一連の説明は謎と疑念を深めるだけ
「桜を見る会」の前日に安倍総理が自身の支持者を招いて実施したとされる夕食会。
連日、安倍総理は記者の求めに応じて、ぶら下がり会見を行い、その説明を行っている。ただ、説明をすればするほど、その謎や疑惑は深まるばかりだ。
18日の安倍総理の説明もまさにそうで、かえって謎が深まる内容であった。
一連の安倍総理の説明には矛盾点が満載で、その矛盾については各所で指摘されている。
安倍総理曰く、夕食会に関して安倍事務所にも後援会にも一切出入金はなく、領収書を事務所として発行していない。さらに、領収書を受け取ってもいない、と。
これは、出入金があれば、政治資金収支報告書に記載が必要になり、実際にはその記載がなされていないことを意識しての説明であると思われる。しかし、何とも歯切れが悪い。
安倍総理の支持者は総理の地元である山口からツアーを組んで、「桜を見る会」や前日の夕食会に参加している。そのツアー代金はツアーを企画したとされる旅行会社に支払われており、安倍事務所には出入金がなかったと安倍総理は説明している。そして、夕食会だけ別途、ホテルで参加者が参加費5000円を支払うという処理を行ったというのだ。
お金のやりとりを安倍事務所を介さないかたちにするのであれば、その全てを参加者と旅行会社との間で完結させてしまえば良い。つまり、ツアー代金の中に夕食会の参加費も組み込んでしまえば良かった。しかし、実際に、そのような処理は行われていない。これが何を意味するのかと言えば、安倍事務所は政治資金規正法や公職選挙法を意識していたということである。
というのも、夕食会は政治資金規正法が規定するところの政治資金パーティーに該当する可能性がある。その参加費をツアー代金と一緒に旅行会社が参加者から受け取ると、その後の処理が大変厄介になる。だから、夕食会の代金はツアー代金から切り離して当日の精算にしたというのは理に適っている。
実際に、夕食会の参加者は当日に受付で支払いを行っており、ホテル発行の領収書が手交されていたようだ。その領収書の存在が明らかとなり、それをもって、参加者とホテルの間での直接の取引があったのであって、安倍事務所に出入金がなかったことは明らかであるから安倍総理の説明は正しいと、この期に及んでも擁護する人もいるようだが、それは明らかにおかしい。
謎を解くカギは当日の5000円精算の不自然さにある
参加者が5000円の参加費を当日にホテルで払うとして、およそ通常ではありえない処理がそこではなされている。
それは、ホテルが発行した領収書を安倍事務所の関係者が参加者に渡しているということである。参加者から参加費を受け取る前に、安倍事務所はホテルから領収書の発行を受けていたことになり、これは通常ではありない処理だが、それが実際には行われていた。
5000円という金額自体にも疑念が生じているが、これはホテルとの交渉で、800名×5000円=400万円を支払うので、それに見合った内容の夕食会にして欲しいと安倍事務所が要請し、それをホテルが承諾すれば済むことではある。しかし、当日の参加者が800名よりも少なければ、入って来るお金は過少になり、一方800名よりも多ければ入って来るお金は過大になる。いずれの場合にも、当日受付で参加費を受け取った安倍事務所が調整を行った上でホテルに渡さなければならず、安倍事務所に出入金がないとする安倍総理の説明は矛盾する。
以上が矛盾なく成立する状況が実はある。
それは安倍事務所とホテルがある種の共犯関係にあって、阿吽の呼吸で事が進んでいた場合である。
まず、ホテルはある規模のパーティーを実施することだけを請け負い、安倍事務所に領収書の束を渡す。ポイントは事前に請け負う金額を設定しないことである。一人あたり5000円を参加者から徴収することだけは決めておいて、参加者数については決めずにおくのだ。こうすれば、当日、総額いくらの出入金があるのかは未確定のまま。例年実施している夕食会であるから、おおよその参加人数は事前に予想出来るので、それに合わせてホテルは部屋を確保し、料理や飲料を用意しておけば良い。
そして、夕食会を実施する。参加者は何名であっても構わない。参加者が来た分だけ、ホテル発行の領収書を安倍事務所は参加者に渡す。そして、入ってきたお金は全て安倍事務所からホテルに渡してしまう。その際、余った領収書の束はホテルに返却する。
こうすれば、安倍事務所のところで過不足は生じず、出入金はなかったかのように見せることが出来る。そして、この場合は、少なくとも事前には見積書や明細書は作成されない。そもそも何人参加するのか不明であるからだ。あったとしても、夕食会を行う日時と部屋についての取り決めくらいだ。事後も、ホテル側からは受け取った金額について何らかの書類を安倍事務所に渡すのかもしれないが、それも行っていない可能性もある。
安倍事務所としてはホテルが儲かろうが損をしようが、それは関知しないという立場であろう。結果として、夕食会は無事にホテル開催された。出入金もなく、利益も損失もない。これはこれで安倍事務所としては何も困ることはないはずだ。
ただ、上記のようなやり方はホテルにとっては不都合なことも多い。しかし、ホテルはそうまでしても、安倍総理の夕食会開催を請け負いたい理由があるのではないかと邪推したくなるところ。
この点、弁護士の郷原信郎氏のブログで、安倍総理にすべき質問として、以下のようなものがあげられており、まさに核心を突いている。
「ホテルニューオータニに対して、「首相官邸や内閣府からの発注」は行われていないのか。」
ホテルニューオータニは厄介なことに巻き込まれた被害者のように見えているが、実際には何か見返りの発注を受けていた。いわば安倍総理や首相官邸と共犯関係にあったのではないか。
通常あり得ない処理がなされていた当日のホテル発行領収書による5000円精算をホテルが飲んだ理由にこそ、今回の問題の真相が隠されているはずである。