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菅原一秀経済産業大臣、香典問題で辞任 国会を空転させないためにも公職選挙法を見直すべきだろう

 

 

 

口先だけの「任命責任」では意味がない

 

「政治家なんてそんなもの」と言ってしまえばそんなものかもしれないが、大臣にもなる人物がこの体たらくでは、開いた口が塞がらない。

 

安倍第4次再改造内閣で入閣を果たした菅原一秀経済産業大臣が安倍首相に辞表を提出し、大臣の職を辞した。公職選挙法が禁じる選挙区内での寄付行為疑惑を週刊誌が報じたためだ。

 

公選法は、政治家本人が自ら出席する場合を除いて選挙区内の有権者に香典を渡すことを禁じている。これは結婚披露宴の祝儀も同様だ。

 

菅原氏はこれまでにも様々な不祥事が語られていた。選挙区内でカニやメロンなどを配っていたとされるのは、過去にも配布先リストがあったと言われている。

 

もはや自民党内では政治家が選挙区内で秘書を通じて香典を配り歩くのも、カニやメロンを配るのも大事なお仕事になっているのかもしれない。国会議員の秘書の仕事の棚卸をすれば、おそらく公選法に触れる仕事も次々と飛び出してくるかもしれない。

 

安倍首相は菅原氏の辞表提出を受けて、任命責任が自身にあるとして陳謝した。第2次安倍政権発足以降、閣僚の辞任は9人になった。安倍首相を筆頭に政権を担う与党政治家としての意識に緩みがあるのではないか。

 

 

菅原氏には政治家としての説明責任がある

 

キャッシュレス・ポイント還元事業などがスタートしたばかりであるし、11月初旬からは東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の外交日程も控えていた。閣僚としての仕事も本格化するところだったので、政権としてはいち早く火消しに動いたというのが実情だろう。

 

「政治と金」の関係をきっちりと整理するためにある公選法であるにも関わらず、政治家やその秘書が公選法を無視して金品を配り歩くのであれば、政治への不信感は募るばかりだ。特に、政治家と日常的に接することのない有権者の政治離れを促すことにもなる。

 

自民党など旧来の政党に所属する政治家からすれば、どのような投票行動をするかわからない顔の見えない無党派層に訴えるよりも、必ず投票してくれる顔の見える有権者が大切だということだ。仮に、無党派層が大挙して投票行動を起こせば、現状の投票率から考えても自民党が下野する可能性は極めて高い。

 

当選6回を数える菅原氏がこの状況であるのだから、ほかの議員もおしなべてそうなのだろうと思われても仕方ない。

 

今回、大臣の職を辞する決断をしたのであれば、報じられた事実を認めたということであろう。政治家が法律に違反したのであれば、それは重大な問題だ。大臣を辞めるだけでなく、政治家として説明責任を果たすことが国民に対する務めだろう。

 

 

広く公選法を見直す機会に

 

ただ一方で、当選6回を数える政治家でさえも、地元の有権者にカニだのメロンだの香典などを配らなければ当選できない政治風土だという側面もあるのかもしれない。

 

全ての政治家がそのような法律違反という手段に手を染めて、議席を獲得しているわけではないだろうが、かつては有権者にワインを配っていた政治家もいたことを思えば、議員の姿勢もさることながら、政治家を縛る仕組みにも目を向ける必要があるのかもしれない。

 

有権者との関係については、過去にも与野党ともに様々な問題があったことは事実だ。政治家本人の支出、政治家後援会の支出、政党支部の支出、その方法は様々ある。今回の菅原氏の行為が事実であるならば、明確に法律に違反するものなので、適切な身の振り方を求めなければならないが、今後については、公選法の見直しも含めて議論を深めていく機会として捉えてはどうか。

 

公選法は、国民から不人気の選挙カーに関する取り決めをはじめ、選挙活動に関わる一切のルールを定めている法律だ。今年4月に行われた統一地方選挙でも、4年に1度の騒音に悩まされたという人も多いはず。公選法は地方議会の選挙についても取り扱うので、地方議会選挙の騒々しさも、実のところ国会で改正手続きをしなければならないのである。

 

マスコミも単なる不祥事追求だけでなく、その背景にある公選法の実態を深く掘り下げるなど、問題の本質に迫る報道ができないものだろうか。

 

 

渡した人がいるということは受け取った人がいるということ

 

公選法を無視した行為は到底許されるべきではない。しかし、渡す人間がいる一方で、受け取った側もいたということ。全ての人があらゆる法律に精通していないのは当然だし、ましてや公選法など難しくて理解している有権者はむしろ少ない。しかし、この人はと思って応援する支援者であれば、違法行為に手を染める政治家をたしなめるのも支援者の務めではないか。長年菅原氏を支えてきた支援者は、きっと今回の入閣を喜んだに違いない。しかし、その待望の入閣も、これまでに胃袋に収まったカニやメロンが吹き飛ばしてしまったのである。

 

有権者を裏切った政治家とその裏切りには政治家を支援する有権者がいることも事実。

 

今回のような不祥事案件で国会が空転するようなことを少しでも減らしていくには、政治家のみならず国民全体での意識改革、法改正論議も進めたい。菅原氏の大臣辞任に至ったこの問題を機会とし、日本の政治風土が改善されることを切に期待したい。