霞が関から見た永田町

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NHKは今後とも持続可能な受信料徴収・運営ができるのか

 

 

 

5年度分のNHK決算が審議される

 

 現在、国会において、平成24年度から平成28年度分のNHK決算(日本放送協会 財産目録、貸借対照表、損益計算書、資本等変動計算書及びキャッシュ・フロー計算書)の審議が行われている。

 

 ちなみに国民民主党は、平成24年度、25年度は「異議なし」、平成26、27、28年度は「異議あり」と態度を決定している。


 平成24年度は3か年計画の初年度で、受信料の値下げ、震災による緊急の設備等を行う中にあっても、195億円の収支差金が計上されていること、25年度は給与体系を5年で約10%抑制するなど182億円の収支差金が計上されていることを含め現場の尽力、経営の努力面が見られる。


 他方、平成26年度は396億円の収支差金を計上する一方、籾井会長自身が失言を連発し、ガバナンスのあり方が課題となった。平成27年度は288億円の収支差金を計上する一方、子会社の不祥事が相次いで発覚し、受信料に支えられている公共放送としての社会的責任が問われた。平成28年度は280億円の収支差金を計上する一方、記者が私的にタクシーチケットを使用するなどの不祥事が発覚した。この時期は、籾井会長の資質の問題によって、国会での議論が紛糾して、改革が挫折した一面も見られた。

 

 

 これに先立つこと平成30年度NHK予算(放送法第70条第2項の規定に基づき、承認を求めるの件)が審議されている。事業収入は7168億円、事業支出は7128億円と前年度より若干増額されている。事業収入の太宗を占める受信料も増加すると見込まれ、6995億円となっている。平成25年に起こった職員の過労死事件の再発防止策を含めた附帯決議がつけられ、衆参ともに全会一致で承認されている。

 

 特段のトラブルがなければ、NHKの予算、決算は与野党の垣根を越えて、承認されることが通例であった。ただ、国民の間からもNHKの存在意義や受信料負担のあり方を巡って沸々とした疑問や不満が湧き出ていることも事実である。

 

 

「NHKワンセグ訴訟」が相次ぐ

 

 このところワンセグ付き携帯電話のNHK受信契約を巡る訴訟が相次いでいる。自宅にテレビは持っていないがワンセグケータイを所有する場合にNHKとの受信契約を結ぶ必要があるかどうかということが争点となってきた。


 今年に入ってからも、3月22日、3月26日、6月21日と矢継ぎ早に、東京高等裁判所で判決が下されている。いずれもNHKの主張に沿った内容となっている。6月21日の判決についてのNHKの公式見解を以下に紹介する。

 

 

平成30年6月
「ワンセグ機能付き携帯電話の放送受信契約をめぐる東京高裁判決」について

 

 平成30年6月21日、東京高等裁判所で、テレビを所有せずワンセグ機能付き携帯電話だけを所持することで放送受信契約を結ぶ必要があるかどうかが争われた裁判の判決がありました。
 東京高等裁判所は、放送法64条で定めた「協会の放送を受信することのできる受信設備の設置」に該当するとした第一審判決を維持し、放送受信契約の締結義務はあるとの判断を示しました。NHKの主張が認められた妥当な判決と受け止めています。

 

 

 ネットを見ていると、NHK集金人を批判したり、撃退したりしていることを自慢する文章がやたら多いことに気が付く。


こういう人たちに対して、NHKは「テレビ受信機を設置しているにもかかわらず、放送受信契約を結んでいただけない世帯や事業所に対し、公共放送の役割や受信料制度の意義などについて誠心誠意説明を行っていますが、それでもなおご契約いただけない場合、受信料の公平負担を徹底するため、放送受信契約の締結と受信料の支払いを求める民事訴訟を提起することとしています」と最終的には法的手段に出る対応をとっている。裁判所の強制執行手続きにより、放送受信料を徴収することまで行われている。

 

 

安定的に受信料を徴収し、事業を運営していけるのか

 

 NHK受信料の支払いを拒否する人の意見に加勢したり、NHKの存在意義を否定したりする意図は毛頭ない。しかし、今後とも長きにわたって安定的に、NHKが視聴者の理解を得て、受信料を徴収し、事業を運営していくことができるのか心配している。いくつかの懸念する点をあげてみたい。

 

 第一に、NHKの存在意義、公共的な価値を国民に受け入れてもられるのか。今のところ、多くの視聴者には理解されているとは思うが、そこを否定されてしまっては、元も子もない。受信料を払ってもらうため、聞く耳を持たない人を説得することは、かなり大変なことだろう。

 

 第二に、国民の収入低下、格差の拡大が見られる中、相当の負担を求めることがきつくなってくるのではないか。集合住宅に入っていれば大概の場合は共同アンテナがついていてBSも見られるので、衛星契約を結ばざるを得ない。2か月でおよそ4500円の支払いは、生活苦の人には重たい負担となるだろう。

 

 第三に、インターネット時代において、新聞やTVを含めたジャーナリズムの根幹が揺らいでいることである。若者のTV離れの動きも顕著になっており、「TVがない」「TVはあるがほとんど見ない」と回答する人も珍しくない。ビデオ・オン・デマンド (Video On Demand)の業者もたくさんあり、映画やドラマをタブレットやスマホにダウンロードして見ることは当たり前のことになっている。国会中継にしても、すべての委員会の審議がライブ・録画で見られる。「NHK中継入り」の国会質問の重みも失われつつある。

 

 第四に、NHKのように“真面目で堅実な存在”は、ポピュリズムの格好の標的になりかねないことである。トランプ陣営が既存のメディアの報道に「フェイクニュース」のレッテルを貼り、偏った、一方的な内容を拡散するSNSなどによって支持層を広げ、アメリカ大統領選に勝利したことを思い起こす。「高い給料」「受信料取り立て」「偏向報道」などを口実にNHKを不満のはけ口にしている人も一部にはいるようである。

 

 なお、平成30年度のNHK予算の審議の際に、過労死事件の再発防止も含めて附帯決議が付いたことには触れた。かなり項目も多く、長い文章になるので、細かい説明は省くが、NHKグループの職員の不祥事への対応、番組編集における政治的公平性の確保、経営委員会の適切な権限の行使、国民・視聴者に対する情報開示・説明などに関する項目が盛り込まれた。こうした諸課題に政府やNHKが着実に取り組んでいくべきことは当然である。

 

 最後に余談になるが、「公益法人 NHK交響楽団」の収支予算書などもチェックしてみた。2018年度の経常収益はおよそ30億円である。太宗を占めるのが、受取交付金14億円、事業収益13・5億円である。

 

 受取交付金の意味がよく分からなかったが、NHKのウェブサイトに「NHK交響楽団の収支予算書及び財務諸表では、NHKからの助成金を『受取交付金』と記載している」との説明があった。

 

 通常、定期公演のチケットはS席で8800円(1回券)となっているが、レベルの高い指揮者、演奏者による音楽をこのくらいの値段で聞けることは、NHKからの助成があるからだと納得した。日本で有数のオーケストラの一つである「N響」を支え、芸術の振興に大きく貢献している面でもNHKの存在意義は大きいといえる。

 

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