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問題だらけの平成30年度税制改正にあらためてメスを 2/2

 

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国際観光旅客税、森林環境税についての議論・説明も不十分


 平成30年度税制改正においては、二つの新税の創設が盛り込まれている。


 国税としては国際観光旅客税が導入される。日本を出国する旅行者らから1,000円を徴収するもので、来年1月からの適用となる。観光先進国の実現に向けた観光基盤の拡充及び強化の要請にこたえるものと説明されている。


 観光立国を推進していくことには何ら異論はない。この税金が、受益者負担の原則に反しているのではないかということが一番の問題である。
観光・ビジネスを問わず日本人出国者も含めて課税されるにもかかわらず、使途が国内の観光目的となっていることや、航空券等の値段に関係なく一律に1人1,000円の負担を求めることの正当性について十分説明がなされていないと考える。


本来、地方経済の活性化や魅力ある地域づくり等の観点から言えば、観光インフラや観光資源の整備促進のための財源は一般財源に求めるべきとの議論も成り立つ。そのための支出を増やすことが必要なら、予算全体の見直しで捻出すれば良い。
日本人の出国者にも恩恵が及ぶようにするには、航空保安に関する体制を整備して、もっとスムーズに出国ができるような環境をつくることも必要だろう。

 

 主要国とは異なり、わが国の航空行政は「航空保安は航空事業者の責任」との考え方をとっている。そこをあらためて、航空機の強取等の防止による航空の安全の確保が国家的に重要な課題であり、国がこれに対処するために中核的な役割を果たすように関係法令を整備することが求められる。


さらに森林環境税という新税が導入される。これは国税なのだが、市町村民税に年額1,000円を上乗せして、森林整備に充てる財源を賄うためのものである。2024年度から課税が開始される。
森林環境税については、その趣旨については一定の意義が認められるが、その使途や、すでに自治体レベルで同様の税を導入している都道府県等との調整などについての課題が残る。二重課税という事態になれば、納税者からの納得も得られなくなる。

 

 

特定支出控除の拡充は評価、さらに制度の改善に向け議論を


 平成30年度税制改正については、評価できる点もある。その一つは、特定支出控除(サラリーマンの必要経費に着目して給与所得控除より多くの控除を認める仕組み。一定条件に適う通勤費、転居費、研修費、資格取得費、帰宅旅費、図書費、衣服費、交際費等が対象となる)の拡充が盛り込まれていることである。


以下の2点が改正項目である。

 

①特定支出の範囲に、職務の遂行に直接必要な旅費等で通常必要と認められるものを加える、②特定支出の範囲に含まれている単身赴任者の帰宅旅費について、1月に4往復を超えた旅行に係る帰宅旅費を対象外とする制限を撤廃するとともに、帰宅のために通常要する自動車を使用することにより支出する燃料費及び有料道路の料金の額を加える。

 

 この特定支出控除は1988年から実施されている制度であるが、使い勝手が悪く、適用者がほとんどいないという状況にあった。ところが根本的な制度改正が行われて、適用者が著しく増えることになった。


「会社員の特定支出控除、利用者が急増 13年度260倍に」(『日本経済新聞朝刊』、2014年9月1日)という新聞記事がそれを物語っている。日本経済新聞は以下のように報道している。

 

民間企業のサラリーマンや公務員が必要経費として確定申告すれば所得税がかからなくなる「特定支出控除」の利用者が急増している。政府が2013年度から、新たに図書費や衣服費、交通費にも対象を広げたためだ。国税庁の調べでは、13年度分で制度を使った人は1600人で、前の年(6人)から約260倍となった。

 

 この記事にあるように、利用者が増えたことは、対象が広がったことも一因となっているが、別の部分の方が大きな要因となっている。


この時の改正の内容は以下の2点である。①適用範囲に、弁護士、公認会計士、税理士などの資格取得費、勤務必要経費(図書費、衣服費、交際費)を追加する、②適用判定の基準を給与所得控除額の2分の1(改正前:控除額の総額)とする。
この②のところが大改正ともいえるほどサラリーマンに多大な恩恵をもたらすこととなった。


 例えば、年収500万円だとおおよそ150万円の給与所得控除が適用となる。必要経費の合計が150万円を超えないと特定支出控除が使えない制度だった。ところが新制度では、その半分の75万円を給与所得控除として認め、75万円を超える必要経費を特定支出控除として認めることなる。要は特定支出控除を使える金額のハードルが一気に半分になったのである。

 

 もともと、給与所得控除について、半分は経費部分、半分は他の負担調整の部分と解釈してはどうかという議論は行われていた。1986年の政府税調答申でも以下のような記述がある。

 

給与所得控除を「勤務費用の概算控除」と「他の所得との負担調整のための特別控除」に分ける場合、具体的にどのように分けるかについては、必ずしも客観的な基準があるわけではなく、給与所得控除額の各々二分の一相当額をもって概算控除額と特別控除部分とすることが適当であろう。

 

 特定支出控除を大胆に改善して、利用者の急増につながる改正に踏み込んだのは野田内閣(民主党政権)だった。消費税の引上げ、それを巡る政治的混乱、その後の政権交代ということで、その成果は吹っ飛んでしまったようなところがあるが、野田政権がサラリーマンに大きな恩恵をもたらす税制改正を行ったという事実は再認識されるべきである。
 
 社会保障と税の一体改革、地方税制、所得課税、法人課税、資産課税など税を巡る課題は山積している。税に対する理解を深めていくために、子ども、社会人、年金受給者などを含めた国民各層に租税教育や適切な税に関する情報を提供していくことが求められる。税法は国会で立法されるという原点に立って、まだ審議中の平成30年度税制改正関連法案についても、国会論議をきちんとチェックしていくことは納税者としても当然のことである。

 

 

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