選挙前に発生する「アレオレ詐欺」
「アレオレ詐欺」、聞き慣れない言葉だろうか。
特に選挙の前になると、各地で発生する。
「アレはオレ(俺)が実現した」と、選挙の候補者や応援に来た政治家が嘘か本当か分からない話をするというものだ。
例えば、あの道路は私の提案で予算を獲得して整備されました。あの事業は私が国から補助金を獲得して実現しました。そんな話が実しやかに語られるのである。
地方選挙に応援に来た国会議員が「○○候補が私に提案をしてくれたので、国の予算をつけて、××を実現しました。国とパイプを持つ○○候補がこの地域には必要です」という応援演説を行う。
もちろん、詐欺ではなく、実際にその候補者なり議員なりが実現させた事業もあるだろうが、少なくない事例が実際にはその候補者や議員の力とはほぼ無関係に実現した事業であって、ただ勝手に自分でやったと言っているだけである。一人の政治家の力で実現したり、優先順位が大きく変わったりする事例はそう多くない。
ただ、政策過程はそこまで透明化されていないので、誰がどのように政策実現に動いたのかは明らかではなく、だからこそ、「アレはオレの成果」と言った者勝ちの状況にある。
この「アレオレ詐欺」は、政府与党系の候補者のまわりで発生しやすい。と言うのも、政府与党が予算を握っており、政策決定が政府与党の意向に沿ったものになるからだ。自らが実現したいと考える政策が実現することも多く、「アレはオレの成果」と言いやすい状況が生まれやすいのだ。
塚田副大臣、「アレオレ詐欺」で失脚する
自民党参議院議員の塚田一郎国土交通副大臣が「アレオレ詐欺」で副大臣辞任に追い込まれた。
塚田氏は、福岡県知事選挙の応援に福岡に入り、その応援演説のなかで、本州と九州を結ぶ下関北九州道路の整備に関し、それぞれ地元である安倍晋三首相と麻生太郎副総理兼財務相の意向を「忖度した」と発言していた。
一度は凍結されていた下関北九州道路が塚田氏の忖度によって実現へ動き出したのであれば、それはそれで大問題だが、塚田氏は事実と異なる発言をしたと釈明し、結局辞任に追い込まれた。
これは、典型的な「アレオレ詐欺」事例と言えるだろう。というのも、下関北九州道路は政府与党以外の政党も賛同している事業だからだ。
塚田氏の忖度発言の前に、国民民主党の城井崇衆議院議員は「下関北九州道路の早期実現に関する質問主意書」を提出しており、その答弁書が5日に閣議決定されている。
これをもって、塚田氏を批判していた野党に対して「特大ブーメラン直撃」などと騒ぐ向きもあるが、それは的外れだ。塚田氏は与野党を越えて実現へ向けた動きのあった事業について、勝手に「アレはオレがやった」と嘘をついていたことが明らかになっただけである。
むしろ、安倍総理や麻生副総理に対して副大臣が忖度をしたと言わなければならない状況になっていることに批判の目を向けるべきだろう。
「アレオレ詐欺」に注意しよう
これから統一地方選挙の後半戦に突入し、市区町村長や議会議員の選挙が行われることになる。前半戦にあった知事選挙などとは異なり、国会議員が応援に訪れる機会は少なくなるため、今回の塚田氏のように政府の要職に就く議員が「アレオレ詐欺」を働く機会も減りそうだ。
それでも、例えば市長選挙の応援にやって来て、「アレはオレが市長の要請に応えて実現した」「国政とのパイプを持つ市長を引き続き」と演説する与党系の議員がいることだろう。それが事実であれば、合理的な判断に基づかずに予算が恣意的に執行されたことを意味するし、嘘であれば「アレオレ詐欺」そのものだ。
そういう「アレオレ詐欺」に騙されず、投票の判断を行いたいものである。