グリーンボンド発行に追い風
大きな記事ではないが、新聞の一面トップに『環境債発行最高6.6兆円--1~6月 債券全体では発行減--』(『日本経済新聞』、7月1日付)という記事が出ていた。ある調査会社によると、見出しにある期間、グリーンポンドは11%も増加していることなどの記述がある。
この記事は、地球環境問題は当然のこと、今後の国際政治、世界経済を見ていく上でも重要な意味を持っている。グリーンボンドの発行は新しい時代にふさわしい経済社会の構造への転換の鍵となるものであり、どの地域でどのような債券が発行されているのか注視していく必要がある。
この国会では、超党派によって、「美しく豊かな自然を保護するための海岸における良好な景観及び環境の保全に係る海岸漂着物等の処理等の推進に関する法律の一部を改正する法律案」が議員立法として成立している。
その際、衆議院の環境委員会において国民民主党の下条みつ議員が提案理由説明を行い、全会一致で採択された「海岸漂着物対策の推進に関する件(案)」(決議)には、「諸外国における法規制の導入事例も踏まえ、マイクロビーズやレジ袋を含むプラスチック類に関する施策の在り方を予防的アプローチにより不断に見直し、廃プラスチック類の削減を推進すること」など法案より踏み込んだ事項が盛り込まれた。
ところがそれに先立つ、カナダのG7シャルルボア・サミットにおいては、日本と米国だけが「G7海洋プラスチック憲章」への署名を拒否するなどの動きが見られた。地球環境問題における日本の取り組みのイメージダウンにつながったこと、せっかくの議員立法の制定にケチをつけることになったことは否定できない。
パリ協定での対応で遅れをとった日本
地球環境問題における日本政府の失態は今回に限ったことではない。温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みである「パリ協定」が発効したのは2016年11月4日であるが、日本が国会で承認したのが同年の11月8日だった。
温室効果ガスの二大排出国である米中両国がこの年の9月に批准し、インドや欧州連合(EU)なども迅速な対応をとり、発効要件が満たされてしまった。日本政府は国際情勢を見誤り、協定承認案の閣議決定そのものが遅れてしまった。
同年11月7日から18日までモロッコのマラケシュでCOP22が開催されたが、その中で第1回パリ協定締約国会合(CMA1)も行われた。CMA1に日本は議決権のないオブザーバー参加になったことから、影響力・発言力の低下を懸念する意見や批判も多く出されていた。
パリ協定については、米国が離脱を表明するなど不安材料も少なくない。しかし、先進国等のみに削減目標を義務付けた京都議定書との大きな違いがある点が高く評価されている。世界共通の長期削減目標として,産業革命前からの気温上昇を2℃未満に抑制することを規定するとともに、1.5℃までへの抑制に向けた努力の継続に言及されている。
主要排出国・途上国(米国、中国、インド等)を含む全ての国が、①削減目標を策定し国内措置を遂行、5年ごとに同目標を提出する、②自国の取組状況を定期的に報告し、レビューを受ける、③世界全体としての実施状況の検討を5年ごとに行うことが盛り込まれている。なお、我が国は、2030年度に2013年度比26.0%減(2005年度比25.4%減)を目標とする。
中央政府より地方自治体・地域企業の取り組みこそ重要
アメリカのオバマ政権は地球温暖化対策を政権第二期の最優先課題と位置付けて、積極的な取り組みを行った。しかし、後任のトランプ大統領は、地球温暖化対策を全面的に見直し、パリ協定からの離脱を発表した。
大きな打撃ではあるが、米国内には地球温暖化対策に熱心な地方政府や企業が少なくないことが救いである。アメリカの地方に行って、政策の話をした際も、 何度か“Our Government”というフリーズを聞いたが、それは「州政府」のことであり、「連邦政府」のことを指してはいなかった。多くのアメリカ人にとって「連邦政府」は遠い存在である。
環境問題などを語る際に“Think globally, Act locally”という言葉がよく聞かれる。その逆の“Think locally, Act globally”という言葉が使われることもある。いずれにしても、地球温暖化対策は世界的、地域的の両方からの取り組みが求められる。
気候変動問題、パリ協定などについては、「C40」という大都市圏のネットワークが大きな役割を果たし、国際世論をリードしている。「C40」は世界大都市気候先導グループ(The Large Cities Climate Leadership Group)というのが正式名称である。日本からは、東京都、横浜市が加盟している。
政府はこの7月3日に「第5次エネルギー基本計画」を閣議決定している。温室効果ガス削減に向けた対応を最重視し、再生可能エネルギーを「日本の主力電源」とすることを初めて明記したことなどは評価できるが、過去に決めた再生エネ22~24%などという電源構成比率を踏襲するなど根本的な議論が行われたのかどうか不明な点もある。
政府がこのエネルギー基本計画については、立法府としても議論を行い、その内容について検証を行っていく必要がある。エネルギーや脱炭素化などに関わる世界的な急速な変化に対応したものであるのか、国民民主党の「基本政策」でもうたわれている「様々な技術・製品分野における世界標準化・プラットフォーム戦略の推進」に真につながるものなのか厳しくチェックしていくべきだ。
既に述べたように、地球温暖化対策・脱炭素社会の実現は、中央政府の取り組みだけが問われるわけではない。大都市圏も含め地域と地域企業等の力こそが中核とならなくてはならない。
フランクフルト、バンクーバー、パリは都市の再エネ比率100%とする目標を設定していると聞く。「C40」やそうした先進的な取り組みをしている都市などの動きもしっかり見ていく必要がある。