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安倍総理の外国訪問に振り回される国会

 

 

 

地球儀を俯瞰しても訪問回数自体は多くない

 

 地球儀を俯瞰する外交を標榜する安倍総理。政権に返り咲いて以降、積極的に諸外国を訪問している。首相官邸のWebサイトによると、訪問回数70、訪問国・地域76、のべ訪問国・地域156、飛行距離1,358,617 km(地球 約33.97周)といった具合に、世界中を回っているのである。

 

www.kantei.go.jp

 

 

 歴代総理の外国訪問については、過去10年分が外務省のWebサイト上で情報の公開がなされている。

 

総理大臣の外国訪問一覧 | 外務省

 

 在任期間に差があるため、単純に回数での比較は出来ないが、この10年間での総理の外国訪問回数は以下の通りとなる。

 

安倍総理(第一次)    8回
福田総理        8回
麻生総理        13回
鳩山総理        10回
菅総理         7回
野田総理        16回
安倍総理(第二次以降)  70回

 

 第一の安倍総理以降、野田総理までは、ほぼ在任期間が1年前後であり、1年で10回前後の外国訪問を行っていたことがわかる。
 一方、第二次以降の安倍総理の場合、最近は1年に10回の訪問であり、前の歴代の総理と比較しても少し多い程度である。それでも総数が多くなっているように見えるのは、政権に返り咲いた直後の2013年に13回、次の2014年に14回の訪問を行っていることが大きく影響している。2015年以降は、ほぼ年10回のペースを守っている。そういう意味では、地球儀を俯瞰すると標榜して訪問回数や移動距離を誇るほどに世界中を飛び回っているのかというと、少々疑問符が付くところなのだ。

 

 いずれにしても、国会の審議状況との兼ね合いもある中で外国訪問を敢行せねばならず、年10回程度の総理による外国訪問というのが現実的なところなのだろう。

 

 

通常国会の開会を後ろ倒しに

 

 2019年1月にも、安倍総理は早速外国訪問を予定している。それも1月中に複数回の訪問を予定しているようだ。この1月中の複数回の外国訪問は2014年以来のこととなる。
 1月は通常国会が始まる月でもあり、重要な予算審議もあることから、国会日程の合間を縫って外国訪問を行うことが必ずしも容易ではないのだが、来年はあらためて安倍総理は外交に力を入れ直すということなのだろうか。1月初旬に予定されていた通常国会の開会を1月後半に移動させてまで、外国訪問の日程を組もうとしているようだ。

 

 総理が外国を訪問すること自体は否定されるべきではなく、むしろ積極的に外交を行うという意味では、機会をとらえて外国への訪問を進めるべきだろう。
 しかし、総理の外国訪問に国会の日程が強く影響を受け、国会審議が総理の外国訪問に振り回されるとしたら、それは考えものだ。「総理が外国訪問をするから、日本を発つ前に早く法案を通そう」などといった動きが見られるようであれば、外国訪問の在り方も見直さざるを得ない。
 実際、入管法改正に関する審議についても、安倍総理の外国訪問との関係が取り沙汰されたばかりだ。これまでにも、総理の外国訪問があるので審議を早めて法案採決がなされるということはあった。
 外交も重要ではある。ただ、総理による外国訪問を使って、法案審議を等閑にするようなことは厳に慎むべきだろう。来年の通常国会の開会の後ろ倒しも、安倍総理の外国訪問のためであるとすると、「国会審議から逃れるために、外国訪問を予定しているのではないか」と勘繰りたくもなる。

 

 

計画的な外国訪問と国会の審議日程の調整を

 

 上に紹介した歴代総理の外国訪問に関する外務省のサイトを改めて確認すると、あることに気付くはずだ。それは、歴代総理の訪問先の中には、誰が総理であっても訪問しているものがあることである。
 その代表的なものは、G7(G8)やG20、ASEANやAPEC、国連総会などである。それらは開催時期がある程度決まっているため、事前の予測が可能である。それらの外交イベントについては、基本的に総理が参加するのであって、本来は、それに合わせて事前に国会日程も調整しておけば良い。

 

 対して、上記以外の外国訪問については適宜調整が行われているわけだが、いずれも相応の時間をかけて準備がなされている。それは訪問先の外国政府との調整も必要とされるからだ。だからこそ、どうしても一度決めた外国訪問は日程も変えづらく、それら外国訪問の日程を優先して、国会の日程をそれに合わせるということが行われがちになる。

 

 時に、総理の外国訪問が取りやめになることもある。その場合、まことしやかに「野党が国会審議で邪魔をしたため」といったことが語られるが、それは間違いである。
 というのも、前に指摘したようにG7などのイベントは随分前に日程がある程度決まっている。また、その他の外国訪問も相手先との調整もあり、突然訪問が決まることは稀で、ある程度前には日程は決まっている。かように、総理の外国訪問の日程はある程度前から決まっているにもかかわらず、それに合わせて適切に国会の審議日程を調整しようとせずに、場当たり的に事に当たる与党に問題がある。
 だからこそ、総理の外国訪問が無理な国会審議の免罪符や国会審議からの忌避のために使われているのでないかとの疑念も生じさせるのだ。

 

 そのような疑念を生じさせないためにも、総理の計画的な外国訪問と国会の審議日程の適切な調整を願いたいところである。2019年の通常国会は安倍総理の外国訪問のために、その開会が遅くなるのかもしれないが、開会後の150日の国会日程は安倍総理の外国訪問に大きく振り回されないことを願いたい。