霞が関から見た永田町

霞が関と永田町に関係する情報を、霞が関の視点で収集して発信しています。

MENU

今度は対韓国での外交敗北にならないように 国際世論の支持を日本に取り付けよう

 

 

 

日韓請求権協定に基づく仲裁委員会の設置を要請

 

 今月23日に、河野太郎外務大臣が韓国の康京和外務大臣と会談する予定であると発表された。会談では、韓国人元徴用工問題について、1965年の日韓請求権協定に基づく仲裁委員会の設置に応じるよう韓国側に求める方針であるとも報じられている。

 

河野氏、韓国外相と23日会談 元徴用工問題 仲裁受け入れ要請へ :日本経済新聞

 

 既に今年1月の段階で、日本政府は日韓請求権協定に基づく二国間協議を韓国政府に申し入れていたが、韓国政府がこれには応じることがなかった。そのため、次の段階として、仲裁委員会の設置を求めることになったのである。
 この後も韓国側が仲裁委員会の設置に当たって必要な仲裁委員の任命に応じるのかは不透明のため、事態の打開へ向けた動きとなるのか判断は難しいが、日本側として出来ることを着実に行っていくということで、この要請自体は正しい一手を打ったと評されよう。

 

 

次は国際司法裁判所か

 

 問題は、この次の一手だ。
 もし韓国側が仲裁委員会の設置に応じて、仲裁委員の任命を受け入れるとしても、この仲裁委員は第三者が務めることととなる。もちろん、両国の駆け引きがそこで行われることになるが、間違っても日本に有利な判断をしてくれる委員が選ばれるとは思ってはならない。あくまで中立、場合によっては韓国側に肩入れしかねないということも想定した上で、事に当たる必要があるのだ。
 これは先ごろのWTOでの敗訴の件と構図が似ている。日本政府としては自らの主張に自信を持ち、またその主張は国際的にも支持されるものだと考えがちだが、最終的に判断するその人物が承服してくれなければ、その場では日本政府の負けという判断が下される。
 仲裁委員会での日本政府としての主張の展開の仕方だけではなく、仲裁委員がどのような人物で、どのような思考の持ち主なのか、そして、どのような主張であれば受け入れてくれるのか、丁寧な分析と対応が日本政府には求められている。自らの正しさだけ強調すれば事足りるという姿勢では、足元をすくわれかねない。

 

 仲裁委員会の設置に韓国政府が応じない場合、日本政府としては、国際司法裁判所への提訴も視野に入れていると報じられている。
 これはこれで解決の一手段ではあるが、これも韓国政府側の出方次第であり、簡単ではない。もし韓国政府がこの提訴に応じた場合でも、仲裁委員会での懸念事項と同様のことを日本政府としては考えておかなければならない。
 つまり、国際司法裁判所に持ち込んだからといって、それがそのまま日本政府にとって有利な展開となるかと言えば、そういう訳でもないということだ。国際司法裁判所で付託されれば日本政府の主張が受け入られるとの楽観論は排すべきである。

 

 

国際機関の過大評価は禁物

 

 国際司法裁判所に日本だけの単独提訴となった場合、相手国である韓国は応じないことについて説明義務を負うため、その説明をさせるだけでも、日本政府としては得るところが大きいとの主張もある。これはあまり意味のない主張である。なぜなら、説明をしないという選択を韓国政府は取ることが出来るからである。その場合、韓国政府の評判は一瞬落ちるかもしれないが、それ以上ではない。結局、いずれかの国による単独提訴では、裁判に付託されずに、そのまま事は動かずということになるだけだ。国際司法裁判所に付託されないよう逃げ回っている国はいくらでもあるので、この件で韓国政府が逃げたところで、そこまで評判を害することもないだろう。

 日本国民の中には、国際司法裁判所をはじめ国連などの国際機関を過大評価する人も少なくないが、そういうところで誠意ある対応をしない国の方が多いくらいだから、あまり期待をしない方が良い。

 

国際司法裁判所については、日本から岩澤雄司氏が裁判官に選ばれている。

 

www.mofa.go.jp

 

 一方で、韓国からは裁判官が選ばれていないため、日本政府の方が有利だと誤解されがちだが、そんなことはない。日本人の裁判官が一人いる程度で事が日本に有利に運ぶと考えるのはあまりに楽観的だ。

 

 国際機関だからと言って、日本政府が考える道理が通るとも考えない方が良い。繰り返しになるが、先ごろのWTOでの「敗訴」を思い出せば、それは明らかであろう。科学的根拠を基に行った日本の主張であっても、それが受け入れられないこともあるのだ。今回、徴用工問題で日本政府が精緻にその反論を行ったとしても、それが受け入れられるかは未知数だ。あるいは、韓国側の主張が受け入れられる可能性も大いにあり得る。

 そういう敗北の可能性も十分に考慮して、日本政府としては戦略を組み立てる必要があるだろうし、実際に負けてしまった場合の対応策についても水面下では考えておく必要がある。負けてしまうリスクも十分に考慮した上で、打って出るべきところは打って出る。そういうバランス感覚が求められているのだ。

 

 

現段階から、日本政府を支持する国際世論の形成を

 

 仲裁委員会でも国際司法裁判所でも、そこで負けてしまってから、国際的には日本政府の主張が受け入れられていたと宣伝してもそれは時遅しである。国際的に日本政府の主張が支持されているというのであれば、この段階から既に宣伝戦を展開し、その旨を広く国際的に知らしめていく必要がある。
 とりわけ、河野外務大臣は、この段階から韓国政府に対する交渉だけではなく、合わせて、国際的にも日本政府を支持する世論形成にあたって欲しいところだ。日本や韓国からすれば一大事であっても、国際的に見れば、そう大きな問題ではない。だからこそ、事あるごとに河野大臣や安倍総理は国際社会における支持を取り付ける努力をしなければならない。
 その際、ともすると、アメリカの支持を取り付ければ事足りたかのようになるが、それでは不十分だ。日本の周辺国を中心に、それこそ国際司法裁判所に裁判官を出している国は世界中にあるので、それらの国々を含めて、様々な国の支持を取り付けることで、韓国政府に解決を迫っていく。そういう姿勢があってこそ、この外交問題について日本にとって好ましい解決へと導くことにつながるのだ。