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今度は文化庁の暴走か ダウンロード違法化の賛成派水増し疑惑

 

 

 

ダウンロード違法化の対象範囲の拡大

 

 ダウンロード違法化の対象を広げる著作権法改正が今国会で議論の俎上に載せられる予定だ。
 2月13日には、この問題について議論していた文化審議会著作権分科会が報告書(案)を議題とした。

 

第53回 | 文化庁

 

報告書が公表されることで、法改正へ向けた動きが具体化することになったのだ。

 

 ここで、その報告書の内容に対して危機感を持った研究者らが2月19日に「『ダウンロード違法化の対象範囲の見直し』に関する緊急声明」を発表した。

 

「ダウンロード違法化の対象範囲の見直し」に関する緊急声明

 

 これまで、著作者の許諾なく違法にアップロードされたコンテンツを、それが違法なものと知りながら私的利用目的でダウンロードする行為は違法とされてきた。ただし、その規制対象は、音楽と動画コンテンツに限定されていた。今回予想される法改正では、規制対象を静止画や漫画、文章など著作物一般に広げるものとされ、この対象範囲の拡大に対して、研究者らは危惧を抱いたのである。

 

 緊急表明では、「その法改正は、あくまで被害が深刻な海賊版への対策に必要な範囲に限定されるべきである」、「少なくとも、民事的規制・刑事罰ともに、「原作のまま」及び「著作権者の利益が不当に害される場合に限る」との要件を定めることが必要であり、刑事罰についてはさらに悪質な行為に限定する等の謙抑的な対応が求められる」としている。

 

 海賊版への対策に範囲を限定し、その要件についても厳密化して謙抑的な対応を求めているのである。これは、規制の安易な拡大に対して懸念を表明したというもので、妥当なものと言えるだろう。

 

 2月27日には、権利を侵害されてきた漫画家が集まる日本漫画協会も「『ダウンロード違法化の対象範囲見直し』に関する声明」を発表し、「丁寧で十全な審議を要望」している。

 

「ダウンロード違法化の対象範囲見直し」に関する声明

 

 こちらも、違法化の範囲拡大に対しては懸念を表明している。

 

 

文化庁が暴走する

 

 懸念が表明される中で、法改正へ向けた動きが具体化しているわけだが、そのような中で法改正の実務を担う文化庁が背信的な行為を行っていたことが明らかとなった。

 

 2月22日、自民党の文部科学部会・知的財産戦略調査会合同会議が開催された。これは法改正に向けて、自民党の党内手続きの場となるものであるが、ここに文化庁が説明のために提出した資料の中に、「捏造」と言われても仕方がない記述があったのだ。

 

www.itmedia.co.jp

 

 

 その資料の中には、文化審議会での議論をまとめたページがあるのだが、そこでは違法化の対象範囲の拡大を主張する意見が多かったかのように書かれていたり、海外の事例が恣意的に取り上げられたりしていたのである。
 文化庁が自民党に対して提出した資料の内容を検証・批判する「検証レポート」を、明治大学知的財産法政策研究所が公開している。このレポートでは、文化庁の恣意的な編集の有り様が明らかとされている。

 

「ダウンロード違法化の対象範囲の見直し」に関する自由民主党文部科学部会・知的財産戦略調査会合同会議(平成31年2月22日)配布資料の検証レポート

〔基本的な考え方・Q&A関係〕

 

「ダウンロード違法化の対象範囲の見直し」に関する自由民主党文部科学部会・知的財産戦略調査会合同会議(平成31年2月22日)配布資料の検証レポート

〔文化審議会著作権分科会意見概要〕

 

 

 文化庁が恣意的に審議会の議論を切り貼りし、その資料をもって自民党へ説明していたというのである。

 

 自民党の中でも、その問題性が認識されたようで、後の3月1日の総務会で「関係者への説明不足だ」との意見が相次ぎ、改正案の了承が先送りされたと報じられている。

 

www.asahi.com

 

 

 審議会での議論を骨抜きにし、法律による規制範囲を拡大しようとする。自分たちの望む改正案を自民党に飲ませるために、審議会での議論を恣意的にまとめた資料を提供したのである。もはや見慣れた風景ではあるが、官僚が勝手に話をでっち上げることがまたもや行われたのだ。

 

 これに対して、柴山文部科学大臣は「恣意的な操作は一切ない」と答えている。

 

www.itmedia.co.jp

 

 

 大臣が官僚に問い質せば、「恣意的な操作は行っていない」と答えるだろう。こういう場面こそ、議員の側の胆力が問われていると思うが、どうやら、柴山大臣は期待薄らしい。

 

 自民党内の手続が進まないと、改正案が国会で審議されることにはつながらない。この後、自民党内でどのように処理されるのか、現段階では不透明であるが、その動向を注視するとともに、相次ぐ官僚の暴走に対しては特に野党からの厳しい追及を期待したい。