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問題だらけの平成30年度税制改正にあらためてメスを 1/2

 

 

 

税法の国会審議はもっと注目されていい

 

 国の予算と並んで審議される重要法案の一つに各年度の税制改正案がある。
通常は12月10日前後に、与党の税制改正大綱がまとまり、そこで大筋は決着を見る。この時期には、与党内の税制改正に関する論議を巡って、マスコミ報道も過熱する。

 

 現段階では、法案は審議の途上にある。政府が税制改正関連法案を閣議決定して、国会で審議をされ、可決・成立して、はじめて改正税法は施行される。にもかかわらず、実際に税法が審議される時の報道姿勢は途端に冷淡になる。


 日本国憲法は、「内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない」(第86条)と規定している。
他方、憲法は、「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。」(第30条)、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」(第84条)と規定している。

 

 予算と異なり、税制度をどうするかは立法府に全面的に委ねられている。税制関連法案が閣法で出される必要はなく、議員立法であっても何ら問題はない。だからこそ、立法府での議論は極めて重要であり、与党の多数でどうせ通るのだからという無関心な態度はとるべきではない。
予算委員会で本当に予算についての中身が審議されているかという疑問を抱く側面も多いが、税法論議については、衆参両院の財務金融委員会、総務委員会で、法案の中身についてそれなりの時間が費やされているのではないか。

 

 

哲学・理念を欠き、サラリーマン増税などを盛り込む


 政府が提出した平成30年度の税制改正関連法案は、哲学・理念を欠き、姑息なサラリーマン増税、拙速な新税の創設を盛り込むとともに、小粒の措置をちりばめているだけであり、かなり問題が多い内容である。


 多くの点についてとりあげたいところだが、長ったらしいレポートとすることは避けたいので、給与所得控除の見直しによるサラリーマン増税、二つの新税の創設に絞って述べてみたい。

 

給与所得控除については、以下のように見直される。第一に、控除額が一律 10 万円引き下げられる。第二に、給与所得控除の上限額が適用される給与等の収入金額を 850 万円とし、その上限額が195 万円に引き下げられる。ただし、基礎控除の控除額は10万円引き上げられる。
一部の給与所得者を狙い撃ちにして、負担増を安易に求める内容であり、公平・公正・透明であるべき税制度に対する納税者の信頼・納得感を損ないかねないのではと危惧する。

 

 その論拠となっているのであろうか、2017年11月20日に政府税制調査会がとりまとめた『経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告②(税務手続の電子化等の推進、個人所得課税の見直し)』のところに給与所得控除の見直しに触れているところがある。少し長くなるが、本文を示すと以下のようになる。

(給与所得控除のあり方)
給与所得控除については、基本的に、勤務経費の概算控除であることを踏まえ、給与所得者が収入を得るために必要とする勤務経費が実際にどの程度かを把握するために、家計調査を用いて給与所得者の勤務に関連する経費ではないかと指摘される支出を拾い出してみると、現行の給与所得控除と比べて相当程度低い水準となっている。
また、主要国における概算控除の水準を見ると、我が国の給与所得控除に比して相当低くなっており、その仕組みも、給与収入によらず一定の定額制か、又は一定以上の給与収入で控除額が頭打ちとなるよう上限が設定されている。このような観点からも、我が国の現行の給与所得控除の水準は、相当手厚いものと評価できる。
以上のような状況を踏まえ、給与所得控除については、近年の税制改正において、高所得者に対して控除限度額が導入されるとともに、限度額自体の引下げも行われてきている。しかし、未だ、実際の勤務関連経費や主要国の水準との間には大きな乖離があることから、中長期的には主要国並みの控除水準とすべく、漸次適正化のための見直しが必要である。当面、特に乖離が著しい高所得者の給与所得控除の水準について、引き続き見直しを進めていくことが適当と考えられる。

 

 この文章を見て、大きな疑問を抱かざるを得なかった。平成元年(1989)年4月から消費税が導入されたが、その前後は税制について国会で深い議論が行われていた。与野党の激しい対立や不正常な国会運営もあったが、各党・各会派、主税当局が互いに熱戦を繰り広げ、税理論の根本にも触れ、建設的な議論を展開していた。昨年末の政府税調の中間報告においては、その時に当たり前となっていた給与所得控除の論拠の一部が完全に抜け落ちているのである。

 

 今からちょうど30年前になるが、1988年3月18日の参議院予算委員会において、水野勝・主税局長が以下のように答弁を行っている。

 

○政府委員(水野勝) 給与所得控除の根拠につきましては従来からいろいろ議論が行われているところでございますが、現在におきましては大きくは二つの観点からということで整理されておるところでございます。


 一つは、勤務に伴う費用を概算的に控除すること、これが第一点。それから、給与所得者はほかの人に雇われて働く、それによりますところの時間的拘束、場所的拘束、それからまたその担税力の性格、そういったものをもろもろ合わせました給与所得の特異性に基づきました他の所得との負担の調整を図る、これが第二点であるというふうに最近は整理されてございます。

 

 この答弁にもあるように、給与所得控除は費用の概算控除としての性格だけではなく、様々な拘束を受けて働かざるを得ない給与所得者の特異性にも配慮している重要な意味合いがあるのである。


 政府税制調査会の答申(1986年10月28日)においても、「現行の給与所得控除は、勤務に伴う費用を概算的に控除することのほか、給与所得の特異性に基づいた他の所得のとの負担の調整を図ることを主眼として設けられているものと理解される」と記されている。
後者について、答申は、「いわゆるサラリーマンは、専ら身一つで、使用者の指揮命令に服して役務提供を行うことから、失業の不安定性のほか、空間的・時間的な拘束や居住地選択の制限等他の所得にはみられない有形、無形の負担を余儀なくされていることは否定できず、しかも、その対価としての役務の提供による成果のいかんにかかわりなくあらかじめ定められた定額の給与の支給を受けるにとどまるといつた事情に対してしん酌を加えるものである」との解説を行っている。

 

 ところが昨年末の税調中間報告は、ここで示されている二つ目の根拠には全く触れずに、勤務経費の概算控除という位置付けだけに終始し、「サラリーマンなんてそんなに経費なんてかからない」「この制度は手厚すぎる」「高所得者からもっと税金をとったらいい」という短絡的な論理構成に陥っている。


 さらに、サラリーマンと自営業者などとの所得捕捉率の問題、いわゆる「クロヨン」とか「トーゴーサンピン」として、従来から幾度となく指摘されてきたことに対する問題意識も見られない。「水平的公平の確保」「納税環境の整備」という視点でも議論されなくてはならない。

 

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