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衆議院予算委員会における柳瀬元首相秘書官の答弁の不可解

 

 

 

現政権は簡単なことすら官僚に確認しない

 

 加計学園問題に関して、愛媛県や今治市の担当者と官邸で柳瀬元首相秘書官が面会していたのかいないのか。ようやく、柳瀬氏の参考人招致が実現し、これまで柳瀬氏自身からは語られていなかったことが語られるところとなった。


その概要は、自民党の質問者である後藤茂之議員や公明党の質問者である竹内譲議員とのやりとりで出尽くし、その後の野党議員との質疑も冒頭の与党議員による質問で明らかになった事柄をめぐって交わされたため、野党が攻めあぐねたとか、柳瀬氏が矛盾ない答弁で乗り切ったといった報道もなされたところである。


 だが、大きく報じられないが、与党議員による質疑以外で明らかになった事柄の他に、国民民主党の今井雅人議員の質問の冒頭で明らかになった事柄がある。これは現政権のいわゆる国会審議軽視の姿勢を表すものとして注目に値する事柄であった。


今井議員はこれまでも予算委員会の場などで柳瀬氏に加計学園関係者とも会っていないのかどうか照会して欲しいと与党や政府に要望してきた。柳瀬氏が今治市の担当者と会った記憶がないと答弁して以後、参考人として国会に呼ぶことを与党が拒否していたため、であるのであれば、柳瀬氏に照会をして欲しいと今井議員は要望していたのである。その再三の要望にもかかわらず、政府の側から柳瀬氏に対しては一切の照会がなされていなかったと柳瀬氏は答えたのである。その上で、報道では柳瀬氏が加計学園の関係者に会っていたのではないか国会でも追及されていると報じられていたことを柳瀬氏自身も承知していながら、国会から要請されないので、その点について人伝えでも答えようともしなかったというのである。


 少なくとも、愛媛県や今治市の担当者、あるいは加計学園関係者に柳瀬氏が面会したのか否かという簡単に確認出来る事項を確認しようとすらしなかった。これが現政権の姿勢である。この間の時間の浪費の責任を野党に求める者もいるが、そうではない。簡単に確認出来ることすら確認しようとしなかったのは現政権であり、その責任を野党に着せるのはお門違いだろう。

 

 

ハイライトは江田憲司議員の指摘

 

衆議院予算委員会の後半、無所属の江田憲司議員が自身の首相秘書官としての経験も交えながら、柳瀬氏の答弁の不可解さを浮き彫りしていった。

 


江田憲司 無所属 2018年5月10日 予算委員会

 

 

その前の長妻昭議員や今井雅人議員が冷静に柳瀬氏に問い質していたことも相まって、それまでの柳瀬氏の答弁が平然としたものであったため、一見したところ問題などなかったように見えていたかもしれない。しかし、実際には柳瀬氏の答弁そのものが大問題であったことを終盤になって江田議員が明らかにしていった。現政権を支持する層や野党に批判的な人々は、長妻議員をはじめ野党の質問者が声を張り上げて追及するような場面が乏しかったために、追及不足であったという感想を抱きがちだが、実際にはそれは質疑の中身を無視した感想に過ぎない。おそらく、映像をきちんと確認せずに、そのような感想を述べているのだろう。

 

 柳瀬氏によれば、2015年4月に加計学園の関係者と首相官邸で面会していたという。この面会は以前から指摘されていたものだが、その前後にも一回ずつ計三回、官邸で加計学園の関係者と面会していたというのである。そのうち4月の面会では、加計学園の関係者をはじめとして多数の来訪であったため、その中には愛媛県や今治市の職員も含まれていたのかもしれないという。ただ、普段は名刺交換をしても、全ての名刺を保存しておくわけではないため、確認したところ、柳瀬氏のもとには愛媛県や今治市の職員の名刺は存在しなかったとも答弁された。つまり、会った可能性もあるが、それを確認することは出来ないというのだ。


 加計学園の理事長の加計孝太郎氏や学園の事務担当者とは、そのさらに前に、安倍総理の別荘でのバーベキューやゴルフで一緒だったことがあるという。今井議員とのやりとりで明らかになったことであるが、この安倍総理の別荘での一件で学園の事務担当者と面識が出来ていたため、官邸に学園関係者が面会に訪れた際にも学園の事務局員が訪問してきたと認識することが出来たというのである。


 そういう中で、11日になって、愛媛県が柳瀬氏から受け取った柳瀬氏の名刺を公開した。

 

www.jiji.com

 

