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電気通信事業法改正 携帯通信料値下げへ スマホの通信料と端末代の完全分離は是か非か

 

 

 

3月5日、電気通信事業法の改正案が閣議決定された。今回の改正案はスマホなどの端末代金と通信料金を完全分離することによって、通信料金の引き下げを狙い、携帯電話市場の競争を促すことを目的としている。端末と通信を完全分離することによって、通信料金体系をわかりやすいものにし、その料金も大幅に値下げが可能という判断だ。

 

 

10万を超えるスマホを安く買えていたワケ

 

これまで通信事業者は通信料金と端末代金をまとめて支払う料金体系にしており、購入した端末ごとに異なる割引料金が設定されているため、利用者にとっては料金体系がわかりにくいという指摘があった。

 

最近のスマホは多くの機種が高額路線を歩んでおり、端末価格は10万円を優に超えるものが数多くある。これでは消費者が簡単にスマホを買えないため、購入価格を安く抑え、本来価格との差額分はその後の通信料金に上乗せして回収してきた。契約の2年縛りはその目的でもあった。

 

 

今春、携帯の通信料は劇的に下がる

 

果たして、今回の完全分離は吉と出るか、凶と出るか、どちらだろうか。単純に考えれば、総務省の狙い通り、通信料金は下がり、消費者はハッピーだろう。すでにKDDIやソフトバンクは分離プランを導入済みだが、ドコモも4月-6月期に通信料金を20%〜40%値下げする方針を示している。ドコモが出してくる料金体系によっては、KDDIやソフトバンクもさらなる値下げに踏み切る可能性も出てくるため、これで一気に通信料金は下がると見ていいだろう。

 

ただ、一方で考えたいのは、今回の値下げの議論の端緒がどこにあったか、である。これはもともとは菅官房長官の「日本の通信料金は高い」という発言から始まった。2018年8月のことだった。この発言を受けて、今回の完全分離の法改正を待つまでもなく、KDDIとソフトバンクは料金の値下げに踏み切ったのである。

 

資本主義経済を標榜する我が国において、本来、経済の競争原理に基づいて価格が決まるのがあるべき姿だ。それが政治家の発言によって、価格が動くというのは本質的にはよいことではない。

 

 

スマホ不況がやってくる?

 

しかも、今回の端末と通信の完全分離によって、通信事業者各社がもっていた端末購入補助が禁止されれば、消費者にとっては最終的なトータルコストは上がる可能性もある。スマホの買い替えサイクルは今後、益々長くなっていくだろう。現時点でもその傾向は確認されているが、今後はさらに伸びるはずだ。基本的には消費者にとっては歓迎すべき法改正ではあるが、これがきっかけとなりスマホ不況がやってくるかもしれない。

 

それともう一つ、指摘しておきたいことは、早ければ2019年からスタートすると言われている次世代移動体通信、いわゆる5Gの時代に「端末と通信の完全分離」がふさわしいのか、という点である。5Gは超高速通信に加えて、超多点接続、低遅延という特徴を備えており、そのアプリケーションは医療、農業、物流、スポーツ、都市開発と従来の携帯電話の枠を大きく離れていくとされている。いわゆる、IoT時代の到来である。

 

 

IoT時代に完全分離は時代遅れかもしれない

 

私たちの身の回りのあらゆるモノに通信モジュールが組み込まれ、5Gネットワークを使ってデータがやり取りされる。そのときに、各種デバイス(端末)と通信の完全分離はとても現実的とは思えない。どこかで運用面の見直しの議論が起きるはずだ。

 

今回の法改正は各分野の有識者を交えて、議論してきたこともあり、一定の理解を得られると思うが、さりとて、IoT時代のモノがネットに繋がる時代を見据えて議論された節は見られない。あくまでも現行のスマホを使ってデータをやり取りする現状に対しての課題を解決したに過ぎない。

 

そういう意味で、今回の電気通信事業法の改正の議論に当たって、国会ではこれから訪れる社会の大きな変化を見据えた、骨太な議論を期待したい。