年の瀬が迫る、2019年12月27日、東京都知事の小池百合子氏は定例記者会見で、「ゼロエミッション東京戦略」と「気候危機行動宣言」を発表した。これまでに発表していた「ゼロエミッション東京の実現」をアップデートする形で、具体的なビジョンやそれに基づく取り組み内容、ロードマップを策定した。
東京都は戦略策定に当たって、3つの柱を打ち立てた。
(1)気候変動を食い止める「緩和策」と、既に起こり始めている影響に備える「適応策」を総合的に展開、
(2)資源循環分野を本格的に気候変動対策に位置付け、都外のCO2削減にも貢献、
(3)省エネ・再エネの拡大策に加え、プラスチックなどの資源循環分野や自動車環境対策など、あらゆる分野の取組を強化、である。
SDGsで政策をブランディングする小池都知事
そして注目は、この戦略の体系だ。東京都の資料はこう、ある。
「都の特性を踏まえ、6分野14政策に体系化し、2050年に目指すべき姿(ゴール)とロードマップを明示」、「2030年に到達すべき17の主要目標(ターゲット)と、その目標を上回るよう進化・加速する具体的取組「2030年目標+アクション」(47項目・82のアクション)を設定」。
どうだろうか。SDGsを完全に意識し、東京都の政策体系を整理した。小池氏といえば、小泉政権を支えた環境大臣だった2005年に夏の軽装キャンペーン「クール・ビズ」を打ち上げ、気づけば、今やクール・ビズは日本では当たり前となった。そう、小池氏は昔からこうした政策マーケティングは非常に上手かった。今回の、SDGsを強く意識したゼロエミッション東京戦略も気候危機行動宣言も、小池氏の面目躍如といったところだ。
戦略的に土俵を変える重要性
今こそ、野党はこの小池都知事のレバレッジを効かせた、政策マーケティングの手法を大いに学ぶべきだろう。野党の最大の問題は、常に自民党の土俵で戦っている点にある。相手が設定した論点で戦おうとすると、すでに向こうの思う壺だ。
それは憲法改正しかり、IRしかり、である。相手の土俵に乗った時点で、そのテーマについて「反対」するしか無くなってしまう。選挙を意識すれば、「ここの部分は賛成だけど、ここは反対」というのは有権者には分かりにくいからだ。その結果、野党は「いつも反対ばかりしている」政党というイメージが有権者に刷り込まれていく。
ポジティブワードが有権者の心を掴む
かつての「非自民」だけを訴えていれば票が入った時代ならいざ知らず、今は「非自民」はネガティブワードだ。野党がやるべきは、いかにポジティブワードを口にできるか、が勝負のポイントだ。だからこそ、相手の土俵に乗るのではなく、自らの土俵を作るしかない。
そこで小池都知事が打ち出した政策をもう一度見てみよう。これはまさにSDGsを軸に、新しく土俵を用意してしまったと言えるだろう。政策そのものにはそれほどの新鮮さはないものの、すべての政策をSDGsを軸にプロデュースすることで一気にその見え方を変えてしまった。2020年、年明け、春、オリンピック後、様々なタイミングで解散総選挙がささやかれる。これを受けて、立憲民主党と国民民主党は合流に向けて協議が進んでいる。
政策マーケティングが野党の未来を切り拓く
だが、今のまま合流しても、旧民主党の再結成にしか見えないため、国民の期待も高まらないだろう。今掲げている政策をすり合わせて、永田町の論理でなんとか辻褄を合わせたとしても、そこに有権者がワクワクするものは生まれない。
だからこそ、マーケティングの姿勢が大事なのだ。自民党にはない、新しい軸を打ち出し、その軸に沿って政策を並び替えることで、その見え方は劇的に変わるはずだ。今こそ、小池氏に学ぶところは多い。