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党利優先の自民公明両党の参議院選挙制度改革案

 

 

 

来年の参議院議員選挙へ向けて


 来年夏、参議院議員選挙が予定されている。これに向けて、今国会での成立を目指して、各党が参議院議員選挙制度の改革案を準備している。


 それを主導するのは議会で多数を握る自民党だ。その自民党の案は表向き参議院のあり方や1票の格差を是正といった点を考慮したものとされるが、中身は党利を優先した案である。

 

 

自民党案は党利優先


 自民案では、まず「1票の格差」を是正するために、議員1人当たりの人口が多い埼玉選挙区の定数を6から8に増やす。参議院は半数ずつの改選なので、埼玉選挙区では選挙時には1議席増ということになる。さらに、比例代表の定数を4増やす。これも各改選時には2増ということになる。そして、比例代表については、現行の非拘束名簿式に加えて、「特定枠」として拘束名簿式を一部導入するとされている。全体としては、自民党案は定数6増の案である。


この比例代表についての変更の狙いは明らかである。先の参議院選挙から、鳥取県と島根県、徳島県と高知県がそれぞれ合区された。それぞれ、二つの定数1の選挙区がひとつの定数1の選挙区となったのである。この際、自民党は各選挙区に候補者を抱えていたため、候補者の調整が必要となった。この候補者調整を容易とするために、比例代表に「特定枠」を設けるというのが自民党案の肝である。


現状では、合区において候補者調整が行われ、選挙区からの立候補が叶わなくなった際には、比例代表での立候補に回る必要がある。参議院選挙の比例代表制は、現行では非拘束名簿式が採用されており、これは比例名簿の順位を決めない方式である。つまり、獲得した票の数の順で比例名簿での順位が決まっていくのである。よって、合区により比例代表制に回った候補者は全国から票を集めてくることが求められることになってしまう。


自民党の比例代表制の候補者の多くのはその背後に業界団体などを支援がある候補者である。そのような背後に巨大な支持団体を持つ候補者と競争することになり、合区の対象となるような人口規模の小さな地域を基盤とする候補者は極めて不利状況に置かれることになる。そのような候補者を「特定枠」として、順位上で優遇して当選させることを可能とするというのが今回の自民党案である。


結局のところ、自民党案は、党利を優先して、合区対象県で選挙区の候補者になれなかった人を比例代表の名簿順位で「特定枠」として優遇することによって救済する狙いがあるのだ。

 

 

公明党案も党利優先


 公明党も対案を提出している。


 公明党案は、現行の比例代表と選挙区を廃止して、全国を11選挙区(定数8~40、改選数4~20)に再編するというものである。


 これも公明党にとっては有利な選挙制度を導入しようとするものである。公明党は創価学会という強力な支持基盤を有するが、それ以上の集票は期待できない。全国各地に支持基盤はあるものの、それは各選挙区で当選者を出したり、全国単位の比例代表制で数多くの当選者を出したりするまでの力はない。


 このとき、全国を11選挙区に分割し、それぞれにつき大選挙区制を導入すると、各選挙区で必ず一定数の当選者を出すことが可能となり、結果として安定した数の当選者を得ることが出来るようになる。大選挙区制を採用している各地の自治体議会議員選挙において、必ず一定数の公明党の議員が当選している現況を見れば、公明党案の意図は明らかであろう。


 この公明党案も自らの党勢を維持するための党利を優先した案である。

 

 

国民民主党案は微調整を行う案


 国民民主党は党利優先ではなく、現行の微調整を行うという案を提出している。
 国民民主党案は、議員1人当たりの有権者数が最も多い埼玉選挙区の定数を2増した上で、比例代表の定数を2削減するというもの。2増2減のため、総定数は維持される。

 

これまでの参議院議員選挙埼玉選挙区の結果は以下のとおりである。左から獲得票数が多い順に候補の政党名を書いてある。

 

2004年 民主党・自民党・公明党   次点:民主党
2007年 民主党・自民党・民主党   次点:公明党
2010年 自民党・公明党・民主党   次点:民主党
2013年 自民党・公明党・みんなの党 次点:民主党
2016年 自民党・民進党・公明党   次点:共産党

 

 これまで、自民党は候補者を一人に絞り、1議席を確保してきた。そして、残りの2議席を、公明党と民主党(民進党)が確保していた。民主党が2議席を得たこともあり、定数が1増加すると、自民党も二人目の候補者を擁立する可能性もあり、この候補者と国民民主党や立憲民主党、あるいは共産党の候補者で競い合うことが予想される。
 埼玉県は立憲民主党の枝野代表が地盤とする地域である。定数が1増となると、以下のような所属政党別の候補者により、4議席を争う選挙戦になるのではないだろうか。

 

自民党、自民党、公明党、立憲民主党、国民民主党、共産党

 

 うまく運べば、埼玉選挙区の1増は国民民主党にとって好都合となりそうだが、確実に議席が得られる状況になるのかというと、そういうことではないだろう。しかも、この埼玉選挙区の2増の分を比例代表で削減するということで、国民民主党にとってみると、比例代表制で当選者を得る確率を下げることになる。
 つまり、国民民主党案は党利を優先したというよりは、「1票の格差」を是正するための微調整を目指したものであると結論付けられる。

 

 自らの党勢の拡大のために選挙制度改革を利用しないという意味で、大変真摯な姿勢であると言えるだろう。少々ナイーブな対応と言えなくもないが、こういう自らの利益ではなく、制度上で必要とされる修正を行っていこうという姿勢は評価されてしかるべきであろう。

 党利を優先した自民党や公明党との間で、その対応に明暗が分かれた事例とも言える。