つまり、全員ではないかもしれないが、愛媛県側からの訪問者と柳瀬氏は名刺交換を行っていたということだ。大人数の安倍総理主催のバーベキューにも多数の参加者があったようだが、その中で加計学園の関係者と会ったという記憶から、官邸に加計学園の事務担当者が訪問した際に以前バーベキューで会った人物だと判別できる程度の能力を持つ柳瀬氏。しかし、名刺交換をしたはずの愛媛県の職員の存在を忘れ、会ったかどうか記憶にないと言う。およそ、その記憶の能力に疑いを挟まざるを得ないと言える。むしろ、加計学園の関係者とも何度会ったのかさえ正確には分かっておられないのではないだろうか。

 

 何度も加計学園の関係者と面会し、安倍総理肝いりの国家戦略特区に関わる話をしていながら、面会したことを含めて柳瀬氏は安倍総理に一切の報告などを行っていないという答弁もなされた。


江田議員によれば、首相秘書官と首相は日常的に会話を交わす機会があり、安倍総理の親友が理事長を務める加計学園の関係者と官邸で面談したというのであれば、当然、どこかのタイミングでそのことは話題になっているはずだという。詳細は報告しなかったとしても、「先日、加計学園の方が官邸にいらっしゃって、獣医学部の件、お話になっていかれました」くらいはあってしかるべきと確かに思うが、そういうことは一切ないというのだから不可解である。


 江田議員が首相秘書官としての職責を果たしていなかったのではないかと問い詰めたが、まさに首相秘書官としての当然の仕事を柳瀬氏は行っていなかった。それが明らかとなる江田議員と柳瀬氏の質疑であった。

 

 

もはや安倍総理の指示の有無は論点ではない


 柳瀬氏の答弁のとおりだとすると、安倍首相には何も言わずに首相秘書官は勝手に官邸に人を招き寄せ、その中には誰だか確認出来ない人まで含まれており、会ったことの記録すら残していないということになる。


およそ、まともな仕事がなされていたとは言い難い事態がそこに進行していたことになる。マスコミの中には、柳瀬氏の答弁には矛盾がなかったという論調もあるが、そうではない。通常ではありえない仕事が矛盾なくなされていたというだけのことである。

 

そもそも、アポイントがあれば出来るだけ外部の人と会うようにしていた柳瀬氏は答えていた。随分と首相秘書官に会う敷居が低いものだと思った答弁だったが、他の国家戦略特区に関わる事業者などとは面会していないとのこと。首相秘書官に簡単にアポイントを取れる人は限られており、実際にはそれほどたくさんの人が柳瀬氏と面会していたわけでもあるまい。加計学園の関係者とは何度も面会をしていたというのだから、安倍総理から何らかの指示がなかったとしても、それは公平性を失する事柄であり、それだけで由々しき問題だ。


長妻議員の質問でも、特定の事業者とだけ会っていたとなると、後々に公平性の問題が生じるからまずいと思わなかったのかと尋ねられ、アポイントがあれば会うようにしており、加計学園にも制度の概要を伝えただけで問題ないとの答弁を柳瀬氏は行っていた。どうやら、柳瀬氏は首相秘書官という役職の重責性を認識されていないようである。そのような具体的な事柄の有無に関わらず、特定の人物や法人の関係者に政府の高官が何度も会うということは、場合によっては何らかの疑いが生じることは否めない。獣医学部を新設するとか、国家戦略特区の制度を利用するとか、そのような話が出ている中で、何度もこともあろうに首相官邸で面会を重ねるというのは脇が甘いと言わざるを得ない。


しかも、加計学園の理事長の加計氏と安倍総理が親しい関係にあることは柳瀬氏も認識していたことは認めている。安倍総理と近しい人が理事長を務める学園の関係者と官邸で何度も会う。たとえ、そこに安倍総理の指示が一切介在していなかったとしても、安倍総理が何か良からぬ指示をしていたのではないかという疑念を呼びかねず、実際にその疑念が生じ、完全には払しょくされていない。


そういう疑念を生むような行動を、どうやら柳瀬氏は無防備に行っていたようだ。そのような不用意な人物が首相秘書官を務めていた。柳瀬氏が優秀な官僚であることが分かったといったコメントがネット上にも見受けられたが、むしろ逆だろう。仕事もきちんと出来ず、あげくは安倍総理に対して拭い難い疑念を生じさせてしまい、それが解消できない。一時期、不適当な人物が首相秘書官として官邸を舞台に勝手な行動を繰り広げていた。日本国政府にとって看過しがたい大問題が数年前に発生していたことを、柳瀬氏のつつがない答弁は期せずして炙り出したと言えるだろう。

 

まるで収穫のない参考人招致だったとの意見も聞かれるところだが、けっして無意味ではなかったのではないだろうか。安倍総理の周辺で、安倍総理の意向を笠に着て勝手な行動をし、不可解な弁明をする官僚がいる。それが分かっただけでも十分な収穫と言えるはずだ。