霞が関から見た永田町

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首都直下型地震への備えは大丈夫か

 

 

 

最大震度7の揺れを観測した、北海道胆振地方を襲った「平成30年北海道胆振東部地震」。発災から3日が経過した今もなお、懸命な急遽活動が続いている中で、改めて都市部の脆弱性が浮き彫りになっている。それは「物流」だ。

 

9月8日付の朝日新聞の報道によれば、物流がストップしたままで、コンビニエンスストアやガソリンスタンドで物資が不足した状態が続いているという。

 

 

物流にも影響を与えたブラックアウト

 

背景には停電がある。停電により、多くの地域で信号機が止まり、道路の安全が確保できなかったこと。ガソリンの供給にも影響が出たのは、港にある貯蔵施設が停電で一時停止し、ポンプが稼働しなくなった。これによりガソリンを出荷することができず、ガソリンスタンドはもちろん、トラックも動けなくなってしまった。まだ、ある。停電は工場にも影響を与えた。弁当をはじめ、乳製品を製造する工場も停電によりストップし、ようやく稼働が始まったばかりで、供給が追いついていないのだという。

 

1日も早い復旧が望まれるところだが、こうした現状を見ると首都直下型地震が発生した時の想定を今一度、見直すべきだろう。一般にこうした震災が発生した際には、最初の3日間は自分たちでなんとか過ごしてほしいという自助、共助の考え方で現在、各自治体の防災計画は策定されている。4日目からは様々なルートを通じて、全国各地から物資やボランティアの人たちが集まってくるからだ。これは過去の経験則からも一つの事実として言えることだ。

 

 

人口3000万に対してわずか3日で支援体制が築けるか?

 

さて、ここで考えたいのが、首都直下地震でも同じ想定でいいのか、ということである。東京都だけでも人口は1300万人。東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県のメガ東京圏の人口は3000万人を超える。日本の総人口の1/4が集中するエリアに、果たして十分な物資がわずか3日で集まり始めるだろうか。

 

北海道の人口は約550万、先日豪雨が襲った広島県、兵庫県の人口は約800万、これを日本全国で支えるわけだが、首都直下型地震の場合には、メガ東京圏3000万人が被災者となる。果たして、本当に3日で物資が届くだろうか。

 

現状の国の計画では東名高速道路や中央高速道路などを通じて、物流は回復するとされており、自治体はそれに基づいて防災計画を策定している。防災訓練で市民に「3日分の食料、水を家庭で備蓄しておいてください」と案内しているのはそのためだ。

 

 

後藤新平の帝都復興計画で見捨てられた横浜

 

筆者はこの想定は甘いのではないかと常々感じている。もちろん、東京は日本経済の中枢であるし、国際的な競争力は落ちてきたとはいえ世界経済への影響も大きな都市だ。したがって、そこが被災したなれば、各国からの支援は集まると思うが、その支援にも優先順位がつくだろう。

 

有り体に言えば、千代田区や品川区、港区など、東京の中でも中心部から手を差し伸べられるはずだ。東京都の多摩郊外や、ましては神奈川、千葉、埼玉の優先順位は低くなるはずだ。

 

前例がある。関東大震災だ。教科書でも関東大震災は東京の下町で最も被害が大きかったと書かれているのが、実は一番大きな被害が出たのは横浜だった。しかし、そのことはほとんど知られていないし、何より、関東大震災後、明治政府で内務大臣を務めた後藤新平が策定した帝都復興計画の対象は東京の中心部だけが対象だった。

 

東京以上に甚大な被害が出た横浜は帝都復興計画の対象から外され、自らの力で立ち上がるしかなかった。意外に知られてない事実である。

 

 

シン・ゴジラの「タバ作戦」が意味するもの

 

「そんなの昔の話ではないか」と思う人もいるかもしれないが、2016年に大ヒットした映画「シン・ゴジラ」を観た人は気付いただろう。ゴジラが稲村ガ崎から再上陸し、横浜を経て武蔵小杉へ至った際に、日本政府が発動した作戦が「タバ作戦」。多摩川の河川敷を最終防衛ラインに設定していた。

 

映画の話、とバカにしてはいけない。あれが現実だ。映画ですら、多摩川を最終防衛ラインの設定しているのである。彼らも映画を作る際に、様々緻密な取材やリサーチを重ねている。その上で、多摩川最終防衛ラインの設定なのだ。

 

北海道でさえ、物流が滞っている現状は首都圏に住む人たちにとっては他人事ではない。むしろ、その何倍も大変な状況が生まれるはずで、この辺は永田町でももう少し緻密に、悲観的にシミュレーションしてほしいし、議論と世論喚起をしてほしいものだ。