霞が関から見た永田町

霞が関と永田町に関係する情報を、霞が関の視点で収集して発信しています。

MENU

内閣府による「人手不足」の強調

 

 

 

 11月27日、人手不足の解消のために外国人労働者受け入れ拡大を企図した入管法改正案が衆議院法務委員会で採決された日に、内閣府が「地域の経済2018」を公表した。

 

地域の経済2018 - 内閣府

 

 この報告書は題名通りに地域の経済の概況をまとめたものだ。毎年公表されていることから、これを見ることで地域の経済の概況を把握出来るという意味では、大変有用な報告書である。
 本年度は現政権が進める取り組みに随分と沿った内容になっている。というのも、本年度の目次を見て欲しい。

 

 第1章 地域における人手不足問題
 第2章 インバウンド需要の取り込みに向けて
 第3章 2017年から2018年にかけての各地域の経済動向

 

地域の経済2018

 

 第1章に、人手不足問題を掲げられている。まさに入管法改正案でも問題となった地方での人手不足問題が前面に打ち出されているのだ。

 

 参考までに昨年度の同報告書の目次は、以下のとおりである。

 

 第1章 地域別にみた経済の歩み

 第2章 地域の「稼ぐ力」を高める

 

地域の経済2017―地域の「稼ぐ力」を高める―

 

 毎年、その力点の置き方は変わるので、今年が特別というわけではないのかもしれないが、発表の時期も、ここ数年は8月であったところ、今年は11月になるなど、内閣府の何らかの配慮がそこには透けて見える。
 もう少し早く公表されれば、国会審議でも取り上げられた可能性もあるが、少なくとも衆議院での法案審議で、この報告書の内容が取り上げられることにはならなかった。

 

 

人手不足の原因には雇用のミスマッチも含まれる

 

 ところで、内閣府が日本銀行に対してGDPの元データを出し渋ったことは、ここでも指摘したところである。

 

www.ksmgsksfngtc.com

 

 その内閣府が出してきた報告書ゆえ、その信頼性に疑念を持たないわけではないが、一読すると、よくまとめられた内容であるという印象を抱く。端的に言えば、日本は「人手不足」の状況にあり、「労働生産性の向上」が必要とされるというのが報告書の強調するところである。各種調査の結果など用いて、説得的な議論がなされており、これだけ見せられると、確かにそうだろうと納得させられる。
 ただ、その根拠として用いられるのが、これまた先ごろから資料の改竄を繰り返し指摘されてきた厚生労働省による発表資料だったりするわけで、本当に人手不足なのか、少し疑ってみたくもなる。

 

www.ksmgsksfngtc.com

 

 あらためて報告書を読むと、気になる記述に行き当たった。それは雇用のミスマッチの問題だ。求人側のニーズと求職者側のニーズが一致しないことで起きる雇用のミスマッチ。報告書では、地域間の雇用のミスマッチの高低について分析が加えられている。そして、本文とは別に、そのコラムの中に、次のような指摘がなされている。
 「事務職などの職に求職者が多く集中する度合いが近年高まっている」

 

 事務職で働きたい求職者が増加する一方で、事務職での求人はそれに追いついていない。つまり、求職者が働きたい職種と求人側が雇いたい職種が一致しないのである。この擦れ違いが続く限り、人手不足は解消されない。

 

 報告書でも言及されているが、日本は人口減少の局面になるので、当然、労働生産人口は減少する。それまでと同じ就業者数を維持するのであれば、人手は黙っていても足りなくなるのだ。その不足を補うためには、どこからか人を連れてくるか、一人当たりの生産性を上げるしかない。これが内閣府の報告書が示唆する結論である。
 ただ、問題はそれだけではなく、雇用のミスマッチという問題もあるということになる。これは、人を増やしたり、生産性を上げたりしても、それだけでは解決出来ないから厄介だ。

 

 

労働者の「数」を増やすだけでは解決しない

 

 国会で多数を握る与党が成立を目指しているので、入管法改正案はこのまま時間がかかるとしても成立することになるだろう。これにより、外国人労働者の受け入れが増大すると想定されている。
 しかし、あらためて、内閣府の報告書の記述から考えておけなければならないことがある。それは、労働者の「数」を増やすだけでは問題解決にはならないということである。

 

 国会の審議過程でも、受け入れる外国人労働者は特定分野に限定されるとの答弁が安倍総理や山下法務大臣で繰り返された。だが、果たして、どうだろうか。日本で働きたい外国人と受け入れる分野がすんなりと一致するのだろうか。
 例えば、高度の技能や知識を必要とする分野ということであれば、当然に、日本以外の国でもそのような分野の人材を必要としている。そういう人材が日本に直ぐにやってくると考えるのは安易というものだ。

 

 日本で働きたいと思う外国人と日本で提供される職種のミスマッチをいかに解消するのか。この点への配慮を欠き、単に人手不足の数の側面にばかり気を取られると、結果として問題解決からは遠ざかる可能性もある。
 とにかく足らないから増やす。そういう安易な発想のもとで、政府与党は外国人労働者の受け入れを増加させるための施策に必死だ。ただ、何が問題になっているのか。内閣府という「身内」が出してきた報告書を確認することが、現政権には必要とされているのではないだろうか。

 

 もしや、法案成立の日に合わせて、こっそりと報告書を公表させたということではないことを願うばかりである。