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「建国100年」のIT最先進国・エストニアに注目

 

 

 

ソ連から悲願の独立を勝ち取ったエストニア

 

 今、エストニアが注目を浴びている。このブログでも再三にわたって、同国のデジタル国家、デジタル行政への取り組みが紹介されてきた。その中身については、繰り返して説明する必要もないだろう。

 

 ソ連が崩壊し、かつて連邦を構成していた15の共和国は、それぞれが独立国としての道を歩むこととなった。その中でもバルト三国は、1991年8月20日に先んじてソ連邦から離脱して、独立を勝ち取っていた。

 

 エストニアもその一つであり、ロシア革命によって帝政ロシアが崩壊していく中で、1918年2月24日、いったんはロシアからの独立を果たす。今年は「建国100周年」の行事が盛大に行われている。しかし、第二世界大戦中、エストニアはソ連に併合されることとなる。途中、ナチスドイツにも占領されている。

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 エストニアが「電子政府」を成功裏に進めていることについては、いくつかの要因・背景があり、単純な決めつけはできない。ただ、その一つとして、エストニア人は国を守るためには全力で戦うが、万が一ロシアに再び領土を占領されても、電子の世界の中で生き残っていけば、国は存続できるという思いがあることも否定できないだろう。

 

 他方で、首都のタリンの街を歩いてみても、ロシア語を話している住民がけっこういることが理解できる。地域によってはロシア系住民の比率が著しく高いところもある。エストニア全体では4人に1人がロシア系だろうか。2007年には、ソ連兵士の銅像移転を巡って、ロシア系住民が暴動を起こし、ロシアとエストニアの関係が緊迫化したこともある。

 

 そうした事情はあるにせよ、エストニアが世界最先端IT国家の道を進んでいることは紛れもない事実だ。

 

 

エストニアとの租税条約が発効

 

 今年の1月から7月まで開かれた196通常国会で、11の条約が承認されている。TPP協定ばかりが注目されたが、いくつかの国との租税条約や投資協定もあった。

 

 そのうちの一つが「日本・エストニア租税条約」(所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とエストニア共和国との間の条約)である。

 

 これだけ世界から注目されているエストニアなのに、エストニアからは再三にわたって租税条約の締結の要望あったにもかかわらず、G7諸国でエストニアとの租税条約を締結していないのは日本のみであり、エストニアとの間で脱税・租税回避行為に対処するための二国間の枠組みが存在しないという状況にあった。ようやく、本条約は今年の9月29日から効力が生じることとなった。

 

 

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 エストニアの電子政府は、単に日本政府のモデルとなるとか、日本の企業の海外進出先になるといった次元だけの話ではない。一個人にとっても魅力的な取り組みなのである。

 

 「e-Residency」という仕組みがあるが、エストニアに行かなくても、一定金額の支払いや審査を経て、電子上の世界でエストニアの住民になることができるというものである。ここの住民になると、エストニアで会社をつくったり、金融機関の口座を持てたりできる。エストニアはEU加盟国でもあるので、EU内でも事業ができることになる。

 

 そして、あらゆる面で電子化が進んでいるので、納税をはじめとする手続きなどもコンピューターを通じて可能であり、一個人に対しても多くの可能性を与えてくれるものである。

 

 

行政の都合しか頭にない日本政府

 

 さて、日本のことになるが、エストニアの電子政府も参考にして、マイナンバー制度の創設、マイナンバーカードの普及をはかってきたと聞く。そもそも、何のための制度なのか、何が国民にとってプラスなのか今一つよくわからないところがある。住民票コードとも混同もされているようで、話がますますややこしくなっている。

 

 マイナンバー制度の運用だけが電子政府に関する課題ではないが、この制度については「国民の利便性の向上」もうたわれているが、行政の都合ばかりが優先され、国民を監視することばかりに主眼が置かれているように思われてならない。

 

 

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 いずれにしても、エストニアの事例は大変参考になる。ただ、外国の制度をあやかってばかりいてもしょうがない。あるいは、日本のマイナンバーとエストニアの国民ID(国民識別番号)を単純比較して、マイナンバーの批判だけしていれば良いというわけでもない。

 

 デジタル国家・電子政府のあり方については、真に国民の立場に立って、議論を行うべきであり。個別の役所の政策のホッチキス止めにならないよう、府省の縦割りは許さず、しっかりした理念と哲学に拠るものでなければならない。それと、そもそも政府が国民から信頼されていなければ話にならない。

 

政府や地方自治体における問題もさることながら、国会、政党における電子化やペーパーレス化も遅れている。 特に、最大議席を持つ自民党は役所からヒアリングなどを行う際は配慮がほしい。データだけ送ってもらって、部内はタブレットで閲覧するなどの模範を示してもらいたい。他の政党においても、同様のことが言える。