6月2日に、天皇の退位等に関する皇室典範特例法が衆議院本会議で自由党を除く全党の賛成で可決された。あわせて、民進党などが主張した「女性宮家の創設等」を明記した安定的な皇位継承に関する付帯決議案も本会議で報告された。昨年8月の天皇陛下の「おことば」を受けて、衆参両正副議長のもとで各党・各会派により天皇の地位についての議論が続けられ、このたびの衆議院通過となったのである。
本会議を前に法案の審議が行われたのは衆議院議院運営委員会であった。皇室関連の法案を所管するのは内閣委員会であるが、衆参両院の正副議長のもとで天皇陛下の譲位に関する議論がなされてきたこともあり、衆参両院の正副議長も陪席する衆議院議院運営委員会での法案審議となったのである。衆議院議院運営委員会での政府提出法案の審議は69年ぶりという異例の事態である。さらに、この後の参議院では特別委員会を設置しての審議を予定しており、衆参両院で扱う委員会が異なるという異例の事態が続くことになる。
国会で異例の対応が続くほど、天皇の退位等に関する皇室典範特例法は特別なものであると言える。そもそも、天皇陛下の退位という事態はこれまで必ずしも想定されていなかった。今回、天皇陛下の「おことば」を受けるかたちで、各党の立場も超えて立法府としての成案が得られたのであるが、衆参両院の正副議長のもとでの議論では、いくつかの論点が存在していた。6月1日の衆議院議院運営委員会で質問に立った民進党の馬淵澄夫議員がその論点について問い質している。その論点とは、この特例法が将来の先例となるのか否か、法律の施行日はいつになるのか、女性宮家の創設についてである。
この特例法は、現在の天皇陛下の退位に関するものである。衆議院で可決された特例法の第1条は、「この法律は、天皇陛下が、昭和64年1月7日の御即位以来28年を超える長期にわたり、国事行為のほか、全国各地への御訪問、被災地のお見舞いをはじめとする象徴としての公的な御活動に精励してこられた中、83歳と御高齢になられ、」という書き出しから成る。ここで、将来の天皇の退位についてはどう対応するのかが焦点となり、この点について馬淵議員は質問したわけであるが、菅官房長官は「将来の先例となり得るもの」と答弁した。将来も同様の特定法の制定をもって退位を可能とするということである。
特例法の附則では、「公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」とある。この施行日というのが天皇陛下の退位の日となるわけであるが、この施行日がいつになるのか論点となる。馬淵議員は、「政府として努力目標としている年限・期日を具体的に明示すべきではないか」と質問している。これに対して。菅官房長官は、現時点では準備に必要とされる期間を判断することは出来ないが、円滑な退位が遅滞なく実施できるよう最善の努力をすると答えている。
「女性宮家」創設の検討については、皇位の安定継承策と関係する議論である。今回は、退位に関する法制化が優先され、女性宮家の創設などについて検討することは付帯決議で対応がなされることとなった。具体的な検討についても馬淵議員は衆議院議院運営委員会で質問しているが、これに対しては、菅官房長官は法施行後の具体的な検討に向けて適切に対応する旨の答弁を行っている。小泉純一郎内閣が設置した有識者会議で皇位の安定継承策について議論がなされ、女性天皇や女系天皇を認める報告書がまとめられている。その後も、野田佳彦内閣で「女性宮家」の創設を検討すべきとする提言もなされている。今回の特例法が成立すると、3年以内に天皇陛下が退位されることになるが、皇位の安定継承策が講じられたわけではなく、その検討は今回の特例法をめぐる議論のように党派を超えて慎重になされなければならないだろう。