぐる厚労省の調査データに不備があった問題で、新たに233件の異常値が見つかったことを認めた。
裁量労働制やデータ不備に野党は反発
野党は裁量労働制の拡大やデータの不備に批判の声が上がっている。
安倍晋三首相は「意欲や能力を発揮できる新しい労働制度の選択を可能とするものだ」と意義を説明しつつ、早期成立を目指す方針を改めて強調。野党側は裁量労働制の拡大により時間外労働が無制限に増えかねない「過労死促進法案」だと批判し、政府を厳しく追及した。
立憲民主党の長妻昭代表代行は、データ問題を「単なるミスではなく、ねつ造の疑いが大いにある」と批判。希望の党の長島昭久政調会長は法案について「裁量労働制の部分を削除、撤回しなければきちんと議論ができない」と語った。共産党の笠井亮政策委員長は法案提出の断念を求めた。
「残業代ゼロ法案」といわれている高プロは削除対象外
安倍総理は、裁量労働制に関しては削除するが高プロは取りやめないと述べた。
高プロ(高度プロフェッショナル制度)とは?
専門職で年収の高い人を労働時間の規制の対象から外す新たな仕組み。年収1075万円以上のアナリストなどの専門職が対象。労働基準法は法定労働時間を超えて働かせる場合、割増賃金の支払いを義務づけているが、対象となる働き手は残業や深夜・休日労働をしても割増賃金が一切支払われなくなる。
野党の批判は高プロに
参院野党第一党の民進党の大塚耕平代表は予算委で、高プロについて「断念すれば平和的に審議が進む」と首相に迫った。高プロの対象はサービス残業が多く、実態調査が必要との認識も示した。裁量労働制に引き続きデータによる根拠を追及する戦法だ。
立憲民主党の枝野幸男代表は1日の定例会見で、働き方改革関連法案から裁量労働制の対象拡大を削除することを安倍首相が表明したことについて、「いい加減なデータに基づいて法案が提出されようとしていた瑕疵が補われたわけではない。裁量労働制的な働き方のほうが労働時間が短くなるという誤ったデータに基づく議論は高度プロフェッショナル制度(高プロ)でもされてきた。同じ問題がある」と指摘し、法案に含まれる「高プロ」制も切り離し、再調査を踏まえた上で議論をやり直すべきだとの考えを示した。
裁量労働制の削除に「残念」の声も・・
裁量労働制が削除されたことで、日本商工会議所、経団連、経済同友会からは残念だとの声が上がった。
日本商工会議所 三村会頭は「率直に言って残念。1日も早く完全な形で働き方改革法案を完成させてもらいたい」と述べた。経団連の榊原会長は、「柔軟で多様な働き方の選択肢を広げる改正として、期待していただけに残念。」とコメントを発表。経済同友会の小林代表幹事は、「多様な働き方や生産性の向上が求められている中で、今回の事態は遺憾である。」と話した。
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