多くの種類がある高齢者・介護関連の施設
内閣府がまとめている『平成29年版高齢社会白書』によると、65歳以上の高齢者の子供との同居率は1980年にほぼ7割だったのが、2015年には39.0%と減少し、単独または夫婦のみが1980年には3割弱だったのが、2015年には56.9%まで増えている。
白書は、国民生活センターへの提供情報に触れ、65歳以上の高齢者は住宅内での事故発生の割合が高く、発生場所は、「居室」45.0%、「階段」18.7%、「台所・食堂」17.0%となっていると記している。
こうした事情などに鑑みれば、在宅・施設サービス等の整備・加速化に取り組むことは喫緊を要する課題であり、とりわけ長期・終身で入れる施設をしっかり整備していくことを優先すべきである。
高齢者・介護関連の施設は種類が多く、制度が入り組んでいるので、分かりにくいところがある。大きく分類するか、細かく分類するかで種類も異なってくる。10数種類と分類している解説書もある。必ずしも長期・終身入居だけを対象としたものではないが、高齢者向けの施設をざっくり整理してみる。
先ず、介護保険により入所できる公的施設つまり介護保険施設としては、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設(老健)、介護療養型医療施設(療養病床:平成36年3月までの廃止が決まり、介護医療院に移行予定)がある。
そして、民間の施設としては、有料老人ホーム、ケアハウス(軽費老人ホーム)、養護老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅があり、都道府県が指定すれば、そこで特定施設入居者介護という介護保険サービスを受けることができる。
民主党政権下で「サービス付き高齢者向け住宅」を創設
その中で、「サービス付き高齢者向け住宅」(サ高住)の伸びが目立っている。国からの補助金制度もあり、入居申し込み・実際の入居が時間的にも、手続き的にも行いやすいために、建設・普及に追い風が吹いている。
ベースは普通の賃貸住宅であることが多いが、介護・医療の分野と連携がはかられている。高齢者生活支援施設が併設・隣接しているところも多く、介護保険制度を利用しやすくなっている。60歳以上の人、60歳未満の要介護者などを対象としており、高齢者であることを理由に入居を断られることはない。
この制度は民主党政権下で、「高齢者の居住の安定確保に関する法律等の一部を改正する法律案」を成立させて、2011年から始まったものである。国土交通省と厚生労働省が連携して、制度設計がなされている。
法案が審議された衆議院国土交通委員会(2011年4月20日)において、担当の国土交通大臣、厚生労働副大臣は以下のように発言している。
(大畠章宏・国土交通大臣)
「住宅のハード面、これまではどちらかといいますといわゆるバリアフリーというものを考えておったわけでありますけれども、福祉施策と連携しながら、家族形態や所得、高齢者の心身の状況などに応じて、高齢者の方々が必要とする生活支援サービスや介護サービス、あるいは医療サービスが受けられるような環境を整備していきたい、こういうことから今回法案を提出させていただいたところであります」
(大塚耕平・厚生労働副大臣)
「地域包括ケアシステムは五つのポイントがございまして、医療と介護と予防、そして生活支援サービス、住まい、この五つがポイントになっておりますので、この五点目の住まいの点で、今回委員会で御審議いただいております高齢者住まい法と関連があるわけでございます」
「今後とも、国土交通省と緊密に連携をいたしまして、これらの介護サービスと高齢者向け住宅を組み合わせた仕組みを広く普及させていただきたいと考えております」
課題はあるが、「サ高住」など高齢者向け住宅の供給は促進すべき
2108年2月末時点で22万9,541戸数が登録されている。ほぼ5年前の2013年6月末の10万9,239戸から倍増している。民主党政権下で、国土交通省は「サ高住」など高齢者向け住宅を60万戸整備する目標を掲げていた。
政権に復帰した自民党政権においても、「サ高住」など高齢者向け住宅の建築・普及を促進する取り組みが見られる。「住生活基本計画」(全国計画:2016年3月)においては、2025年までに、高齢者人口に対する高齢者向け住宅の割合を4%とする、高齢者生活支援施設を併設する「サ高住」の割合を90%にするという成果指標が掲げられている。
「2016年ニッポン一億総活躍プラン」(2016年8月)においては、2020年代初頭までに介護基盤の整備拡大量を50万人分以上(サービス付き高齢者向け住宅約2万人分を含む)として、「サ高住」の位置付けも明確にされている。 「高齢社会対策大綱」(2018年2月)では、サービス付きの高齢者向け住宅、高齢者等の住宅確保要配慮者向け賃貸住宅などの供給の促進をはかることが盛り込まれている。
他方で、「老人ホーム 944人事故死 誤飲や転倒 国に報告1割 16年度 本紙調査」(東京読売新聞:2018年1月5月付け)という新聞記事の見出しにもあるように、様々な問題が起きている。また、2014年11月と12月、施設職員が入所者の男女3名を老人ホームの居室のベランダから転落させ、殺害したとされる痛ましい事件も記憶に新しいところである。
国土交通省の「サービス付き高齢者向け住宅の整備等のあり方に関する検討会 とりまとめ」(2016年5月)によると、「サ高住」は全国的には順調に供給されているとの流れを紹介しつつ、「市町村のまちづくりや医療・介護サービスとの適切な連携の観点から、サ高住の立地の適正化が課題」「見守りサービスの人員体制・資格にバラツキ」「低所得高齢者のサ高住の入居費用の負担は困難」などの問題点も指摘されている。
国交省の検討会がとりまとめているように、「受け皿としてのサービス付き高齢者向け住宅(以下「サ高住」という。)が良質な高齢者の居住空間として果たす役割は大きいと考えられる」というような前向きの評価をして良いと考える。
様々な問題はあるが、介護保険制度との緊密な連携の下、有料老人ホーム、サ高住など高齢者向けの住宅の整備を着実に促進していくことは重要である。国の施策として、こうした施設が安定的な経営基盤を維持できるような環境整備をはかるとともに、施設の倒産等により入居者が路頭に迷うことだけはないように、抜本的なセーフティネットを講じていくことが求められる。