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菅原一秀経済産業大臣、秘書に香典を持参することを指示? これは明確に公職選挙法違反

 

 

 

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秘書が香典渡し、菅原一秀議員が経済産業大臣を辞任

 

 菅原一秀衆議院議員が経済産業大臣を辞任した。
 直前に週刊文春が菅原議員の秘書が選挙区内で有権者に対して香典を渡していたと報じたことが直接の引き金となったかたちだ。
 政治家は選挙区内の有権者に寄付を行うことが出来ない。例外的に、政治家本人が葬儀に参列して私人として香典を渡すことは認められている。もちろん、秘書が政治家に代わって香典を渡すなんてことは禁じられている。
 にもかかわらず、秘書が香典や供花を議員に代わって渡す行為が常態化していたのか、今回はちょうどそういう場面を週刊誌に狙い撃ちされたのかもしれないが、いささかお粗末な顛末となった。

 

dot.asahi.com

 

 

 選挙区内の有権者にメロンやカニを送っていたとする報道がなされ、国会でも追及を受けるなか、秘書が議員に代わって香典を持って行くなど、あまりに脇が甘い。違法行為が常態化し、まるで合法と違法の線引きが分からない状況になっていたのだろうか。
 それくらい、議員本人しか香典は渡せないというのは基本中の基本だ。大臣を務めるくらい経験を積んだ議員であれば、本来は間違うようなことでは断じてない。もちろん、事務所の秘書も当然に知っていなければならない事柄である。
 何より、選挙区内での寄付行為が禁じられていることくらい、政治に関わる者であれば誰でも知っていることで、与野党を問わず、いずれの議員や議員事務所関係者も通常は細心の注意を払っている。だからこそ、自民党や官邸も庇い切れず、菅原議員の速やかな大臣辞任となったということだ。

 

 

 メロンやカニの件は過去のことで、真偽不明の事柄であるとしても、今回は違法行為に関する疑惑が追及されている最中の出来事である。菅原議員が大臣に就任しても、公職選挙法に違反してしまうような、そんな順法精神が希薄な状況のままであった。これは、極めて危機的な状況であると言わずして何と言えようか。

 

 「葬儀に香典を持たずに行くのは失礼ではないか」と、秘書が政治家に代わって香典を持って行くことを禁じる法律自体に疑義を抱く向きもあるようだが、公職選挙法上は、政治家が選挙区内の有権者に金品を贈ることを禁じるだけではなく、有権者側が政治家に送るように求めることも禁じている。渡すことも求めることも基本的に禁じられているのだ。そういう中で、香典であれば、議員本人が葬儀に足を運んだ際にのみ、それを渡すことが認められている。もはや間違いようのない規定がなされているにもかかわらず、それを遵守していなかったのが今回の菅原議員ということになる。

 

 

法に触れることの認識は明白

 

 朝日新聞の取材に対して、菅原議員は秘書とのメッセージのやりとりを公開している。

 

www.asahi.com

 

 

 菅原議員から説明がなされているが、何とも苦しい言い訳に見える。特に、菅原議員による「香典気を付けて」というメッセージについて、記事中にある以下の部分の説明が苦しい。

 

「香典気を付けて」の意味は「(香典袋には)『衆議院議員 菅原一秀』という判子が押してあるから、(17日に代理持参しては)ダメですよという意味。次の日、私が行こうと思っていたから」と説明。ばれないように持って行け、という指示ではないと答えた。

 

www.asahi.com

 

 

 菅原議員自身、香典は議員本人しか渡せないことを認識していたと答えている。そもそも、香典は議員本人が直接赴いて渡すものしか認められていないことは明白で、殊更、議員が秘書に注意するようなことでもないことは上に指摘したとおり。そういうなかで、「香典気を付けて」と秘書にメッセージを送ったということは、法に抵触しない様な方法で持って行けという指示以外に、どんな意図があるのだろうか。
 「衆議院議員 菅原一秀」と判子を押した香典袋が菅原事務所には準備されていたようだが、「香典袋気を付けて」という指示は、菅原議員の弁明にあるように、それを代理で持参出来ないということは当然として、「違う香典袋を持って行くように」と伝えたと見るべきだ。

 

 

秘書でも香典は渡せる!?

 

 実際、菅原議員の秘書は香典袋を持参し、受付で関係者に渡している。

 

bunshun.jp

 

 

 その姿が週刊文春で撮られたわけだが、実は、これだけでは直ちに公職選挙法違反にはならないことに注意が必要だ。
 公職選挙法が禁じているのは議員に代わって選挙区内の有権者に対して寄付を行うことである。例えば、議員の秘書を務める人物が香典を出すこと自体は禁じられていない。
 議員の関係する冠婚葬祭についてということであれば考えにくいことではあるが、「議員に代わって」というかたちを取らず、秘書が一人の人間として参列し、祝儀や香典を出すのであれば、それを直ちに公職選挙法違反に問うことは難しい。「個人的に参加して、お金も出した」と言われると、それ以上の追及は難しいからだ。
 秘書としての活動をしている中で、議員の支持者と個人的な関係を築くというケースもないとは言えない。さらに、議員の家族も、議員の活動とは関係のないところで、葬儀に参列する機会もあるだろう。そういう場合についても一律に香典を出してはならないとはされていない。
 こういうグレーゾーンを利用して、表向きは秘書や家族が個人的に香典を持参したというかたちを取ることがなされている。ベテラン秘書となれば、さらには議員の家族が来たとなれば、それは議員の指示で来たと相手先も認識するものと思われるが、明示的に「議員に代わって」というかたちにならないようにすることで、公職選挙法に抵触しないようにして香典を渡すのだ。
 実際、とある議員から聞いた話では、議員自身と配偶者の名前が一字違いで、配偶者名で香典を出しても、議員本人が出したかのように見えて便利だという。

 

 

逃げ得は許されない

 

 今回の菅原議員の「香典気を付けて」というメッセージも、明示的に菅原議員に代わって秘書が香典を届けたというふうにならないように工夫しろと指示したものと思われる。
 にもかかわらず、菅原議員の秘書は「衆議院議員 菅原一秀」と書いた香典袋を持参してしまったのだろうか。そうでなく、単に秘書が個人的に香典を持って行ったということに出来るのであれば、そう説明すれば良いだけで、何も菅原議員は大臣を辞任することにはならないはずだ。
 策士策に溺れたのか。どういうわけか、菅原議員は、秘書が香典を持参した次の日に自らも香典を持参し、前日に秘書が渡した香典の返却を受けている。これはつまり、秘書が香典を持参することを菅原議員が指示したことの裏返しだ。前日、自らの指示で香典を持って行かせてしまったため、その事実を糊塗しようとした。そう見るしかない。

 

 事は明らかだ。菅原議員は選挙区内の有権者の葬儀に自らに代わって秘書に香典を届けさせた。これは明確に公職選挙法に違反している。となれば、これは大臣の辞任だけでは済まされない。きちんと立件されてしかるべきことであり、当然に議員辞職が求められるところである。
 何よりも菅原議員は自らが違法行為を指示したことを明確に自覚した上での行動を既にとってしまっているに違いないこと。このことは忘れてはならない。