「反社会的勢力」は定義不能との政府答弁
菅官房長官のバックアップデータは行政文書ではないとの発言には驚いたが、今度は野党議員からの質問主意書に対する答弁でこれまた凄いものが出てきた。しかも今回は質問主意書への答弁であることから閣議決定までされているのだから、さらに驚きだ。
どのような答弁かと言えば、「反社会的勢力」の定義について野党議員から出された質問主意書に対して、「その時々の社会情勢に応じて変化し得るものであり、限定的・統一的な定義は困難だ」というものだ。
「桜を見る会」に反社会的勢力の人間が招待されて参加していたのではないかとの疑惑が浮上し、それに対する菅官房長官の答弁がこれまで煮え切らないものだったために、質問主意書が提出されていた。それに対して、とんでもない答弁が出てきたのだ。
たとえ問題がある人物が「桜を見る会」に招待・参加していたとしても、それが問題にならないように、このような答弁を無理やりひねり出してきたのだろう。この政府の答弁によるのであれば、「桜を見る会」に参加していた人物について、その人物を反社会的勢力とすることは難しくなる。
今年、反社会的勢力とのかかわりが問題になって吉本興業の芸人が謹慎などに追い込まれる事件があった。芸能人に限らず、反社会的勢力と関係することはおよそ問題のある行為であることは社会的に広く共有されている。金融機関をはじめ、多くの企業が反社会的勢力の排除のために苦心している。そういう中で、そもそも反社会的勢力などというものは定義困難と言ってのけるのだから恐れ入る。
反社会的勢力の対峙を掲げたのは第一次安倍政権のとき
ところで、今回の答弁書は反社会的勢力なんて定義不能な言葉など政府は使わないと言わんばかりの内容であるわけだが、例えば法務省では「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」という申し合わせを行っていることと、どのように平仄を合わせるのだろうか。
その中では、「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人である「反社会的勢力」」と明記されているが、果たしてこれは定義ではないのだろうか。この点、質問主意書では、冒頭に言及された上で質問を行う形式をとっているが、報道によれば、正面からの平仄については説明しなかったようである。
それはあくまで申し合わせであって、法律や省令で決めたことではなく、定義など存在しないと強弁するのだろうか。
何はともあれ、その申し合わせは2007年6月のものである。以降、各所で反社会的勢力の排除へ向けた動きがあるわけだが、2007年6月と言えば、まさに第一次安倍内閣のとき。とうとう安倍総理は自身の第一次政権も「悪夢」とばかりに忘れることにしたのだろうか。
目の前の問題をやり過ごすために、これまでに決めたことはなりふり構わずに無かったことにしてしまう。恐るべき蛮行が平然と行われていることに恐怖すら覚える。
このままでは、「桜を見る会」自体、それは存在しなかったことにされかねない。