外交青書から「北方四島は日本に帰属する」が消える
2019年度版の外交青書の内容が明らかになった。その記述から、従来あった「北方四島は日本に帰属する」との表現が消えたことが話題になっている。
23日の河野太郎外務大臣の会見では、次のようなやりとりを河野大臣と記者がしている。
【共同通信 福田記者】冒頭,発言がありましたが,大臣が閣議で報告された2019年版の外交青書について伺います。2019年版には2018年版にあった,「北方四島は日本に帰属」との表現が見当たりませんでした。こういう記述とされた狙いについて教えてください。
【河野外務大臣】外交青書はその年の外交について,総合的に勘案をして書いております。政府の法的立場に変わりがないということは言うまでもありません。
「法的立場に変わりがない」と答える河野大臣。そうであるならば、「北方四島は日本に帰属する」との表現を削除する理由も存在しないように思う。もちろん他国も確認することは間違いない日本の外交青書。そこで、上記の記述が消えたのであれば、対外的には、日本の立場が変更されたと受け取られることは必須である。
「北方四島は日本に帰属する」削除が意味するところ
この件については、政治アナリストの渡瀬裕哉氏の以下のツイートが核心を突いているだろう。
今年の外交青書は、日本人のこちらが譲歩すれば相手も譲歩するという非現実な思考回路、と、脳内構造が半分米国エスタブリッシュメントになった世襲及び役人の思考回路の悪いところの合算。当然の帰結。
— ワタセユウヤ (@yuyawatase) April 23, 2019
こちらが譲歩すれば相手方のロシアも譲ってくれるだろうという根拠のない楽観主義。交渉に長けたロシアのことだから、このまま日本が譲歩したことを既成事実化し、今後は日本が譲歩した段階をスタートとして交渉を進めてくることだろう。
つまり、もう交渉で4島返還を日本側は主張できなくなったということだ。それがまさに外交青書から「北方四島は日本に帰属する」という表現が消えたことの意味だ。
2018年9月に、ロシアのプーチン大統領が「あらゆる前提条件を抜きにして、今年末までに平和条約を結ばないか」と提案し、これを安倍総理が受け入れたことから、北方領土に関する交渉も進展を見せたかのように国民には錯覚させた。
それが錯覚だったことも、この外交青書からの「北方四島は日本に帰属する」という表現の削除を通じて明確になったと言える。
どういうことかと言うと、これまでの自民党政権下の外交交渉によって、ロシアと日本の間で北方領土は領土問題の存在する係争地域であることをロシアに認めさせていたのだ。例えば、日本は尖閣諸島について中国などの国と係争関係にあることを認めていない。少なくとも日本側からすれば尖閣諸島について領土問題は存在していないのである。
対して、日本とロシアの間では北方領土について領土問題が存在している。ここまでは両国で認め合っていたのである。もちろん、ロシア側からすれば、問題があろうとも自らの領土であるという立場は崩さない。それでも、両国の間で係争地域であるという相互認識が存在しなければ、そもそも交渉すら出来ないのであって、まずは係争地域であることを認めさせたことは、これまでの歴代自民党政権による大きな外交成果であるとも言えるだろう。
安倍総理はその外交成果を全て捨て去った。そんな不名誉なことをやってのけたのである。というのも、プーチン大統領の言うところの「あらゆる前提条件」には、その係争地域であるということを認め合ったこれまでの交渉結果も含まれるからだ。その前提条件を抜きにすることをよしとして受け入れた。それが安倍総理なのだ。
よって、河野大臣の言うところの法的立場に変更がないというのは意味不明である。これまでの日本とロシアの間で積み重ねられた外交交渉を「抜きにする」ことを認めてしまった以上、法的立場にも相応に変更があるものと考える方が適切なのだ。
むしろ、係争地域であるという相互の理解をなきものとした以上、外交青書からも「北方四島は日本に帰属する」という表現は削除せざるを得なくなってしまったというのが正鵠を射ていると思われる。
「日本を売った」安倍総理
日本を取り戻すとたからかに宣言した安倍総理。
その言はどこへ消えたのか。北方領土をロシアにむざむざと譲ってしまい、「日本を失った」総理として、そう遠くないうちに歴史の審判を受けることになるのではないだろうか。
その徴表として、今回の外交青書の件は刻まれるはずである。