5月10日、行政手続きを電子申請に原則統一するデジタルファースト法案が衆議院本会議で賛成多数で可決した。これより行政手続のデジタル化が進み、例えば、引っ越しや法人設立の際、パソコンやスマホを使ってインターネット上で申請できるようになる。
行政が関わる手続きは住民票の移転や児童手当の申請など約4万6000種類あるとされており、このうち電子化されているのは10%程度。デジタルファースト法案が今後、参議院を通過し、法が施行されれば、政府は行政手続きの電子化に着手することになるだろう。
将来的には不動産契約など民間同士の手続きもネット上で済ませる改革も視野に入れており、日本全体のデジタルトンランスフォーメーションが一気に進むことになる。
デジタルファースト法案は2018年にも国会で議論するはずだったが、国会の様々な駆け引きの中で、2019年まで引き伸ばされてきた。半年遅れてようやく、今回、法案成立が見えてきた格好だ。
注目はワンスオンリー
今回のデジタルファースト法案は3つの柱がある。(1)個々の手続・サービスが一貫してデジタルで完結する、いわゆる「デジタルファースト」、(2)一度提出した情報は二度提出することを不要とする「ワンスオンリー」、(3)民間サービスも含めて複数の手続・サービスをワンストップで実現する「コネクテッド・ワンストップ」。
どれも重要だが、中でも注目はやはり「ワンスオンリー」だ。今や電子国家で有名なエストニアはワンスオンリーの最先端を行っている国だ。エストニアでは99%の行政事務がオンラインで完結し、今では同国の電子公共サービスは世界に向けて開放されている。これにより国外からも、エストニア以外の国の人がエストニア国民と同様の行政サービスが受けられるようになっている。2014年に「e-Residency」というプログラムがそれだが、この仕組みを利用すれば、日本に住んでいながら、EU圏での事業が可能になる。エストニアでの会社設立や銀行口座の開設ができ、電子署名による取引、納税までオンラインで可能だ。こうした利便性を支えているのが、ワンスオンリーだ。
地方自治体は努力義務
期待の高まるデジタルファースト法案だが、一方で気になるのは地方自治体に対する影響だ。都道府県の広域自治体については2020年度中に実現が期待されている一方、基礎自治体については努力義務となっている。
法律における努力義務は一般に、現場の受け止めは「やらなくてもいい」となる。かつて、官民オープンデータ基本法が制定された際にも同様に問題があり、政令指定都市の横浜市議会では問題意識を持ち、議員提案条例によって「行政データのオープン化を行政に対して求めた経緯がある。
デジタルファーストも法律通りに対応する自治体もいれば、努力義務であっても積極的に取り組んでいく自治体と差が現れるだろう。オープンデータの推進と異なり、デジタルファースト法案は市民が日常的に触れる行政サービスであるため、法律へ対応するか否かは市民の目に見えて、大きな差となって現れるだろう。
地方自治体の優勝劣敗が進む
法律的には努力義務ではあるものの、デジタルファースト法案のインパクトを現場の基礎自治体がしっかりと理解してなければ、その対応の差は自治体の浮沈に大きく影響していくことになる。デンタルファースト法案がきっかけとなって、都市の優勝劣敗が進み、人々がより便利な都市へ移動する都市化の流れが加速する可能性も出てきそうだ。