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遠のく参議院の1票の格差是正

 

 

 

参院定数6増案、参院通過

 

 11日、参議院の議員定数を6増する法案が参議院を通過した。
 この法案が自民党の党利党略を優先するものであることは既に指摘したとおり。

 

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 野党は対案を提出していたが、それらは採決されず、自民党案の採決が強行されたかたちだ。


 法案は衆議院に送られたが、これを受けて、衆議院政治倫理確立・公職選挙法改正特別委員会は、委員長の平沢勝栄議員(自民党)による職権により、13日に提案理由説明と質疑を行うことを決定した。11日の参議院通過から時を置かずに、審議を急ぐかまえだ。


 13日の質疑は自民、公明両党のみが行い、さらに週明けの17日に野党の質疑を行った上で採決に持ち込むというのが与党側の考えであり、早期の法案成立への強い思いが滲む。

 

 

会期末へ向けた拙速な審議

 

 7月22日が延長された今国会の会期末。審議に残されたのは、実質的に13日と17日から20日の計5日間。通常国会の延長は一回しか出来ないので、これ以上の審議は不可能である。

 

 この法案が衆議院も通過すると、参議院の定数が増加する。この参議院の定数増は、沖縄の本土復帰に伴うものを除くと、現行の憲法上で初の出来事だ。


 定数増そのものを一律に否定すべきではないが、これまでにない大きな変更を加えることになる以上、慎重な審議が求められるはずだが、参議院での審議もごく僅かの時間であった。このままでは、衆議院でも数時間の質疑で採決ということになる。


 会期末ということを考えても、これだけの重大な法案が数時間で採決にまで進んでしまうというのは拙速であると言わざるを得ない。

 

 来年夏に予定されている参議院議員選挙に間に合わせるためには、この段階で法案を成立させる必要があるとのことだが、会期末が迫ってきた途端に随分と法案成立を急ぐ印象しかない。

 

 

抜本的な1票の格差是正策からは遠い

 

 今回の法案の企図の一部には、参議院の1票の格差是正ということがある。そのために、埼玉選挙区につき定数1増(改選を含むと計2増)される。


 この埼玉選挙区の定数増については、国民民主党の案も同様であった。

 

 ただ、この埼玉選挙区の定数1増だけでは、抜本的な是正にはまだ遠い。あくまで、弥縫策に留まるのだ。


 もし1票の価値の格差是正を図るのであれば、更なる定数の増加や合区の促進が必要とされる。しかし、そういう改革に踏み込むことはなく、埼玉選挙区だけの調整を行い、あとは自民党の党利党略を優先した比例区の制度変更と定数増を図るというのだから、極めて後ろ向きな対応が今回も行われたとしか言えない。

 

 予定されている衆議院での審議時間では、議論が深まることなく、抜本的な1票の格差是正策を検討する機会も訪れないだろう。

 

 

思えば、「定数削減」から始まった安倍内閣

 

 2012年11月当時、野田総理は2013年の通常国会までに衆院議員定数を削減する確約を自民党の安倍総裁から得たことと引き換えに、衆議院を解散した。その結果として誕生したのが現在の安倍内閣である。


 衆議院の定数削減の約束ではあったが、安倍内閣の始まりが定数削減の約束であったことは紛れもない事実だ。

 

 結局、衆議院の定数削減は2017年の総選挙時に小選挙区で0増6減、比例代表区で0増4減の計10減が実現しているが、対して、このままでは参議院は議席増という反対の道をたどることになる。


 参議院で6増がなされれば、国会全体で見た時には、議員の削減数は減ることになる。

 

 今回、自民党の党利党略が優先され、鳥取・島根、徳島・高知の各合区で候補者となれなかった者を比例区で救済する策が導入されることになる。


 このように割を食った地域の候補者を救うというのであれば、先の衆議院の定数削減で議席が減らされた青森、岩手、三重、奈良、熊本、鹿児島の6県についても救済策を導入しようという話にもなりかねない。


 もちろん、現在の衆議院議員選挙の比例代表選挙は拘束名簿式を採用しているので、上記の定数を削減された地域の候補者を名簿上位に遇することで救済を図ることが可能ではあるが、その分、下の順位になる候補者が割を食うことになる。そういう候補者も救済するために、今度は比例代表の定数増などといったことも検討されかねないのだ。

 

 安易な参院の定数増は今後の更なる野放図な定数増を招きかねない。


 最後は与党の数の力で押し切ることになるのが目に見えてはいるが、出来ることであれば継続審議も含めて検討されることを願いたい。