2016年12月に「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」が施行された。略称で、IR推進法やカジノ法と呼ばれる法律だ。略称に「カジノ」とあるように、これまでに日本にはなかったカジノ施設の設置の道を開く法律であることから、カジノに対する賛成反対の両派から期待と不安がそれぞれ表明されている。
この法律に基づき、内閣総理大臣を本部長とし、国務大臣を副本部長および本部員とする特定複合観光施設区域整備推進本部が設置されている。さらに、この本部の下に、特定複合観光施設区域整備推進会議が置かれ、具体的な調査審議が行われており、本年度に入って4月6日に第一回、5月10日に第二回の会合が行われている。4月の回で配布された資料を確認すると、夏頃までに大枠でのとりまとめが行われることが予定されており、いよいよ特定複合観光施設区域の整備について日程が具体化する段階に来ていると言える。
法律の名称にも「特定複合観光施設区域」とあるように、これは単にカジノ施設の設置には限定されず、カジノ施設及び「会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設が一体となっている施設」(同法第2条)を指している。実際に整備されるとなると、当該地域における大規模な開発が想定されることになり、経済的な影響も大きい。そこで、既に大阪や横浜、和歌山などをはじめ、各地で誘致へ向けた取り組みが展開されている。ただし、カジノ施設の設置については当然反対も見込まれるため、当該地域において推進の旗振り役ともなる首長の政治的な立場に応じて、各地でもその活動には濃淡が見られるところである。例えば、市長選挙を夏に控えた横浜市の場合、現在の林文子市長がこれまでの積極的な姿勢から若干慎重な姿勢へと態度を変更している。カジノ誘致反対を強く訴える候補の立候補が想定されており、それにも対応する動きであると思われる。
カジノについては、ギャンブルの依存症の問題が提起される。民進党をはじめ野党が法律に関する審議ではその点を指摘し、実際にこの法律の施行と合せてギャンブル依存症への対策も講じられることとなった。
今後、特定複合観光施設区域の指定に向けては、各地の激しい争いが予想される。そこで注視すべきは、ルールに則った決定がなされるのか否かである。自治体の申請に基づき、国は特定複合観光施設区域を認定する。そして、認定された区域に対しては、「国は、前条の基本理念にのっとり、特定複合観光施設区域の整備を推進する責務を有する。」(同法第4条)とされるように、国の様々な支援措置が予定されており、どこか認定を受けるのかは極めて重要な判断となるのである。
例えば、名前の挙がっている大阪では、松井一郎大阪府知事が積極的な姿勢を見せ、法案の審議の際にも日本維新の会は自民党と足並みを揃えて法案に賛成している。横浜市であれば、山下ふ頭地区での計画が取りざたされているが、ここは麻生財務大臣の側近とされる松本純国家公安委員長の選挙区であり、隣接する区は菅官房長官の選挙区でもある。さらに、和歌山であれば、自民党二階幹事長の地元である。このように、それぞれの地域に政権に関係する政治家もおり、特定の政治家によって決定が歪められたとの疑念が生じないよう、現段階から手続に関する情報の保存や公開が求められている。