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高市早苗議員、議院運営委員会委員長の任にあらず

 

 

 

高市議員の勇み足

 

 臨時国会開会早々、安倍総理の所信表面演説の開始が遅れる一幕があった。
 その原因を作ったのは、自民党の高市早苗衆議院議員。高市議員が委員長を務める衆議院議院運営委員会の開催にあたって、高市議員が国会改革の私案を公表したことに対して、野党から反発があり、結果として高市氏が謝罪の上で私案を撤回した。この一連のやりとりが影響して、所信表明演説を行う本会議の開始が遅れることになったのだ。

 

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 国会改革の必要性については与野党でもその必要性は一定程度共有されているところであり、それぞれ議論もなされているような状況でもあるが、臨時国会の冒頭で、衆議院の議事進行を担う議院運営委員会の委員長名で私案を出すというのは、勇み足の何物でもない。
 この件に関して、高市議員が「試案」を出したとも報じられているが、謝罪時の高市議員のコメントでは、私的な提案であった旨を発言しており、「私案」とするのが正確である。「私案」を議院運営委員会にぶつけている時点で、高市議員は、「どうかしている」と言える。野党が反発するのも当然だ。

 

 

議院運営委員会の委員長は「公平中立」

 

 この高市委員長による私案の提起と撤回という騒動に対して、野党に批判的な人たちからは、またもや何でも反対する野党が国会の進行を遅らせているという誤った批判がなされることが当然に想定される。
 しかし、それは明らかな事実誤認だ。高市議員が個人的に国会改革案を提案するのであれば、それは何の問題もないが、今回高市議員が行ったのは議院運営委員会委員長名で国会改革案を出してきたということである。この事実だけをもってして、極めて重大な過ちを高市委員長は犯したことになる。

 

 この件、「自民党の高市衆議運委員長が」という主語が用いられることで、事の本質が見えにくくなっている。忘れてはならないのは、高市議員が務める議院運営委員会委員長は「公平中立」が求められる役職であることである。議院運営委員会委員長は与党が握る役職であり、現状であれば、自民党の議員がその職に就くことから、その動向について報じられる際には、主語には「自民党の」と付き、実際の議事運営にあたっては与党の意向を汲んだものとなる。それゆえ、議院運営委員会委員長が自民党議員として提案くらいしても問題ないかのように見えてしまうのだろうが、それは明らかに間違いである。

 

 議院運営委員会は国会に置かれる常任委員会のひとつである。しかしながら、他の常任委員会とは異なり、議案の審査は行わない。主に行うのは、議事の運営についての調整である。その委員長は与党の議員が務めるが、野党の委員の意見も十分に聞いた上で、議事運営に当たる必要がある。議院運営委員会委員長は自らの意向で物事を進めるのではなく、与野党から出てくる委員の意見を取りまとめることが求められるのだ。
 その役割を考えれば、国会改革について委員長名で私案を出すということは、「ありえない」の一言である。自身の思いがあっても、それは抑えて、与野党間の調整を図るのが議院運営委員会委員長としてのあり方だ。

 

 

議院運営委員会委員長の任にあらず

 

 国会には会期がある。しかも、土日は言うに及ばず、月曜日の午前や金曜日の午後は、多くの場合、国会の日程が設定されない。週末には選挙区に帰る議員も多いからだ。
 そういう日程上の制約がある中で、議事を進めていく必要がある。そこで問われるのが議事運営の調整の責任者となる議院運営委員会委員長の手腕となる。かつては、議院運営委員会委員長の経験者が大臣に就任することが当然視されるような時代があったくらい、その任は重責である。与野党間での調整が主な仕事になることから、与野党からの信頼も得る必要があり、与党や自身の主義主張にだけ従っていれば良いという訳ではない。

 

 そういう重責にありながら、自らの主義主張を前面に出す国会改革の私案を、こともあろうに臨時国会開会直後に、議院運営委員会委員長名を掲げて出して来る時点で、その者は委員長としての任にあらずである。

 

 高市議員としては、重要なポストに就いたことにより、その高揚感から、何かを成し遂げたいと思って先走ってしまったのかもしれない。ただ、そういう先走りは禁物である。
 高市議員は総務大臣に抜擢されるなど、安倍総理の覚えも目出度い議院の一人であり、今回も要職に就いたわけだが、このような「お友達優遇」が結果として政権運営の足を引っ張ってきたことはこれまでの経験からも明らかだ。安倍総理がその人事について再考するとは思えないが、憲法改正を言うに及ばず、今後推進した政策を前に進めるためには、このような情実人事は改めるべきだろう。

 

 野党側からは、高市委員長による私案の内容についても批判がなされているが、その内容以前に、高市委員長の「暴走」をまずは強く批判すべきだ。その任を務めるべき資質を持たない議員は即刻その職を辞任すべきである、と。